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★レシピ★ * 26 * 黒装束の二人


時間的には『あの橋』の『人の子の事情』の、しばらく後の時間軸。


読んでいない方にしてみたら、『イミフ〜★』もいいところでございましょうが。


こういうしょうもない帳尻合わせは好きです。




 

 ――気に入った?

 

 うん。キレイね、これ。キラキラして、透明によく澄み切って。これ・・・なぁに?

 

 ――うん。キレイでしょう。

 

 うん!ありがとう。でも・・・本当にコレどうしたの?

 

 ――これはね・・・・・・。『星のカケラ』なの

 

 えぇっ!?

 

 ・。・ ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ ・。・

 

「これはこれはこれは――・・・・・・・。実に可愛らしい娘さんだ。こんばんわ、お嬢さん」

「こんばんわ。はじめまして」

 寝ぼけまなこでタバサは挨拶を返した。眠い目をこすりながら。

(また、知らない人に知らない場所・・・・・・?)

 ここはどこですか。見渡した所、ジャスリート家ではないのだけはわかる橋のたもと。ふと見上げれば翼持つ獣の像が、こちらを見下ろしていた。

 街中ではなさそうだ。辺りに民家らしき明かりも見当たらない。風が吹きぬけて行く、開けた場所は街から随分離れた場所のはずだ。

(私・・・・・・帰れるのかしら?そもそも、帰してもらえるのかしら?)

 そう疑問を口にするよりも早く、タバサを覗き込んでいた男性が振り返って背後の影に怒鳴った。

「――どういうことだっ、リゼライっ!?」

「どうしたもこうしたも存じ上げません」

 はっはっはっはっはと乾いた笑い声に出迎えられて、タバサはまたどうしようもない――『あの気持ち』に襲われた。

 あの女神像の前で『ララサではないのか』とため息付かれた時と同じ。

 そんなの私のせいじゃない!そうは思うのだが、どうしても申し訳なさが顔を出すのだ。

 ともあれ目の前のこの男の人とは、初対面で間違いないはずだ。タバサは当然・・・尋ねた。

「――おじさん、だぁれ?」

おじさん(・・・・)っ!」

 タバサは地べたに直接座り込んでおり、見上げる形で小首を傾げた。

 真っ黒い衣装にこれまた、真っ黒の外套(マント)。頭にも真っ黒の布地を巻きつけて、覗き見えるのは目元だけ。

 でも声と雰囲気から察するに、年の頃は中年だと見当付けたのだ。多分、自分の父親くらいの歳だと。

「その通りではございませんか?」

 頭を掻き毟るように両手で抱えている男性の傍らに控えた、線の細い小柄な女性が答えた。淡々と。

 彼女もまた全身真っ黒の出で立ちで、頭からベールを被っている。同じく覗くのは目元から上、額だけだ。

 額には真紅の飾り玉が、彼女の眉間で揺れていた。彼女の眼もまた蜂蜜色なのをタバサは見止める。

 濃厚な蜂蜜に挟まれた、煮凝ったかのような鮮血の紅。それはまるで彼女の第三の目のようだ。

 タバサはその真紅に見覚えがあった。どこでだったかは、いまひとつ引っかからないが。

 

「リゼっ!これはどういう事だっ!?ディーナ嬢の寝室はあの部屋だったろうが」

「わたくしには存じかねます」

「リ〜ゼ〜・・・・・・頼むぜ、本当に」

「わたくしの約束は”獣を聖句で魅了して”なおかつ”部屋の主をギル様の元にお連れする”の二点のみのはずですが、何かご不満でも?」

「その部屋の主じゃないじゃない場合は!契約不履行だろ!〜〜〜どうなっている」

「で・す・か・ら・存じ上げません。しいて言うなら――あちら側がまたしても一枚上手だったのでは、としか申し上げられませんね。きっと彼女(・・)騎士団(ナイツ)が不埒な考えを持つ者の邪念をいち早く察知して、対策を練っていたと解釈するのが自然かとオモイマスがいかがでございましょうか?」

 淡々と――。かつ、きっちり。そこに容赦と言う言葉は微塵も感じられなかった。と、言うよりもこの女性は『ほら見たことか』と言いたいに・・・言っているに違いない。

 タバサは、彼女の抑え込んでいるであろう怒りの欠片を感じていた。それにこの『おじさん』はなぜ気がつかないのだろうか?

(鈍いのだろうか)

 それは――。羨ましいような。そうでもないような要素である。

 気付かないのは幸せかも知れないが、大事な事を見逃すおそれもあるものだ。タバサは二人を見守った。

「リゼ。貴様は誰の味方なんだ」

「――。」

 何も答えない、リゼと呼ばわれる女性の唇の端が持ち上げられた気がした。真実はベールの下なので、確かめようもなかったがタバサはにはそう思えてならなかった。何て不敵に笑うのでしょうか、こちらのお姉さんは。といった調子で思わず目が釘付けになってしまう。

 

 急に寒さを覚えたタバサが、思い出したように自分の両腕で己をかき抱いた。

 展開に驚いて気が回らなかったが、タバサは今とても薄着なのだ。しかもこれはディーナ嬢の服。

 とても着心地良くてよろしいのだが、それも屋内ではならの事。春とは言えこんな夜中は、まだまだ冷える。

「・・・・・・アンタたち」 

 リゼ、と先ほどから呼ばわれている女性が獣二頭に目配せを送る。その濃い蜂蜜色の眼差しを向けられて、タバサは何となく落ち着かない。

 闇の中――灯された僅かばかりのかがり火が、二人の輪郭をゆらめかせて浮かばせている。

 それだけの灯かりではなかなかタバサとて周りが見えるはずも無いのだが、どういうわけか二人は明るく照らし出されて見えるのだ。

 額の紅玉が顎をしゃくった彼女の額で揺れる、その細かな様までがタバサには見えていた。まるで、その存在感を主張するかのような。

「お嬢さんが寒がっているから。ほらほら、毛皮を貸してやるのよ」

 命じられるなり、二頭は左右からタバサを挟み込むようにして身を寄せてくれた。その途端、もふっとした温かさがタバサを包み込んでくれる。

 くるくる・ほわほわに包まれて、タバサは何とも幸せだと思った。

(わあ・・・!素敵です)

 タバサはうっとりと目を細め、その柔らかさに迷うことなく両手を伸ばしていた。獣たちの首を抱え込む形で、より一層密着させる。

 獣たちはいたって大人しく、タバサのしたいようにさせてくれているようだ。

 調子に乗って『ふわ・ふわ・ふっわ・ふわ!』と軽く歌うように呟きながら、タバサは獣の毛並を堪能する。

「あなた・・・ねぇ。私が言うのもなんだけど、もう少しは慌てたら?」

「慌ててもどうにもならないので、慌てる気もおきません」

「――そう。あなたもちょっと変っているみたいねぇ?獣が怖くないみたいだし。あなた館では見たことの無い顔だけど、ディーナとはどんな関係なの?」

「ディーナ様とですか?ええと、今日お会いしたばかりです」

「そう・・・・・・。あの『箱入り』と接触が許されるなんて、何者あなた?」

(そう仰るお二人こそ、何者かと思いますが〜・・・?)

 タバサは上目使いで窺いながら、慎重に答えた。

「ただの飴屋の、菓子売りの娘でございます。まぁ、そのぉ。色々とありましてですね〜連れて来られたのです」

「何、あなた貴族じゃないの?その格好はじゃあ、あの子にさせられたくち(・・)かしらね?」

 そうなのだ。正しくはルゼ様とディーナ様のお見立てだ。

(貴族様などとは!・・・・・・滅相もございません)

 タバサは無言で頷いた。うな垂れた、と言ってもいい。意識もしっかり覚醒し、改めてこのまとう衣装に気後れしたからだ。

『囚われのお姫様にふさわしい格好をしましょうね、タバサちゃんや――ね?』

 そう、有無を言わせず着替えさせられたドレスは、タバサをより一層心細くさせた。

 はっきり言ってあちこち余裕が無さすぎるのだ。ゆったりした、いつもの着慣れた服とは全然違う。その縫製から型から、何から何まで。否が応でもタバサに緊張を強いてくれるったら、ない。

 嫌でも姿勢を正さずにはいられないのだ。何せだらしなく背中を丸めようものなら、息がし辛い。

(ううぅ〜ディーナ様〜華奢すぎます〜・・・)

 曲がりなりにも菓子屋の娘はふくよか・・・過ぎるのかもしれない。タバサは今までそんな事を気にしたこともなかった。

 だがこういう服を着させられて、初めて解る事もあるものだろう。そうして蘇ってくる言葉もまたあるようだ。

(【――春の乙女の衣装は体の線が出るから・・・ガンバって?】)

 などと言われたのも、記憶に新しいタバサである。

 大事なお役目の儀式の衣装は、きっとタバサなどお目にかかったことも無いような、さぞや立派なものなのだろう。

(きっと・・・・・ディーナ様みたいな華奢で綺麗な、お嬢様が身に着けるに相応しい作りに違いない)

 タバサは思わず己を見下ろした。胸元は締め上げられ持ち上げられた格好だし、腰周りも限界ぎりぎりまで余裕の無さ。

 いかにほっそりとくびれさせ、胸元をふっくらと見せるか。それがこの衣装の目的なのだ、多分。

 女性らしさを――着る者にも見る者にも、意識させる。

 さらっとした滑らかな手触りの生地は恐らくは最高級品の―― 絹(シルク)

 その艶のある光沢は、それはそれは優美だ。それが街娘には分不相応な品だと言う事くらい、誰に言われずともタバサとて承知している。

 タバサは仕立て屋で生地を見立て、自分で衣服はこさえているのだ。

 品によって、それなりの金額が付けられているのくらい学習済みである。

(こういった物を普段から着こなせる事こそが!・・・でしょうねぇ、お嬢様っていうのは。私には無理なようです)

 薄淡い翠の色彩が美しく、それを互い違いに重ねたドレスは歩くたびにひるがえり表情を変える。

 派手な装飾すら無いものの、不思議と華やかさを醸し出している。それこそが一級品の証なのだろう――。

 タバサとて曲がりなりにも『商人』の端くれ。目は利くほうだ。いい物は主張しないが、存在感が半端ではないのを経験上知っている。

 そうなのだ。気心地は良いのに、タバサの気持ちはなぜか沈む。

 鏡を見て思ったことは、この衣装はお嬢様のための物だという事。――自分ではなく。

『わぁ、タバサちゃん!かわいい〜お姫さま〜』

 そんな無邪気な賛辞にタバサは力なく笑って見せたが、何故だか次の瞬間には涙が零れるという失態をやらかし。

(せっかく、お褒めくださったのに。何故、涙よこぼれるのだ?)

 しかも止め処なく。

『タバサちゃん、どうしたの?・・・・・・帰りたくなっちゃった?』

 宥められてお茶を勧められ――。気がついたら寝台の上。そして現在に至る。やれやれ。

 

 ・。・ ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ ・。・

 

 タバサはじっとリゼという女性を見つめていたが、ふいに思い当たって声を上げた。

「おそろいみたい」

 慎重に眉間の紅玉を指差す。

「何が?」

「――ダグレス様(・・・・)と」

 思わず指差して答えたタバサの、人差し指を勢い良くリゼははね付けた。ぺしんっと小気味良く、叩かれた指先同士が音を響かせる。

 タバサが驚いて目を見開いているだけの間に、リゼは立ち上がると両手を打った。

 

『退却です!四の五の言わずにずらかりますよ(・・・・・・・)、ギル様!!』

 

 それを合図に気配が変る。場の空気が。この場を支配する権利を主張する者の、圧倒的な気配が。

 

 ・。・ ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ ・。・ 

 

 ばささ、と夜風を切って舞い降りたのは、二羽の孔雀たち。

 

 ””タバサ嬢、発見!!””

 ””――発見!””

 

 そして――。

 闇の中から一歩を踏み出そうとする、これまた闇をまとう・・・獣。

 タバサも含め、人の子一同はその気配に身構える他はない。

 焚き火の炎が届かぬ木陰から、獣が息を潜めているのだけは伝わってくる。

 彼がいつ踊りかかって来てもいいように。

 男性の方は剣を。女性の方は小刀を構え、タバサは両脇を固める獣たちにしがみ付いた。

 

 闇の中からこちらを窺っているであろう、その獣の(まなこ)は果たして何色だろうか。

 



『おいおい、早くしないと』


春が!春がまた巡って来まっする!


昨年の春の陽気の勢いに乗せ、始めちゃったよ★な

『神殿まえ。』


お付き合いして下った方々!

春はすぐそこ・・・!のハズです!


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