★レシピ★ * 21 * 誘拐団の本拠地〜潜入〜
仮タイトルは「そういえば」でした。
そういえば、ここって。「どこでしょう?」
何かしら馴染んでいたから、忘れてた――!!
――うん!はい、わかった。
・・・・・・何が?
――明日から担当区域を代わります。タバサちゃんは商店街の方、お願いします。
・・・・・・え?
――はーい、決定。はーい、解決。『お姉さん』に任せなさーい。
・・・・・・『お姉さん』???
★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★
塔とやらに案内されるかと思いきや。
「とりあえずお客様におもてなしもまだだったわねぇ」
と参謀殿――婦人が言い出した。
「そういえば、そうですね。タバサちゃん、喉が乾いたでしょう?お腹は空いていませんか?」
つい先ほど物騒ともとれる冷たい一言――『やっつけてもらえばいいじゃない』を発したのと同じ唇から、優しい言葉を掛けられる。
「え?あ、いえ・・・おかまい無く・・・」
タバサは訳が解らなくなってしまう。
コツコツと響く己の足音が嫌に耳に届く。先頭を行くフィルガ殿は、歩幅がやはり女性とは異なるからか気持ち早い。
それでも、あまり離れすぎると灯かりが届かなくなる。その辺りを配慮して、時折り振り返る。
その彼の時折りと目が合った。正確に言うと、彼がお嬢様に気遣わしげな眼差しを寄こすから。
タバサは気が付く。彼が気に掛ける女性はディーナお嬢様。だからこの事態にも付き合ってくれている。
ディーナお嬢様の方は・・・何やらゴキゲンなのは解るが、彼の気遣いにはてんで気が付いていなさそうだ。
その事でタバサが、どうこう口出ししても仕方が無い。それでもナゼか、ため息モノだとは思う。
コ・・・ツ、コ・・・ツと、響く足音が嫌に耳に障る。
石造りの足元はあまりに整然としすぎていて、タバサのつま先を拒むかのよう。足先から、冷やされて行く感覚に痺れた。
(そういえば・・・そういえば。ここはどこですか?)
「タバサちゃん、どうかした?」
急に不安に襲われて、タバサの歩みが今にも止まりそうになった。思考も視界も不安にさいなまれて、ぼやけてくる。
タ バ サ ?
誰かに名前を呼ばれた。――しかし、今のタバサには遠くでしかない。
その声音がいくら優しかろうとも、タバサの耳に心地よかろうとも、なじみが無いから。
父さんでもない。ララサでもない。ルカ兄でも、タリムでもなければ、商店街の優しい皆でもない。
・・・・・・陽気なお調子者のチェイズでも無く。ムカつくウォレーンでも無く。――その『兄』でも無い。
じゃあ、誰だろう。タバサの名前を『今』呼ぶことが出来るのは・・・・・・?
ディーナ様・・・にフィルガ様に・・・ルゼ様?
(――ルゼ様?って、ええええええええぇぇぇ!!・・・ジャスリ―――ト家!!)
この引っかかり具合の遅さも、本日二度目。
・。・:★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ :・。・
タバサの気配を頼りに、ウォレスは必死に街を抜けてきた。そうしてたどり着き、見上げるのはジャスリート家の門構え。
両脇に高く立てられた石柱の上の、孔雀の石像がこの家の位の高さを表している。
ジャスリート家はこのサンザスの国の、東西南北に分かれた領地をまとめている公爵家だ。
治めるのは女主人のルゼ公爵と、その孫息子の跡取り。『シィーラ』こと『白孔雀』の忘れ形見・・・の彼は術の心得もあると聞く。
それより、何より。ルゼ・ジャスリート――彼女は。
女だてらにそれぞれの領主達をまとめ、的確な指示を与えるその手腕は評価が高い。
ついでに、高いのは気位も。そう教えられて育ったからか、ロウニア家の自分はどうしても反感を抱いてしまう。
あまり関わりあうことも無い分家の自分は、ただもやもやした煙くらいにしか感じていなかったが。
そうしてそれが今・・・確かなものとして、湧き上がってくるのを抑えようがない。
四つ足であっては、なおさらそう感じるのか。その構えはそびえ立つ砦さながらの風情だった。
よりによって、というか。『ダグレス』が出てきた時点ですでに、あらかた予想は付いていたというか。
(やはりここか、ダグレスめ)
様子を見ようと館の回りを一周してみた所で、ウォレスはもう一度正門に戻ってきた。
(・・・・・・・・・。)
どうしたものかと、ウォレスは閉ざされた門を見上げた。鉄製の格子が高くそびえる強固な造りを、跳び越えることなどワケはない。
問題はその後だ。術に長けていると噂も誉れ高い、ジャスリート家に――うかうか侵入した者は容赦なく『排除される』のだと。・・・・・・ずいぶん昔の話だが、本家の伯父がぼやいていた記憶がある。
それは白孔雀に固執するあまり、間者まで放つ方の心がけがあまりに邪だったからだろう。当然の処置だ。
――そう思ったが言わないでおいた。
もう行方の分からなくなった女性に、いつまでも執着し続ける伯父が憐れだったから。
それをどこか滑稽に思って、ウォレスは見下していた気がする。だが、今やどうだ?
今・・・自分がやろうとしている事は、一体?どう説明つければいい?
タバサを無事に連れ帰る。そのために因縁深いこの家に、侵入を試みている。
今、自分がやろうとしている事に何の疑問も無い。ためらいですらも無い。
だがウォレスの足を、未だにここに止める理由は唯一つ。
下手に見つかって『排除』などされたら、それこそタバサはどうなるか知れないからだ。
なにせ気まぐれなダグレスだ。かつては伯父の持ち駒だった・・・獣。十七年間も。
それをあっさり振り切って、ジャスリート家の孔雀の翼を選んだのだ
自分はいい。別にどうなっても。こっぴどく罵られて、隊長格も剥奪されて神殿務めから放り出されても。
いざとなったら、弟が全て任されるだろうから。ロウニア家の事も、護衛団の事も。
そうしたら・・・自分は菓子屋にでも弟子入り志願するつもりだ。いや――あめ屋にか。
ロウニア家だからと、あのこには頑ななまでに拒絶された。だから、まあ。一族の恥とやらで縁を切られたら、その時はその時。
そうなったらなったで、新しい人生のきっかけにしてやろうと思う。
(【それでは――いざ!!】)
ウォレスは後脚で力一杯、大地を蹴り上げた――。
★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★
””来たな。侵入者め””
””――侵入者め””
館の門を超え、身を隠そうとする間も無く。鋭い警戒音を発する、二羽の孔雀が降り立った。
””何用だ、オオカミ。用無くば立ち去れ””
””――立ち去れ””
【用ならある。この館に、少女が連れて来られてはいないか?セピア色の長い髪の。名はタバサ。――タバサ・フォリウム】
””来ていたら?””
””――ら?””
【迎えに来た。返してもらおう。タバサはどこだ?】
””・・・・・・知らないと言ったら?””
””・・・・・・ら?””
【探させてもらおう。公爵殿にお目通し願いたい】
””それは出来ない””
””――ない””
【なぜ?】
””それは・・・””
”” ・・・ ””
タ バ サ は 嬢 様 が 気 に 入 ら れ た か ら な 。 こ の ま ま 嬢 様 に 召 抱 え ら れ る 。
孔雀たちの答えを遮って、闇が答えた――。
【ダグレス!貴様、タバサをどこにやった!?】
ウォレスは牙を覗かせ、威嚇する。闇をまとう獣が、姿を現すよりもずっと早くから。
闇が一際凝って、落ち着くよりも早く。やがて紅黒いまなこが、闇の中に浮かぶ。
””何をしに来た?ロウニアの若造?――タバサ?ああ、あの小すずめか・・・・・・””
オオカミを目の端で捉えたダグレスが、小ばかにしたように斜めから見下ろした。
””・・・ふん。タバサはな、我が嬢様の遊び相手にちょうど良い。ロウニアの若造は、大人しく引き下がるがいいさ””
【ふざけるな!!何を勝手な事を――タバサの意志を訊きもせず・・・・・・!!】
””勝手?我をそう罵るか?タバサはな『春の乙女役』の儀式に『無理やり』臨まされそうなのを『嫌がって』我を呼んだのだぞ?よくよく考えてみるといいさ、ロウニアの。オマエは自分の都合を押し付けた””
【・・・・・・ダグレス。いいから、タバサは――】
””何。訊くまでも無かろうさ。タバサにしてみたら、だいぶ誉れな事と思うが。何せこのジャスリート家に召抱えられるのだからな。たいした出世だ。ただの街娘風情が、ジャスリート家に身を寄せる事に成る等とは、な””
ダグレスは愉快そうに言葉を紡ぎ続ける。
対するオオカミの方は焦っているようだ。いらいらとその場を踏み鳴らし、隙を突いて館に侵入する気なのだろう。
油断無く目を光らせている。余裕など、まったく持ち合わせていないようだ。
――そんな黒い獣同士のやり取りを、二羽の孔雀が見守っている。
ものすごく独りよがりなウォレスです。
突っ込みどころ満載です。
いやいや。
別にあんた・・・「ロウニア家だから。」拒まれたんじゃなくてね〜・・・
ね〜?