★レシピ★ * 23 * 思いのほか短気な黒幕サマ
タバサ&第三者チェイズ目線。
その・・・タバサは?
――タバサちゃんはもうここには来ないわよ。
なぜ?
――来たくないって言ってるから。来させないの。
だから、なぜだ?
――・・・目を閉じて胸に手を当ててよぉーっく考えてみようか?それと歯を食いしばって?
・。・:★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★:・。・
「・・・・・・・・・?」
暗い・・・・・・。タバサは瞳を閉じたまま、そう思った事をいぶかしんだ。
まずは第一に・・・なぜ、自分は瞳を閉じているのだろうか。そして、瞳をこじ開けようにも――瞼は持ち上がらないのか。
明らかに体が思うように動かせない事に対する危機感あるが、それすらもまた意識の遠くの方だ。
「・・・・・・・・・!?」
何かが、おかしい。苦しいのだ。かろうじて呼吸は出来るが。
だがそれすらも、蹴散らさんばかりの意志が働いている気がしてならない。
何者かがタバサを見つめている。二度目ともなれば、嫌でも判断の付く何者かの意志は『敵意』。
それはそれは明確な殺意を込めて・・・・・・。全身からくゆるその気配に圧されるが、逃れようが無い。
(まずい・やばい・こわい!今度こそ本当に・・・やられるかも。そうしたら恨んで幽霊になって出てやるぅ・・・・・・)
タバサは声を上げる事もできないまま、むちゃくちゃな悲鳴を上げていた――。
★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★
ルボルグは声を張り上げて、それから思い出したように振り返った。
「――ルカ。タリム連れて帰ってくれや。お疲れさん!」
上半身だけを捻ると、そう一方的に告げる。片手だけを己の目前に立てる。――すまなかった、の意思表示だろうが。
それで納得するはずもなく、メガネの少年がまたも食って掛かる。
「何、言い出すのさ!おじさん、まだ二人とも見つかってないし!それに・・・さっきから、」
「悪い、タリム。おまえら庇ってる余裕が、今の俺には無い。そこの兄さんも消耗してるしな。わかってくれ」
「そんな、何なんだよ!さっきから!――守護とか術とか何とか。何でおじさんは女神像に向かっているのさ?訳がわからないよ」
「分からなくていいのさ、タリム。おまえら・・・これから渡り合う奴に対面させるには、無防備すぎるんだよ。
――ルカ、行ってくれ」
「・・・・・・わかったよ、おやっさん。だけどそれでも、手伝いが必要なら呼んでくれ」
「ああ。もちろん。頼りにしてるぜ」
「それと必ず二人の無事を報告してくれ。何時になっても。待ってるから」
「――ああ。もちろん。・・・オマエ〜本当におっかさんに似てきたな。そういう所!」
「ま・ね。ほら、行くぞ!タリム!」
「〜いや・だって・ルカ兄!」
「・・・・・・行くぞ。これから先は俺たちは足手まといなだけだ」
言いながら兄は弟を半ば引きずるようにして、女神像に背を向けた。その背をルボルグとチェイズが見送った。
「ああ〜いい若モンに育ったナァ〜。あそこんちの兄弟。そう思わんか、兄さん?」
「そうですね。二人とも真っ直ぐだ。――その、貴方の仰りたい事は・・・」
(もしかして、うちの上司兄弟を何か揶揄したいんでしょうか?)
「・・・・・・ん?別に深い意味なんか無ぇよ。ただ、物分りが良くて助かるってぇだけの話だ」
ルボルグが腕を組み直しながら、口角を上げた。目尻も下がる。どこか食えない印象がある。
チェイズは自分がどこかしら警戒を解けないでいる事に、何の疑問も異論も無い。
要するに目の前のこの男性はなかなか出来る、っということで間違いないからだ。
下手したら、現・神殿仕えの自分よりは確実に格上。
いつものチェイズらしくない、格式ばった口調が自然に出てくる。彼がそれを使わせるのだ。
その何かしら持っている、年上の余裕が。
「確かに。この空間に慣れていない者が、晒されるのは酷でしょうからね。身体にも精神にも。――神殿に仕える者でもなければね。ルボルグさん、貴方は・・・何者です?」
「だから『ララサとタバサの父親』だって。『キャンディー屋の店主』のさ。――って、お出でなさったようだぜぇ兄さん」
「チェイズです」
女神像の背後が、ほの淡い光を放ち始める。
チェイズは思わず、柄に手を掛けていた。一歩片足を引き、体勢の安定をはかる。
「・・・・・・。」
それをルボルグが目だけで制すると、彼が一歩前に出た。チェイズを庇う格好となる。
その大きな背越に女神像の方を見やれば、光の強さが増してきており、直視するのもままならないほど。
チェイズは思わず、片腕でひさしを作りながら見守った。――ルボルグは相変らず腕を組んだまま。
せいぜいその眉間に、シワを寄せているくらいのようだ。
細かい細かい光のカケラが徐々にそこに、集結しだす。雪が――日の光を浴びながら、舞い降りて来るかのような。
その幻想的な様を男二人で見守った。――光が凝結し、その化身が現われるさまを。
しゃらしゃらと細かな鈴の音のような。それをもっと遠くで。
細かく砕いたかのように繊細な音色が・・・チェイズの耳をくすぐる。
しゃらしゃらとはじめは忙しなかった音色も、今はゆったりと収まってきていた。
・・・しゃらり、しゃらり、と。
彼女が姿をしっかりと現す頃には、再び辺りは静寂が戻ってきていた。
『――おひさしぶりですわね。そうでもないかな?』
そんな静けさの中で響き渡る声音は、優しい女性のものだと知れた。
――たとえ・・・そう。言葉を発した者の姿が『獣』と呼ばれる類のものだったとしても。
獣といっても、たいそう可愛らしい。口を利いたのは、真っ白い子馬だった。
先ほどの闇色のダグレスに比べれば、その性質の穏やかさが窺える。
そんな思わず微笑を浮べそうになる子馬のたてがみは、ゆるやかに波うつセピア色だった。
ふさふさと、左右に打ち振って見せているシッポも同じく。真っ白の長い長い睫毛が覆う、その瞳の色は紫。
その透明感溢れる色彩の組み合わせを、チェイズはどこかでお目にかかった気がするのだが――。
(お久しぶり?そうでもない?――この二人は一体・・・)
「そうでもないな。さて、ジルサティナ!おまえ〜・・・何を企んでるんだよ?おかげで二人とも帰ってこないぞ!」
『うふふん。ヒ・ミ・ツ〜♪』
子馬は小さな鼻を膨らませて、そう歌うように答えた。たいへん、可愛らしい。可愛らしいのに間違いは無い。――が。
「うわぁぁ!!むかつく〜!!」
ルボルグが頭をかきむしりながら叫んだのには、同意見だ。
★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★
ふんふんふんふん・・・・・・・・――。
その敵意を巻き散らかしながら近付いてきた何者かは、タバサの全体をまんべんなく嗅ぎまわっているようだ。
寝たふりというよりも・・・どうしてか身体を動かす事の出来ないタバサは、大人しくしていた。
自分は今、たいそう具合のいい寝台に寝かしつけられているのだ。ふかふかしてぬくぬくした、最高の感触の。なぜか。
記憶を辿ろうにもあやふやだ。おおかた泣きつかれて、そのまま寝入ってしまったのだろうかと思う。
それでもこの身体を支配する不自由さには、説明が付けられなかった。だから混乱している。
何者かは・・・おそらくは四つ足。気配がソレを物語っている。
この独特の胸を圧す感覚が、そう教えてくれている。それが『オオカミさん』では無いのは確かだ。彼の気配はもっと。
もっと・・・何て言うか、こう――。
深い静けさを湛えている。深い森の中のひときわ大きな木の元で、くつろいでいたらあんな気持ち。
側に佇んでいるのが苦痛ではなく、むしろその逆だ。
彼には絶対。絶っ対、口が裂けても絶対に!言わない方がいいが事実だ。調子に乗ること間違いなしだから。
彼の側は居心地が良い。それは認める。ただし、黙っていてさえくれればという条件の下に。
(オオカミさん・・・・・・)
くんくんくんくん・・・・・・・・・・・・・。
タバサはこの様子を窺っているモノの鼻息が、肌を掠め始めた事に恐怖を覚える。
頭のてっぺんから、足の爪先までをまんべんなく。まるで何者かを定めようとしているかのようだ。
タバサの身体が、湧き上がる恐怖と嫌悪感で粟立つ。
(オオカミさん・・・・・・どぅしよ〜!何か何か、どうしようもなさげです!どうにか出来そうなのはオオカミさんだけの気がします。癪に障りますが。そもそも私がこんな目に遭っているのはオオカミさんのせいなんですからねぇぇぇぇ!!何とかシテクダサイよねぇぇえ!!)
「・・・・・・・・・・・・。」
(そういえば。オオカミさん・・・って呼ぶと訂正されたな。オオカミさんと呼ばれるのは、嫌だったのかな?)
ならば。ずっと『オオカミさん』と呼び続けてやろうか。腹いせに。
(オオカミさん、オオカミさん。態度の大きいオオカミさん、さりげな〜く・権力者の威圧感たっぷりのオオカミさん。無理やり『春の乙女候補とするよ』等とさらりと告げてくれたオオカミさん♪)
・・・・・・♪
タバサは心の中で歌うように彼の名を呼んでいた。実際口には出せないが。出したらきっと、妙な節なので笑える・・・か?
――腹立つんですけど!オオカミさん!
どうやら笑えそうも無い。タバサは動けないまま、意識だけはあるのだ。それが余計に状況を悪く思わせた。
自分を窺う獣は、どんどん大胆になってきているようなのだ。
(近い近い!ひぃ〜!ってな所まで来ちゃってますよ。どうしてくださるんだよ?オオカミさんよ〜!?)
人生――泣くか笑うかのどちらかだ。タバサは常々そう考えている。どんな時だって笑う方を選びたいものだ。
しかし、今は。そう、今は・・・やたら滅多に訪れるとは思えない事態。さすがに笑えない。笑えないんだよ!・・・オオカミ・・・
(・・・何だったかな・・・えーと?・・・・・・・う・うぅ?――ウォレス・・・さん・め〜!)
★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★
「んで。今、何て言ったんだ?――ジルサティナ」
『アクリムもシャルザムもどこかに行っちゃったわ――ルボルグ』
「どこに!」
『ん〜だから、どこか』
「なぜだ!」
『例の・・・獣を片っ端から魅了してらっしゃる、紅孔雀さまとやらのせいらしいわ。わたくしよりも、そちらに惹かれたのでしょう。聖句などでは縛りきれなかったの』
「おい〜そういう事は早く言えや!獣が加護を外れた状態ならば、二人は丸腰なんだぞ?も・ちっとは慌てろや!!」
先ほど少年に見せた余裕はどこへやら。双子の父は少年が望んだように、おおいに慌てふためき始めた。
「・・・・・・タバサ!ララサ!って、兄さん馬っ!悪いが馬を用意してくれや!」
『ルボルグったら、心配性ねぇ。大丈夫よぉ。だってぇ。ウォレスとウォレーンが、二人には付いているのよ?』
「いや・・・だからこそ心配ナンデスケド?ジルサティナさんよ?」
『あら。なぜ?二人ともとっても頼りになるんだから!』
「あ〜・・・俺としてはルカとタリムが一押し。できればそのロウニアの若造どもは勘弁」
『ああら。なぁぜ?二人とも二人の事が好きなのよ。いなくなったアクリムとシャルザム並みの事が出来ちゃうし・・・おまけに』
「あ〜も〜 ぉぉぉぉぉ !聞かんぞぉ〜!聞かん・聞かん〜!!」
ルボルグは自分の両手で耳を覆うと、あ〜あ〜と声を上げている。ジルサティナの告げる事は聞きません。
そんな子供並みの、精一杯の抵抗の表れ。
気持ちは何となく解らないでもないが、娘を持った事のないチェイズには実感の無い感情だった。
『もぉ!聞きなさいよ!ルカとタリムなら良くて、なぜあの二人はダメなのよ!』
「あ〜あ〜聞こえない〜」
「・・・・・・。」
口をはさまなかったがチェイズも、そこはゼヒお聞きしたいと思った。
何やら親密な雰囲気の二人に、存在を軽く無視されたかのよな気になっているので、チェイズは黙って見守るに留める。
(しかし、そろそろ・・・いい加減にしないと。お馬様が)
チェイズが気を揉み始めてから、そう間を置かずに予感は的中した。
『〜〜〜ルボルグのばかっ!』
「うぉっ!!」
――ばか、のタイミングで子馬は体当たりを食らわせていた。
やっぱりそう来ましたか?・・・チェイズは小さくあ、としか発せなかった。
声を掛けてやるのが、今一歩遅かったようだ。というよりも、お馬様は思ったより気が短いご様子。
ルボルグは見事に床に手を付いていた。腰をさすりながら、身を起こす。
『馬ならここにいるじゃないのよ!そんなに心配なら、さっさと乗りなさいよ!
連れて行ってあげるから。その目で確かめればいいじゃない』
「・・・・・・行くって、どこに」
『ジャスリート家』
★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★
何だろうか――。
チェイズはこのやり取りに、何やら未来を垣間見せられた気がした。
誰の、とは断定できないが。
「〜もっとからませようにも」
すみません。
あちこちで収拾付かないです〜。
今、これがせいぜい。
恋愛FTコミカル★だよね。コレ?カテゴリ「ギャグ」とかじゃなくてサ。
うむ。がむばりますので見捨てないで下さい〜。