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★レシピ★ * 15 * オオカミさんに連れられて


 オオカミさん VS 菓子売り子


 どっちも決めたら、なかなか譲りません。

 

 ・・・・・・ぇ?なぁに?よく聞こえなかった・・・・・・

 

 ――・・・・・・ゥ・・・・・・ス・・・ァ

 

 ? ? ?

 

 ――・・・・・・ ・・・・・・・! 

 

 ゥ、ウ、・・・ォ・・・? 何?

 

 ――何で聞き取れないんだよ!俺の名前は、だ か ら  ””・・・・ ・・・・””!!

 

 そんなこと言われても。何でかなぁ・・・わかんないよ・・・

 

 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★ 

 

 

「はぁい!」

 ――威勢よく上がる右手と同時に、元気のいい声も上がった。

「はいったらはいったらハイったら、はーいーっ!!」

【や。何かなタバサ?】

「何かな、じゃありませんよ!オオカミさん。こ、これはですね、い、い、一体・・・何事ですかぁ!」

 

 威勢のいい声は、最後の方は泣き出しそうな声音に変わって行った。そんな声も祭壇の静けさが受け止めてくれる。

 そんな女神像の前。

 

 〜・★・☆・☆・☆・★・〜

 

 今日は逃げ帰る気満々で、バスケットが空になるや否や広場を駆け抜けた――。

 そんなタバサを待ち構えていた真っ黒いオオカミさんこと、隊長殿にばっちり捕まったというわけだ。

 あと一歩。もう一歩。進めばそこは広場の外。

 その境目の目印ともいえる、そびえ立つ石柱の影から黒い影が先に伸びて――タバサの前に立ちはだかった。

 己の影に重なる影に、その場に縫い付けられた。やはりと言うべきか。狼が・・・・・・のっそりと現われる。

【や。昨日はどうもタバサ?今日は女神様にご挨拶がまだのようだけど、帰るの?】

 口調はあくまでやわらか〜な、調子なのだが。タバサにはこう、聞こえていた――。

 

 やあ、昨日はずいぶん・・・ねぇ?この私にバスケットで襲い掛かってくれたよね。しかもこの広場で商いをしておきながら、女神様にご挨拶もせずに帰るなんて、ねぇ?――それって商人としてどうなのかな?

 

 ――と、まあ。自然なまでに威圧感を漂わせてキテイル。気のせいなんかじゃ、ない。

(うぐぐぐぐ・・・・・・!)

 タバサは持ち前の敏感さから空気を読んだ。読めなければものすごく楽なのに・・・・・・と思う。

 

 はたから見れば、とても微笑ましい光景だったと思われた。少女とその傍らに寄り添って連れ立つ、神殿まえ広場・護衛団の『犬』。

 もちろん愛玩犬ではなく、訓練された職業犬だ。彼の首にかけられたメダル――神殿の紋章が彫られたソレがその証。

 彼はとても賢いし、出で立ちだって実に堂々として立派だ。くどいようだが、流石に『隊長殿』なだけはある。おまけに皆から信用されているらしく「ララサちゃん、いいわね」何て声を掛けられたりもしたのだが。タバサの表情は冴えない。

(――いやぁ全然?良くないですよ。みなさーん、彼が隊長ですよー?そんな御方に連行されてるんですよーー?ついでにタバサです・・・ははははは・・・はぁ〜)

 そんな言葉はもちろん飲み込んだまま、進んだ。ついでに乾いた笑いも表に出さずに、進んだ。

 

 〜・★ ☆ ☆ ☆ ★・〜

 

 そうしていつも通りも、はや四日目の祭壇前にタバサは立ち尽くしていた。

 おいそれと座り込んではならない――。そんな厳かな(しつら)えがされていては、流石に警戒してしまう。

(これは――儀式用の祭礼壇とみて、間違いなさそう。まさか、このまま。無理やり『乙女の宣告』の儀式に進む気じゃ・・・・・・) 

 聖水とおぼしきものが張られた、聖盆の両脇には聖杯が一組。同じく聖剣。小さなベル・・・コレも聖鐘とやらで神器の一種だろう。

 等しく両脇を固めるように配された、静けさの漂う祭壇は少なくとも昨日までは無かった。

 ひとしきり眺め回してから、恐る恐るタバサはオオカミさんを見た。

 ――何、始めようとしてらしゃるんでしょうかねぇ・・・・・・?

 そんな不安いっぱいのタバサの眼差しに、ハチミツ色の眼がキラリと光った。

 惜しみなく射し込む、夕方の光を跳ね返して。

(企んでる。絶対何か、企んでる!何ですか、その生き生きした目は!!)

【タバサ。春の乙女のおつとめを承諾してくれるね?】

 

(――ナゼに確信しているかのような口ぶりなのでしょう?私、散っ々!お断りしてますでしょうに)

 タバサはいい加減、ぐったりくるなと思った。小さくため息混じりに向き合う。

 

「そうは仰いますがオオカミさん。私〜何べんもお伝えしております通りぃ、その日は商いが有るんですってば」

 正直・・・同じことを毎回毎回くり返し訴えるのも、疲れるものである。

 ――もう面倒くさいから、いいですよ。という丸投げにしたい気持ちに、すこ〜しだけなってくる。

 いやいや。そこが狙いかもしれない。タバサは思い直して、気持ちを引き締めた。

 根気良く行かなければ相手の言い分にぺろりと――丸飲みにされかねない。何せ相手は『オオカミ』さんなのだ。

 

【じゃ、お休みもらって】

「無理です」

【どうして?】

「稼ぎ時になぜ休まねばなりませんか!嫌です」

【――タバサは稼ぎたいの?だから休んでまで、乙女役をやりたくない?】

「そうです」

【稼げるよ?】

「は?――ハイ?」

【乙女役。引き受ければ、それなりの報奨金が用意されているし】

「・・・・・・イヤイヤ。そういう意味ともまた、違いますんですよ。そう取られても仕方の無いやり取りでしたが〜。あのですね。私は商人として、商いで稼ぎたいのです。祭典の日はうちの菓子を売り込む、またとない絶好の機会なのですよ。それを逃したくは無いのです!」

【何だ。じゃあ、心配要らないよ。君が乙女を引き受ければ、いい宣伝になるんじゃないかな?――乙女の生家の商う菓子。みな喜んで飛びつくよ。祭典の日だけじゃなくて、その後もずっと】

「・・・・・・そうじゃなくて〜そういうことじゃなくて〜も〜いい加減に諦めて下さいよ〜も〜・・・」

【タバサこそ。諦めが肝心なんじゃない?】

「――ぶちますよ?」

 ためらい無くバスケットを振りかぶる。オオカミさんときたら、身じろぎひとつしやしない。余裕たっぷりだ。きっとまた、かわす自信がおありなのだろう。

 タバサはオオカミさんを恨みがましく、睨み下ろした。

 何やら、緊張しているのはタバサだけ。よって二名の間には今ひとつ、緊迫した空気などというものは流れちゃくれなかった。

 そんな・・・・・・女神像の御前。

 

 〜・★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★・〜

 

【タバサ悪いんだけどこのままだと君、危ないかもしれないから】

 あいも変わらず悪びれた様子の窺えない謝りを口にしながら、さらりと言い放たれる。タバサは力が抜けたように、バスケットを下ろした。

「・・・はい?何が・・・・・・ですか?」

【うん。君ね候補と名が上がった時点で、狙われてるから】

「はぁ!?何ですかソレ!なんですか〜も〜!何に狙われると仰るんですか。あ、わかった!ハイ」

 つい挙手。

【どうぞ、タバサ】

「他の、例えば!自分の娘を候補に上げたい家の親族!――当たりでしょう」

【ああ。それもあるな。そういえば。】

「――え。・・・・・・はぁい」

 またしても挙手。今度は『質問があります、先生』とでも、付け加えたい調子だった。

【何かな、タバサ?】

「え〜と〜・・・狙われるって『何を』狙われるんですか?私のうちはたいして裕福でも、余裕があるわけでもなく―ですね・・・・・私をかどわかしたとしても、特に利は望めそうも無いんですが、その」

【確かに。そういう物の見方をする、不届きな連中も出てくるかもしれないね。ごめんねタバサ。君の事は責任持って護衛にあたるから、安心してくれ】

「オ オ カ ミ さ ん 。何ですかさっきからまさか狙われてるのは命とか言い出す気ですかまさか!!」

【当たらずとも、遠からず?さすが『春の乙女』役だね】

「ナゼに疑問口調ですか!おまけにさらりと『候補』を外さないで下さい!・って。えぇえぇぇえ〜〜!命?狙われる、かも、ですか私?」

 

 〜・★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★・〜

 

【先の――『白孔雀』様ことシィーラ・ジャスリート嬢の話は知っているかな?君が生まれるよりも少し前の話だけれども】

「はい。聞いたことはありますが。ジャスリート公ルゼ様のご息女で、跡取りでらっしゃるフィルガ様のお母上様ですよね?・・・・・・確か消息を絶たれたとか」

【そうなんだ。十七年前にね。じゃぁ『彼女』の起こした、一連の騒動の話は聞いているね?その様子だと】

「――はい。まあ・大体は」

【・・・じゃあ最近になって御力の現れた『紅孔雀』様を知ってる?彼女もジャスリート家縁のお嬢様らしいのだが】

「大まかにですけどね。聞いておりますよ。何でもフィルガ様の許嫁でらっしゃるとか。『シィーラ』様に『そっくり』のお嬢様ですよね?もちろんお会いした事はありませんが」

 

 ひそひそと、二名は神妙な口調と面持ちで確認しあった。なかば探り合うような。誰にも聞かれる心配は要らないはずの、この空間の中にあってさえその話題は慎重に取り扱わねばならない。

 そんな気持ちが相まって、思わずお互い声をひそめ合っているのだ。

 この国における重大な事件に数えられるだろう。今巷に広まっている話題・・・それはかつてこの国を騒がせた『聖句で囚われた獣をも魅了して』しまう『シィーラ様』こと『白孔雀』。

 その彼女と『同じように』どんな状態でもお構い無しに、獣をそのお膝元に跪かせてしまうという『乙女』が現われた、と。

 

 獣を招いて魅了する。そんな彼の乙女の髪は――それは見事な『紅』色だとか。

 

【――呼び声に抗いきれ無いのが、獣の本能らしくてね。実際・・・神殿仕えの獣のうち、何頭かは行ってしまったよ。『聖句』を振り切ってね。そこで『獣耳』の能力のある者は、目を付けられる事になる】

「何やら不吉な予感がするのだけは、ひしひしと感じますが〜・・・仰っている事の意味がよくわかりません」

【君みたいに獣の声を聞く者はね、タバサ。能力者不足の神殿からや、その他の術者からや、聖句を振り切った獣からしてみれば、実にお声を掛けたくなる存在なのさ。それぞれの思惑がある。それがいいものだけとは限らない】

「・・・・・・ララサは?ララサは大丈夫なのですか?」

【ララサは大丈夫。候補にどうかと名前は上がっていたけど、女神様に『乙女候補の申請』をまだ(・・)していなかったから】

「そうですか。・・・・・・よかった」

(よしよし。ララサに危険が及ぶ事はなさそうね・・・ならば。いよっし!決めた)

 ――逃げるに限る。

 

 もうこれ以上首を突っ込まされて、後に引けない所まで持っていく気に違いあるまい。この御方は。

 手遅れになる前に、聞かなかったことにするためにも。逃げよう。狙われてる、とか何とか。

 そんなものは彼の脅しに違いない。自分はただの街娘。

 神のご威光たなびかせた『獣』の皆さんが、興味を持つとは全然考えられやしませんよ。――な、タバサである。

 

 そんな画策をめぐらせ、タバサは思わず拳を握り締めていた。ぎりぎりと身体の芯から絞られるように、力が湧き上がって来るのはナゼなのか。

 

 駆け出すために筋肉をバネの様に。まずは圧縮させてから、飛び出すのだ。””いっ せぇ の、せえっ””で。

 そんな合図を心の中で数え出していた。

(・・・・・・いいっ・・・せ〜のぉ〜・・・)

 

 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★

 

【ウォレス】

「せ・・・ぇえ?って、は?ハイ?」

【ウォレス、だから。俺の名前】

「え・・・オオカミさんじゃなくて?」

 深く頷かれた。

【タバサ。俺の名前は””ウォレス””。聞こえる?””ウォレス・ロウニア””だよ】

 

「ォ?ウ?・・・って・・・・・・ロウニア(・・・・)!?」

 

 そういえば。弟の名前をウォレーン・ロウニアと言っていたではないか。

 ――そういえば!その時は引っかからなかったのだが。今、何かがタバサの中でかかった。

 

(思い出したよ、ロウニア家!!神殿仕えの名家、現・巫女王様のご生家ですわ〜よ〜ね〜・・・まずい。まずいよ〜!!)

 

 タバサはようやく、合点がいった。

 

 

 オオカミさん・・・もとい、ウォレス殿や『弟』君がナゼにこんなに――上から目線なのか。

 

 



 ロウニア家の、弟も弟なら・・・兄も兄です。


 育ちの良さが持つナチュラル〜な、強引さは一体何様のつもりでしょうか。


 どんどん嫌なヤツになって行くのね、あんた達兄弟は。


 このまま兄弟は姉妹を振り回し、振り回され、を繰り返していきます〜。


 応援してやって下さい・・・(誰を?)


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