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★レシピ★ * 19 * 気に入られた小雀


 ララサ。彼女は普段は〜ですが。


 タバサがからむと、豹変します。


 

 

 ――タバサちゃん、どうしたの!?

 

 ララサ。うん、だいじょうぶ・・・・・・。

 

 ――じゃ、何で泣いているの?いじめられたのっ!!

 

 ・・・・・・。も、だいじょうぶ・・・だから。

 

 ――誰?タバサを泣かせたのは、誰っ!

 

 ラ、ララサ。お、落ち着いて・・・!

 

 

 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★

 

「――・・・それで?タバサちゃんをどこへ(さら)われた、ですって?」

 聞こえなかったんですけど。

 そんな少女の言葉に・・・再び答えることが、なかなか出来ない。

 

「・・・・・・ウォレーン?」

「ラ、ラサ」

「アンタ、ウォレーン(・・・・・)でしょ。答えてよ!」

「なぜ、()がウォレーンだって判る?」

「――判るわよ。そんな事(・・・・)より、アンタこそちゃんと質問に答えなさいよ。タバサちゃんをどこに、連れて行かれたですって!!」

「ジャスリート家。・・・・・・恐らく」

「恐らくぅ?何よ、それ!しかも、何で公爵家!!」

「兄上が今追っている」

「ああ、そう!解ったわよ――アンタらの家絡みの因縁に、うちのタバサを巻き込んだって訳ね?どうしてくれるの?」

「・・・・・・すまない」

「すまないですむもんか。許さない。タバサちゃんを無事に返してもらわないことには、許さない。・・・行くわよ、ウォレーン!」

「行くって、どこに」

「ジャスリート家に決まってるでしょう!!グズグズしない!!」

「・・・・・・。」

「返事!!」

「・・・ハイ」

 

 チェイズはそんな圧されっぱなしの幼馴染と、少女のやり取りを眺める。正直、口を挟む隙など無かっただけだが。

 そんな二人を、黙って見送ったチェイズである。

 それ以前にララサからは、存在からして無視されたというか。視界にすら入って無かったというか。

 彼女の妹を心配しての事だろう。ララサはいつにない勢いで、食って掛かってきた。それだけ取り乱していたのだろう、彼女は。帰りの遅い妹を心配して駆けつけて来てみれば、この有様では無理も無い。

 それでも、気配でウォレーンのヤツがこちらを窺ったのはわかった。

 ――わかったから、早よう行けやと手を振って見せたのだ。

 今だ術が抜け切っておらず、立ち上がることもままならない。そんな不甲斐ない団員は何の役にも立ちはしないのだ。

 

 チェイズは頭を打ち振る。ダグレス。あの闇に属する獣に、してやられた。一撃喰らったのだ。

 牙や巨体による物理攻撃ならまだしも、あの獣は目くらましに闇をぶつけてきやがった。その途端にチェイズの視界は闇が占めた。振り払う事も敵わない、あの意志持ってまとわりつく闇に!

 闇薄れる頃には、タバサは獣に連れ攫われた後であり、自分の失態に悪態をついたところでどうにもならない状況だった。チェイズは両手で己の瞳を抑え付けると、叫んだ。

 

「あーーーっ・くっそーーー!!ホント嬢ちゃん、ごめん・・・・・・」

 

 空しく響き渡る声は、聞かせたい少女に届く事はない。

 

 

 ・。・:★:・。・:☆:・。・:★:・。・ ・ 。 ・

 

 

「――ふぅん・・・これまた可愛らしいお客さまだこと。ねぇ、フィルガ?」

 (『うん』とお言いなさいな。そんな無言の圧力が込められているような気がしますが、気のせいではない気がしますが。

 ここはひとつ『方便(うそ)』でも『うん』といっておいた方が、身のためのような気が致しますが・・・?)

 タバサは密かに、無言を貫き通そうとする彼を見守った。騒ぎを聞きつけて現われた、この品の良さげな老婦人。

 もとは金の名残をうかがわせる白髪を束ね、目に鮮やかな深緑の装束に身を包んでいる。重厚さを感じさせるこの部屋のしつらえ同様に、彼女もまた同じものを醸し出しているような。タバサは婦人の堂々とした所作に、彼女がこの館の主人なのだろうと見当つける。

 

(――まずそれは、間違いないだろうと思われるがいかがでございましょーか?)

 尋ねてみたいが、今はそのような雰囲気ではない。タバサは身を固くして、婦人の出方を待つ事にした。

 婦人が扇を操る様などは、舞を見せられているかのような優雅さだ。ゆったりとした洗練された仕草の彼女だが、凛と通る声は力強い。

 逆らうのを許さない・・・というよりも、逆らう気など失せてしまうような。

 そんな婦人の持つ犯し難い品格らしきものに、すっかり押され気味のタバサはハラハラのドキドキで・・・思考ですら言葉使いがぎこちない。

 

「まぁ・・・確かに。そうかもしれませんが。・・・注目すべきはもっと!違うところにあるでしょう?」

(認めた、というか。言わされました感たっぷりでありますね。当然か)

「まあ?そうぉ〜そうかしら」

「・・・・・・彼女が一体ナゼこの館にいるのか。しかも獣を見ても驚きもしていない!それでも――見たところどう取っても、彼女は術者でも侵入者などではありません。そんな普通の娘がこの館に、どうやって来れたとお思いですか?」

(ハイ。わたくしめも、そう思います〜・・・そこら辺に注目してください〜)

 タバサは心の中で、青年に声援を送る。彼は一番『常識』がありそうだ。タバサがこうしてここにお邪魔している事に、異を唱えてくれている。

(ゼヒ!ゼヒ、その調子でお願いします。私の代わりにお伝え下さい。)

 丸投げで申し訳ないが、その方が流れがいいと思われる。

「そうねぇ。――ねぇ、アナタ?お名前なあに?」

「・・・・・っぇ、と・・・・・・」

「タバサちゃんです」

 一瞬気後れしたタバサの代わりに、ディーナお嬢様が答えてくれた。にこにこと嬉しそうに。それまた嬉しそうにニコニコしながら、この老婦人はお嬢様を見つめた。

「そう、ディーナ。嬉しいわよね、こんなかわいいコが遊びに来てくれたんですもの。ありがとうね、タバサちゃんや?どうぞゆっくりして行って頂戴ね。くつろいで。そんなにかしこまらなくていいから」

「いえ、そんな。その――何と申しましょうか・・・」

(いや、遊びに来たんではなくてデスね・・・無理やりつれて来られたと言った方が正しいのですが・・・ダ、ダグレス様っ!!)

 

 タバサはすがるように視線を、ダグレスに投げ掛ける。お嬢様の傍らでゆったりとくつろぐ獣様は、そんなタバサなどお構い無しだ。

(無視ですか!!)

 存在からして丸っきりの無視。タバサは自分がうんとチッポケな、虫っけらになった気分を味わった。とほほ、である。

 いや?存在すら気にも掛けてはいない様子・・・だったら、虫けら以下か?

「――ダグレス。貴様・・・いい加減にしておけよ?」

 掛ける言葉さえ発せられないほど、がっくりと肩を落としたタバサに代わって、またしても青年が助け舟を出してくれた。

 それがタバサには本当に心強く感じられた。何と言うか。お嬢様も老婦人も・・・タバサをすぐには離してくれそうも無い。

 なにやら歓迎されているのは分る。分る・・・が。タバサ(わたし)で遊ぶ気、満々ですよね?――だから優しい言葉と態度で接してもらっても、気後れするのだ。

 その点この若様は違う!タバサを早い所もとの場所に返したがっている。要は、厄介事の予感を。

(ありがとう!ありがとうっ、若様!アナタ様は私の心の船頭さんです!!その舵取(かじと)りに身を任せてしまいますので、よろしくどうぞ!です)

 せめて必死になって声援を送る。心の中で。それはタバサの拳に表れていた。知らず知らずの内に力が込められて、手に汗を握る。

 

 ダグレスはそんな青年に一瞥くれただけ。その紅黒い眼はなかなかに迫力だ。

 対する、曇天の瞳も負けてはいないが。

 そんな睨み合いが続く。――このままでは、らちが明かない。そう思ったらしい婦人が口を挟んだ。

 

「ダグレス。アンタがこのコ連れて来たんでしょ?説明しなさいな」

 ””この娘。生意気にも我を呼び出したからな。しかも名を呼びおった””

 

「呼び出した?」

 ””そうだ。なにやら神殿の若造どもに囲まれて、泣いていたからな。だから、つれて来た””

「そうなの?タバサちゃん、どうしたの。神殿の人間に絡まれたのですか?何か問題でも?」

 神殿。その言葉が出た途端、タバサを取り囲む三人の表情が強張るのが解った。いっせいに視線がタバサに集まる。

「いえ、あの・・・ですね」

 タバサはたどたどしくも、今までの経緯を順を追って説明した。

 

 ・。・:★:・。・:☆:・。・:★:・。・ ・

 

 自分が神殿前で、菓子と飴とを商っている事。

 

 ひょんな事から神殿の護衛団の隊長殿に、この春の祭典の乙女役を引き受けて欲しいと言われた事。

 ――それをタバサは断り続けていること、それがなかなか聞き入れてもらえず・・・困った挙句助けを求めたこと。

「・・・と言う訳でして。どうやら私『獣の声が聞くことが出来る』という『獣耳』という『能力者』だから、乙女役の候補に上げられたようでして。私祭典の日は家業が忙しいのでと、重ね重ね『お断り』申し上げているのですが〜・・・」

 ふぅとタバサは一息入れた。

「そうなの。アナタは他のお嬢さんを候補にしてくれと言っているのに、その隊長殿は聞き入れないのね?」

「はい」

「――当然だと思うわ」

「ええ?そ、そんな。困りますっ!なぜですかっ?」

「わからない?わからないのね。そりゃ、()が躍起になって、強引にもなるかも。ね〜?フィルガ〜ぁ?」

「・・・ま、確かに。これから告・・・『説明』するところだったんじゃないですか?そこを、この世話焼きが」

 ””ふん””

「神殿の護衛団ねぇ・・・流石に私も管轄外だわ。でも、まあ一応。その隊長殿のお名前知ってるかしら、タバサちゃん?」

 私が口を挟むのも野暮なんだけどねーと、付け足しながら婦人は訊いた。

「はい。え〜・・・とですね。『ウォ・・・う、ォェ・ロウニア』?――すみません、発音が難しくてうやむやですが・・・」

「「「ロウニア!?」」」

 婦人、青年、お嬢様。御三方の食いついた箇所は一緒だった。

「ロウニア家か。よりによって」

「まぁ。現・神殿の有力者の一族だしね。当然といえば、そうなのかもしれないけど・・・ダグレス〜?あんた、どうしちゃったの」

 ””――いや。ロウニアの若造とはまぁ、顔見知りだったからな。そんな奴等に囲まれて、この娘は泣いていたのだ。連れてきてやろうという気にもなろう?今は嬢様にお仕えするわが身からしてみれば。あの一族は執着した者には、容赦なく権力任せなのかと、ふと・・・呆れてみた次第さ””

 

「――そうでしたか。ありがとうございます。その、助けていただいて。ダグレス(・・・・)様」

 

 存在を、名前を呼んだから。そんなのは生意気だ。

 そう彼は言っていたが、それはただの『理由』をこしらえあげただけだと思えたのだ。今の話を聞いて。

 タバサは試すように、彼の名を再び呼んでみた。これでまた怒りを買うようなら、タバサが悪い。しかし彼は怒らないと思うから、呼んだのだ。

 (ダグレス様。それは気まぐれなのでしょうが、一応親切に取れないことも無い気がします。だから。)

 ありがとうございます。なのだ。タバサはまたじろりと睨まれてから、そっぽを向かれたがもう気にしなかった。

 ――やはり、彼は怒りを感じさせることは無かった。改めて、ぺこりと頭を下げる。

 

 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ 

 

「あらま。珍しい事するなと思ったら、ダグレス。このコ、気に入ったのね。うん、わかるけど〜。このコ、いいわね。かわいいわ」

 ””嬢様には遠く及ばぬ小雀だがな。まぁまぁ、だがな。まあまあ、いいだろう?””

 

 ―― ふ ふ ふ ふ ふ ふ ふ 。

 

 老婦人が緑の眼で覗き込むのは、紅珊瑚の瞳。・・・紅すぎて黒を感じさせるほどの、濃い色の。

 そんな二名が愉快そうに笑いあっている。

 そこに込められた共通の想いをいち早く、察知したらしいフィルガはタバサに声を掛けた。

「――タバサ嬢。送っていきます。今、すぐに。支度を・・・」

 

「「えーーーーーーーーーっ!!」」

 不満の声を同時に上げられた。上げたのはご婦人とご令嬢だった。

「え?」

 タバサは何事かと、小さく声を上げる。

 ””そうだ、フィルガ!何を言う。せっかく嬢様のいい遊び相手を、見繕(みつくろ)ってきてやったのに””

 こちらも不満気である。

 

「――やはりそう来ましたか」

 

 青年が深いため息と共に、前髪をかき上げた。

 

「え?えーーーと、ですね・・・私?お、お(いとま)を」

 

 タバサが恐るおそる意向を伝えようと、口を開けば。これまた、視線が痛い。痛いったらない・・・・・・。

 

 

 タバサを猛烈心配組代表・ララサ。同じくらいに心配している彼は・・・今回出番なし★



 いや。みんな心配してますが。


 『ジャスリート家』の皆さん、タバサで遊ぶ気満々です。帰す気ない。ぜえんぜん、ない。


 ある意味もっと、厄介なお人達に気に入られました〜と、気づく(はずの)次回です。



 

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