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★レシピ★ * 13 * オオカミさんの定めた標的 


 いくら人畜無害そうでも、気をつけて!!

 そこの赤・・・違う。

 

 ――タバサ、どうした?大丈夫か?

 

 ・・・・・・うん。ちょっとだけ、くらくらした、の。

 

 ――タバサちゃん、本当に?本当に、平気?お顔、真っ青だよ!

 

 うん。もう、平気だよ。ただ、何だか。

 

 ――ただ?

 

 う、ん・・・あのね。女神様の像の方でね。誰かに見られている気がしたら、くらくらしたの 

 

 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★

 

 オオカミさんこと『ウォレス』は自分の毛並みの見事さを、それはそれは――よぉく心得ていた。

 見た目からして艶やかな光沢が、そのなめらかさを物語る。陽の光を受けているおかげで、益々毛並みの豊かさを魅せ付けているだろう。

 もとから女子供というものは、こういった動物の毛並みに弱い(・・)もののようだ。何が何でも触りたがる傾向が強い気がする。

 それも、気のせいなどではないだろう。

 ウォレスが大人しく従順な『犬』のフリでいて、広場をうろついているとしばしば呼び止められた。

 歓声とともに、『彼女』達はこぞって手を伸ばしてくる。それは疎ましくなるほどに、熱烈なものが多かった。

 きゃあきゃあ言われて悪い気もしないでもないが、所詮は四つ足のわが身である。褒め言葉も『カワイイ』だの『お利口サン』だので、それ以上は望めない。ただのぬいぐるみでしかないのだ。

(どうかなタバサ?君も触れてみたくは無い?――君だったら大歓迎なんだが)

 思っていても口には出せない。もちろんだ。出せるワケが無い。

 出来うる最大限のことといえば、せいぜい胸をそらし気味にするくらいだろうか。

 胸元の毛並みが、一等豊かで優美だから。そんな、ささやかな自慢に彼女は気がついているのか。いないのか?

 

 一撫ですればふんわりとした被毛が、触れる者の心を捉えるのは経験から実証済みだ。

『女』で、まだまだ『子供』のような無邪気さを持ったタバサなど、すぐさま飛びついて来そうだと踏んでいた。

 それなのに、思いの外タバサは用心深く身構えているようだった。

 

 対する彼女もまた豊かに波打つ髪が、陽光をはじき返すほど艶やかだった。それでいて髪質が柔らかいのだろう。

 打ち返す輝きはゆるやかで、湖面に反射する陽の光――。喩えて言うならば、それが相応しかろうか。

 まばゆ過ぎても突き刺す程ではなく、穏やかで優しい。煌きに目を細める事はあっても、鋭さは無い。

 それは彼女その者の持つ輝きだと思う。真剣に。

 

 〜・ ★ ・ ☆ ・ ★ ・〜

 

 魅せ付けてやるつもりが、魅せ付けられていた――。

  そんな風に見惚れていた髪が、ウォレスの視界を流れるように掠めた。

【!?】

 勢いが良すぎたのだろうか。立ち上がったタバサの身体が、大きく倒れこんできたのだ。

 瞬時に反応し、彼女の身体を受け止める。うまく身を滑り込ませる事ができて、ほっとしたのもつかの間で・・・・・・。

 思わず一瞬息を止めてしまったのは、抱きとめた身体があまりに軽かったせいだ。

(何だ?何で――出来ているんだ?タバサは)

 ウォレスは本気で・・・確かめたくなってしまう。

 身を捩って自分にしがみつく少女を、改めて凝視してもわかりそうもなかったが。

 

「オオカミさん・・・すご〜いっ!ふわふわで、ツヤピカだぁ〜!!思ったとおりだわ」

 すごーい、すごーい、すごーい!ステキ!!を連呼しながら、少女はやわらかな体を押し付けてくる。

【そう?】

「――は・いっ・・・・・・。ぁ、ゴメンなさい。とんだ失礼を!!」

 タバサは我に変えったようだ。自分の行いを恥じてか、ものすごい勢いで身体を引き剥がすように離す。そして何度も何度も――謝ってきた。

「ごめんなさい、ごめんなさい!急によろけてしまってごめんなさい!『隊長殿』にとんだ失礼を・・・・・・!!」

 そればかりを繰り返す少女が憐れなのと同時に、そんなに怯えなくても・・・と寂しくもなった。

(俺がさっき、権力を誇示するような言葉を吐いたからだ。このままでは、あの時(・・・)と同じ失敗を繰り返してしまいかねない)

 彼女が言葉使いも意識してかしこまらせているようで、やるせなかった。無理やり敬語を使おうとするからか、ぎこちなさがよそよそしい。

 タバサは慌てたようにバスケットを引き寄せると、力一杯かき抱く。まるですがるように、頼れるものはそれだけだとでも言いたげだった。

【いいんだよ、タバサ。気にしないで。それより、どうした?大丈夫かい?】

「だ、だいじょうぶですとも!全っ然!気にしないで下さい。だいじょぶ、ですから、あまり・・・近付かないで下さい〜」

 またしても手をぱたぱたさせながら、少女はしゃがみ込んだままずるずると後ずさって行った。

 明らかに立場の違いを自覚して、距離を置きたがっているようだ。こうなるとこの()は、けっして・・・一定の距離を崩してまで、踏み込もうとはしなくなる。

 いくらもう「オオカミさん」が、親切ぶった優しい声音を心がけようとも彼女の中で一線を引くと決めてしまったようだ。

 その言葉を無視して、距離を縮めようと一歩を踏み込む。

 気配でそれを察知した彼女は、思い切り身体をすくませてバスケットにしがみついている――。

 無意識ながら自分の与えられた権限を振りかざして、タバサに””うん””と言わせようとした事を悔いる。

 どうしても彼女には頷いてもらいたいがために、手段を問わなかった。タバサが『護衛団』との(いさか)いを避けたがっているのは、早くから気がついていた。今ではなく、もっともっと前から・・・・・・。

 タバサは黒装束の集団を嫌っている。深い、深い部分で。

 彼女は忘れ去っているようだが、ウォレスは忘れてはいない。だからその無意識の部分に、つけ込んだのだ。

(何て・・・事だ。俺はこういう時にいやらしさ(・・・・・)が出る――のだな)

 自分はその筋では名家と謳われている、ロウニア家の出身だ。わりとかしずかれて育った方とは思う。

 だから、とそれをいいワケにしてしまってはいけない。あの時も(・・・)。そして今も。

 ――しまった。その一言に尽きる。だがもう遅い。が、手遅れと諦めるのはまだ早い。

 

 〜・ ★ ・ ☆ ・ ★・〜

 

【タバサ――】

「オオカミさん!私もう帰ります。これ以上遅くなると、みんなに心配かけちゃいますし」

 タバサは名を呼ばれたが、すぐさま振り切るように言葉を遮った。そして再び、立ち上がった。今度は慎重に、ゆっくりと。

「――帰ります」

 きっぱりとそう宣言されてしまう。確かにこれ以上長居は無用だろう。

 タバサは自分の意向をはっきりと、申し伝え・・・終わったのだ。

 それを聞き入れようともしない「護衛団」の「隊長」殿などとは、話が長引けば長引くほどタバサに不利に働くと判断したのだろう。しかもアレだ。タバサは自分の分というものを(わきま)えてしまっている。

 彼女は幼いながらも交渉慣れしているのだ。さすが小さな頃から、商いに関わってきただけのことはある。

 自分の意向を伝えねば、相手の意向に流されるのだ。――交渉事というものは。

 それは実践によって体得できる、人生の経験値のひとつと思う。

(さすがだね、タバサ。流されちゃくれないか、もう(・・)。でも俺だって結構、場数を踏んできたんだよ?)

 お互い身をもって学んで来たようだ。ウォレスの記憶にある小さな女の子は、どこか怯えたような瞳をしていたものだが。

 今はその影など微塵も見当たらない。少しだけ罪悪感が薄らいだような。少しだけ、ほんの少しだけ・・・さみしい様な。

 そんな想いを込めて少女を引き止めるべく、ウォレスは眼差しですがった。

(行かないでおくれ。どうか、もう少しだけ)

 この身のもどかしさは本当に、手も足も出ないという事だ。

 肝心な時に頼りになるものといったら、何かといえばコレ(・・)しか無い。コレ――。

 本来ならば言葉持たない動物達が、全身で訴えるかのようないじらしさ(・・・・・)

 この身ならではの、持ち合わせを前面に押し出すべく。オオカミは琥珀の瞳で、紫紺の瞳を見つめ上げる。

 

 タバサはしばらく考え込んでくれたようだが、ふいに陽射しが随分傾き始めた窓に目をやる。

 肌寒さを覚えたのだろう。そういえば自分の足裏に伝わる感触も、ひんやりとして来ている。

 タバサは急がねば、と思ったのだろう。それじゃあ、と慌ててウォレスに背を向ける。

【タバサ、送るよ】

 素早く呼び止めると、タバサの傍らに寄り添う。

 ウォレスはすかさず、もっと『オオカミさん』の面を前面に押し出す。ステキな毛並で穏やかで、優しい優しい『オオカミさん』の部分を。

 さりげなく――出来うる限りやんわりと、己の身体をタバサにすり寄せた。

 表向きはタバサがまた足元を失った時に、すぐ対処できるようにするため。その実の狙いは、タバサに””うん””と言わせたいがため。

 

【タバサ、送っていくよ。また足元がふら付きでもしたら、危ないし心配だから送らせて。・・・・・・道々――話しを聞いてはくれないか。ダメ?】

 

 う、ぅっとタバサが息を呑んだのがわかって、内心しめたと思った。手応えアリ。そう判断できる。 

「・・・・・・う・・・ん、はい」

【じゃあ、行こうか】

 承諾を得ると、素早く促がした。やっぱりいいです、等と言い出させたりなんてするものか。そんな思いの表れである。

 ウォレスはタバサのバスケットを背に担ぐように、身を滑り込ませる。少しでも、少女の負担を軽くしてやるためだ。

 

 ★ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ★

 

『今度こそ、上手くやる』――しくじったりなど、するものか。

 そのためにはまず、逃すか。そんな勢いある言葉で、自分の感情が沸き上がるのはおそらく『獣身』をとっているせいか。

 

 自分はしょせん『狼』なのだ。見た目も・・・なかみも。

 

 そんな想いはもちろんおくびにも出さず、ウォレスは歩き出す。

 はたから見れば、彼女の騎士を気取っているように映るだろうか。それを思うと、かなり気分が良かった。

 (いや?騎士なんて大層なものではなくて・・・・・・。実際は『送り狼』か?)

 

 『オオカミ』のウォレスは、誇らしげにつき従う――。誇らしいから。ちらと浮かんだそんな言葉は、すぐ打ち消してしまった。

 

 

 

 


 

 ――食べられちゃいません。(まだ。←まだ?!)


 そんな事にはなりませんが、何ていいましょうか。


 この二人は先々・・・確実に頭に『BA★』の付く


 カップルに・・・・・・。ええ。


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