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★レシピ★ * 22 * 誘拐団以前にまさかの黒幕?


(仮)タイトルは「キャンディー屋の店主」


 ひねりも何もございません。


 なぜでしょう・・・キャンディー屋の看板娘★よりも、このタイトルだけで格段にむさくるしさが漂う気がしますが・・・?


 

 

 ――おい、おまえ・・・・・・。

 

 おまえじゃないわ、私!

 

 ――何だよ。どうしたんだよ・・・タバ、サ?・・・いや、違うな。誰だ?

 

 タバサじゃないのは確かね。

 

 ――・・・じゃあ、誰だよ?タバサは一体・・・

 

 タバサちゃんなら、もうここ(・・)には来させないから。わかったら、さっさと行って!商売の邪魔よ!!

 

 〜・★  ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ ・〜

 

 すっかり日も陰り、つい先ほどまでの心地よさが嘘のようだ。春が訪れたとは言え、まだ本格的とはいえない。やはり朝晩は冷え込むのだ。

(・・・・・・ったぁく!!あの、ダグレスのやろう・・・!!)

 そう悪態つくばかりで、チェイズは動けずにいる。未だ視界をこれから訪れるであろう夕闇よりも、一足早く””闇””に封じられたままだ。

 このままでは――夜闇が本格的に辺りを支配しだすだろう。いい加減転がったままのチェイズは背中が冷えて固まってくるのを感じた。

(まずいな・・・このままだと。ここで一晩明かして、翌朝神殿に訪れる信者の皆様に発見されたりしたら――)

 それこそ恥だ。チェイズの、ではあるがそれより何より。――神殿護衛団の名折れ間違いなし、だろうと思われる。

 だから。何としてもどうにかしたいのだが、どうにもならない。自分はこのまま瞳を開けても、闇に支配されたままなのかと思うと・・・それだけで正直震えが来る。

 目を開けてみても細かい粒子がまとわりつき、視界を阻んでいるのだ。

 振り払おうにも意志持ったかのように、闇はチェイズの眼を捕らえて放さない。固く瞑った瞳の隙間からも、闇は侵入してくる。

「――・・・っ。ち、っくしょう!!!」

 好きにさせてたまるか。そう弱気になりかけたチェイズは、闇を振り払うべく上体を起こした。

 

 その時。微かだが目の端に灯かりが横切った気がした。いやそれは、気のせいではなかった。

「あ。誰かいる!ルカ兄、早く。――ルボルグさぁーん!!ここに人が倒れてるよ」

「お。本当だ!って、神殿の護衛団員じゃねーかよ?どーしたぁ?大丈夫かよ!」

 少年期特有の声を響かせて、小走りに駆け寄ってくる気配。それに続いている気配は、どうやら高身長のようだ。

 声がずいぶんと高いところから、降ってくるように感じる。

 チェイズは目を開けようにも、やはりどうにもならなかった。頭を二、三振って見せる。

「・・・・・・大丈夫だ。ただ目をやられた。視界が利かない」

「大丈夫じゃねーじゃねぇか!!」

「ふぅん。情けないねぇ」

「おい。タリム。――口を慎めや?」

「ふん。ホントのことじゃん、ルカ(にぃ)

「――ああ。本当の事だ。情けない」

 チェイズが顔をしかめながら、二人の声のする方へ面を上げた。

「なぁ、アンタさ。ちびっ子達・・・・・・ララサとタバサ知らないか?双子の、菓子売り屋の――」

「・・・・・・嬢ちゃんたちは――」

 チェイズが言いよどみ、言葉を探しあぐねているとまた別方向から声がした。

 

「ルカーぁ?うちはキャンディー屋だぞっと。菓子はついでな。本業はあくまでキャンディーの方だ。言い間違えんなよー?」

 ・・・・・・ったく、何べん言わせるんだ?と、いつの間にか近付いていたらしい人物は、不満そうに付け足した。

 ずいぶん落ち着いた口調と、響きのある低音の声音だ。そこから少年と青年の二人より、年かさらしいと判断が付く。

「はいはいっと。またーオヤジさんは〜」

「キャンディーばかにするなよ、ルカ。ま。それは、また後でな。さぁて――っと。俺はルボルグって言うんだ。キャンディー屋の店主だ。要するに、ララサとタバサの父親だが・・・おまえサン。その様子だと獣か何かの術、喰らったな?なかなか上級なのを喰らったな。ちょっと、待ってろ」

 

 そこまでで話を遮ると、双子の父親と名乗った人物の足音が祭壇の方へと向かった。

 石造りの通路に、彼の足音が響く。それは一旦は遠ざかり、そしてすぐさま戻ってきた。

 再び店主はチェイズの傍らに来たようだ。

「――ほれ。口、開けてみろ」

「・・・・・・?」

「いいから。ほれ!」

 言われるがままに、いぶかしみながらもチェイズは口を開ける。途端に何かを放り入れられたのがわかる。

 視界を奪われているせいで、反射的に身構えてしまったが・・・口中を満たすのが甘さだと判断できると、拍子抜けした。

「コレは・・・・・・お供えのキャンディーですか?」

「そ。俺がこさえたヤツな〜。気分はどうだい、兄さんよ?」

「・・・・・・・・・・・」

 かこかこと口の中でキャンディーを遊ばせると、ゆっくりと甘みも増してきた。角ばった感触から、おそらくは花の形を模したキャンディーだろう。何色の花だろうか?ふと、そう思った。

「そいつは春を告げるスミレの花のキャンディーだ。女神様のお足元を飾る・・・闇を払う春の花――」

 そう告げ終えたと同時に、ぱんっと小気味良い音が響き渡った。何事かと思わず瞼を持ち上げると、両手を合わせた人物と目があった。

 双子の父と名乗った彼は、にんまりと笑って見せた。膝を折って腰を屈めて、チェイズと視線を同じ高さにしている。

 太い眉が気持ち上がり気味で、いくらかそれが彼を厳しそうに見せている。だが、その下の瞳は力強いが、人懐っこそうに眇められていた。

 肩幅もしっかりしており、肩から腕に掛けてがっしりとした筋肉が付いている。菓子職人なのだから・・・重いものを持つのは日常茶飯事のはずだから、当然といえば当然なのかもしれない。

 暗がりでよくは解らなかったが、彼の髪と瞳は落ち着いた深みある鳶色(とびいろ)のようだった。その後ろで無造作に束ねられた髪は、真っ直ぐで固そうだ。

 双子達の髪をもっと、濃く凝縮したかのような色彩。似ている要素といえば、それくらいだった。チェイズが見る限りでは。

 その面影に双子の持つ甘ったるさがどこにも見受けられなくて、二人の容姿は改めて母親譲りなのだと思ってしまった。

 

「よ!もう大丈夫だな?見えるようになっただろ」

「はい・・・!ありがとうございます。すごいですね・・・貴方も術の心得があるのですか?」

「――ま、ね。俺じゃなくて、すごいのはキャンディーの方な。なーー・ルカ?わかったろ。先代から受け継ぐこの技法!!」

「すごいじゃん、オヤジさん。見直したよ。――キャンディーを」

「だから、言っただろ。キャンディーをなめるなよ、ルカ?」

「キャンディーは()めるモノでしょ」

「――何ぉお!タリムっ、この反抗期!」

 言葉の割りに。怒りの感じられない表情である。それがいかにも人の子の親の持つ、寛大さの表れだと思えた。

 要は叱るが、怒ってはいないといった感じだった。少年の方はまだ幼さから、そこら辺は読み取れないのだろう。

 単に怒鳴られたくらいにしか受け取っていないのか、悔しそうだ。負けじと声を張り上げる。

「だってさ!ララサちゃんとタバサちゃんが、いなくなったって言うのに!!おじさんはのんびりし過ぎだよ。心配じゃないの?もっと慌てたらどうなのさ」

 噛み付くように、メガネの少年は責める。その様子に、双子の父は黙りこんだ。

 

「――悪かった、タリム。心配させて・・・だが、二人は大丈夫なんだよ。何せあの子達には加護がある」

「加護?」

「そうさ!だから安心しな」

 疑わしそうに眉をひそめたっきりのタリムよりも、チェイズの方が先に尋ねていた。

「・・・・・・一体『何の』ですか?貴方には術の心得があるようだし、貴方が施した術のとでも仰るのですか?」

「ま、な。何だ、その(ツラ)構え?」

「いえ・・・・・・。貴方がキャンディー屋の店主と名乗られたので。以外に――疑問に思っただけです」

『術』を用いていいのは、神殿に属するものだけだ。それ以外は王族に仕えるの者か、貴族に籍を置く者が許されている。

 それ以外は『邪法』とされ、厳重な処分を受ける。それがこの国の取り決めた法律だ。

 まさか今助けられたばかりの身では、流石に言い出すのには気が引けた。

 そんなチェイズの不審な想いなど、多分つつ抜けなのだろう。

 彼は何も言わない。悪びれた様子も無い。ただ意味ありげに、しかし余裕たっぷりに笑み浮べている。

 しばらく腰に手を当てて、チェイズを見下ろしていた彼だが――。

 ふっと、短く一息付くと視線を女神像の方へと向けた。そのまま、ゆっくりと歩み寄る。

「さぁ――ってぇ、とぉ――!今回の『黒幕』出て来ーい?見てるんだろ。・・・・・・ジルサティー・ナぁ?どうするんだ〜こら?

 ちぃいっとばかり、面倒になってるぞ!」

 

 彼独特の間延びさせた声が、祭壇の女神像に向かって投げ掛けられた。

 

 ・。・:★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★:・。・

 

 ””侵入者・・・か?””

 ””・・・・・・か?””

 

 孔雀はお互いに長い首を傾げあった。

 今一度、館に乗り込んできた真っ黒いオオカミと少女とを見た。しげしげと。

 

 セピア色の長い髪。それはくるん、くるんと巻きの強い、波うつ・・・ふわふわの髪の毛。

 ぱっちりと見開かれた瞳はいくらか興奮しているようで、より一層その紫色が輝いて見える。紫の水晶のような。

 透明で濁りの無い眼差しは、先ほど二羽の尾羽に釘付けだったものと一緒だ。

 ””タバサ・・・だな。ヨウラン?””

 ””・・・・・・だな。ヅゥォラン?””

 んー?んー?と首を上げたり下げたりしながら、孔雀たちは少女とオオカミとを取り調べ中だ。

 ””タバサは『客人』だと。ディーナ嬢が言うたな?ダグレスも気に入ったと、塔に連れて行かれたな?””

 ””タバサは『客人』。フィルガも言うたよ。ルゼも気に入ったから、塔に連れて行ったな””

 

「あの――?孔雀さんたち・・・・・・」

 

 少女が口を開いた途端に、まとわりついていた二羽はズザザっ!と後方に身を引いた。驚いたのだ。

「あ・・・ごめんなさい。驚かせてしまって。タバサちゃんが来ているのですね?彼女、私の妹なの。迎えに来ました。タバサはどこですか?泣いていませんか?」

 ””――妹?””

「ええ」

 ””では、姉か?””

「ええ、そうです。双子なの」

 ””――!! そうか。我々と一緒だな””

 ””一緒だ””

「そうなのですか。それは奇遇ですね・・・え、と?」

 ””ヅゥォランだ””

 ””ヨウランだ””

「私ララサです。早速ですが、ヅゥォランにヨウラン。お願いだから案内していただけませんか?タバサの所へ」

 ””・・・・・・ララサは、いいだろう。タバサとまったく同じ気配だから、嬢様もお気に召すだろうから””

 ””・・・・・・ララサはいい。だがな・・・オオカミはダメだ。嬢様がお気に召さないだろうから””

 

 孔雀は真っ黒いオオカミを警戒しつつ、おずおずと告げた。キロキロと黒い眼で、ララサとオオカミとを代わる代わる見つめる。

 二羽とも、いつでも攻撃態勢を取れるようにと。身を低く屈めて、両羽根を開き気味にしている。

 

「――お気に召す?・・・オオカミはお気に召さない?ナゼです?どうかしたのですか」

 

【・・・・・・・・・・・・。】

 

 先ほどからララサの前に構え立つ、オオカミは黙って様子を窺っている。一言も口を差し挟む事も無く。

 無言で孔雀たちに圧力をかけている。

 

 ””――そうだ。タバサを泣かせる、悪い悪いオオカミ。そいつと似ている気配のオオカミだからな。瞳の色もそっくりだ””

 首を高く持ち上げて言い放つのは、ヅゥォランと名乗った孔雀。

 ””――そっくりだ!””

 そう、後を追うように付け足したのはヨウランだ。

 

「・・・・・・タバサは泣いていたのですか?」

 

 ””そうなのだ。タバサが泣くから、ダグレスが連れてきたそうだ。オオカミから逃れるためには、ずっと嬢様のお側にいればよいからな””

 ””オオカミはタバサを泣かせる、悪いオオカミ。だから――オオカミは侵入禁止だ!””

 

 二羽は、そう答えを導き出すに――至ったらしい。

 

 行く手を阻むべく、同時に尾羽を広げた。それでも、黒いオオカミは引こうとはせず、その場に止まっている。ただ、静かに。

【・・・・・・・・・】

 

 そのやり取りをしばらく無言で見守っていた、ララサが満面の笑みを孔雀達に向けると、こう言い放った――。

 

「・・・・・・ねぇ、孔雀さんたち?私だけ(・・・)ならいいのでしょう?案内してくれないかしら。タバサの所へ」

 口調と表情はにこやかなものである。だが――密かに拳に力が入っているのを、オオカミは見逃しちゃいなかった。

【・・・・・・・・・。】

「悪いオオカミにそっくりなこのオオカミは、ここで待たせておくなり、追い出すなりすればいいから。私をタバサの所に案内してくださいな。あと、それと。タバサを泣かせた(・・・・)悪いオオカミは、どこにいるのかしら?」

【!?】

 ””!?””

 ””!?””

 

 ララサのただならぬ雰囲気に()されて、オオカミと孔雀たちは思わず顔を見合わせてから――少女の方を見上げる。

 

 



怒ると恐いぞ、ララサねぇさん。


こと、タバサが絡むと豹変。


ある意味、ラスボスかもしれません。


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