★レシピ★ * 11 * 一歩オトナの部下の人生論
――さて。ちょっとこちらも反省会です
今は大人ぶっている誰かさんも〜ウォレーンと何ら変わりませんでした。
だから見ちゃいられない気持ちなのです。
――おぅ、おかえり。って、どうした!?タバサ?何泣いてるんだ
・・・・・・父さん。『金持ちケンカせず』むずかしいよ・・・・・・
――誰かとケンカしたのか?ルカか、タリムか?
ううん。よく、知らない男の子。最近神殿前に行くといるの。そしてなんか、わかんないけど、イジワルされるの
――そっか〜・・・。それは、困ったな〜(って、父さんも身に覚えがある・・・かもだよ。娘よ)
父さんに言われたから。教えを守ろうと思って、からかわれても髪を引っ張られても、無視してガマンしたのに・・・・・・
★ ☆ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ☆ ★
【ウォレーン。タバサ嬢に対する態度を少し考えろ。――ジルサティナ様もご覧になっているのだぞ?】
「・・・・・・兄上」
【まぁ・・・せっかく覚悟を決めたのに、ララサ嬢が現われなかった落胆も分らないでもないが】
それだけを告げると、兄ウォレスは退出して行った。
兄はいつもそうだ。ウォレーンを長々と問い詰めるようなマネはしない。
恐らく反省を促がされるよりも、ずっと効果的だと知っての事だろう。
この兄にはこうやって、事あるごとにささやかながらも敵わないと思い知らされるのだ――。
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護衛団の控え室の扉を開けた途端、チェイズは怪訝そうに眉をひそめた。
突っ立っていたウォレーンと、真正面からぶつかりそうになったからだ。
「――何オマエ、どうした?危ねぇ」
「・・・・・・気をつけろ」
「こっちの台詞だ!蝋燭に火くらい灯せよ。暗いだろ・・・ま、オマエは夜目が利くからいいのか」
言いながらチェイズは持ち歩いていた燭台の火を分けて灯した。相変らずなウォレーンの態度だったが、チェイズはその声がいつもより覇気が無い事に気がついていた。
は、は〜〜〜ん。と思い当たるのは、先刻の祭壇でのやり取りだった。
それに先ほど通路で『オオカミ』のウォレス隊長とすれ違った時に、挨拶を交わしていたというのもある。
あまりこっちに顔を出す事のないお人だから、何用であったかは容易に察しが付いた――。
「もう交代の時間だから俺、帰るわ。――腹も減ったし、ルシンダの店行くんだけど。オマエも行く?」
「いや。いい」
ルシンダの店――。そこはチェイズをはじめ、護衛団の多くの者も行きつけにしている酒と食事のウマイ店。
酒場というほど独特の雰囲気の店ではないから、そんなに深酒しているヤツも比較的少なく、心置きなく空腹を満たせる。
まぁそれは、たむろしている客層のせいもあるだろうが。
そこなら礼儀知らずに容赦のないウォレーンでも、連れて行っても大丈夫だから誘ったのだが断られた。
いつもの事だから、別段気にもならない。が、明らかに――落ち込んでいるのが伝わってくるヤツを放っておけない。
それがチェイズの性分なのだ。お節介でしかない自覚があるのが、哀しい。それでも。
「よし!ウォレーン。いいこと教えてやるから元気出せ!」
「何だチェイズ?また、どうでもいい事だろう」
「なにお〜。まぁ、聞け。今日嬢ちゃんを捕獲・・・もとい拘束してわかったんだが。」
そこでひとつ、もったいぶったように咳払いをする。
「――タバサ嬢ちゃん、思いの外抱き心地がいい!ありゃ、着やせするんだな。ってぇことはだな!ララサ嬢ちゃんも・・・・・・」
「チェイズ。――おまえ、歯を食いしばれ」
「何だよっ!嬢ちゃんが暴れるから、悪いんだって。こっちが気を使って抱えてるのに、変にじたばたもがくから!」
「黙れ」――そう『問答無用』で拳をお見舞いされた。
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「そんなことオマエに言われるまでもない」
大げさに頭を抱えてうずくまっていたチェイズは、のろのろと立ち上がる。
「あ〜・・・。そっか。そだな、そういえば。あれだけララサ嬢ちゃんにべたべた抱きつかれてりゃ〜な〜。い〜いよな〜」
「・・・・・・・・」
無言で胸倉をわし捕まれ、チェイズは締め上げられる。
「わかった、わかった、わかりました!もう二度とこんな事口に・し・ま・せ・ん・って!」
チェイズは胸倉を掴み挙げられながら、両手も目線もを小さく上げた。
はいはい、バンザイだって。降参だって。――そんな意思表示をこめて。
『オオカミ』のウォレス隊長を、ここにはいなかったが何となく探った。
(女子供は本当に動物大好きだよな。役得狙って行くぜ、隊長もさ〜。ってか。隊長も絶対、ウォレーンと同じ事で悩む事になりはしませんかねぇ?)
それは。絶対の自信を持って言い切れる、予言――いや、違う。断言だった。
(高を括っていられるのも今のうち〜・・・ま。それはそれで、見ものだな。見てみたい!隊長の狼狽する様を!!)
その余裕を切り崩す可能性に溢れている、少女の笑みが浮かんだ。双子とは言え、気質が若干異なるのだろう。
淡く優しいすみれ色の瞳を揺らめかせるのが、ララサ。彼女に比べて深みのある青紫の瞳を輝かせるのが、タバサ。
それぞれが持つ独特の雰囲気が魅力的な表情を見せるものだと、チェイズは感心した。
例え同じ種類の花であろうと、その花弁の咲き誇り具合はみんな違うものなのだ、と。
雨に打たれて俯く風情も良し。太陽に向かって面を上げて咲き誇るも良し。
「何だかさ、ウォレーン?何も、嬢ちゃんタチに限った事じゃないけどさ。オンナノコってさぁぁ、砂糖菓子で出来ているのか〜!?とか、思わん?」
「・・・・・・頭は大丈夫かチェイズ?少し強く殴りすぎたか」
「そうだよ!加減しろよ・・・って、違う!喩えだよ、喩え!分れよ」
「大丈夫なようだな」
唐突に掴み挙げられていた胸倉を放される。チェイズは少しだけよろめいた。
「・・・ったく、乱暴だな。部下はもうちょっと丁重に扱ってくださいよ。副・隊長殿!!」
「そう言うのだったら、上司はもっと敬え。からかったりせずに」
「では――。ところで今日もあのコですが。可愛らしかったですね〜」
「そういうのを慇懃無礼っていうの知ってるか?」
言葉だけは敬いだしたが、態度は変わらずのチェイズはまたも睨まれた。だが、もちろん気にせず続ける。
「今日もさ〜嬢ちゃんときたら、何だよアレ。裾がふわふわしたスカートに、ひらひらひらひらした縁かがりの付いた前掛けしてさ〜。髪もまとめ上げていたけどさ、こう――」
そこでちょっとチェイズはわざとらしく、右手をひらつかせる。遠い目をしながら。
「――後れ毛までが、くるくる・ほわほわしていてさ〜!しかも、抱えてみたらあの柔らかさだろ〜!本っ当に俺は確信したね。――砂糖製だって!嬢ちゃんの作りは」
せつせつと力説を続けるチェイズに、ウォレーンの視線が冷たい。だが、そんなことにはすっかり慣れっこのチェイズは構わず熱弁をふるう。
「砂糖はふわふわだの、ひらひらだの、していないだろ・・・・・・」
「砂糖、菓子!!いいから聞け。聞くんだ、ウォレーン。俺の中ではそういうイメージがしっくりくるんだ。そういう、とにもかくにも甘くって・・・下手に扱えばすぐさま壊れちまうような所が、オンナノコを喩えるのにぴったりだろ?」
「そうか。まあ、自由だろうが、オマエは詩人にはなれないな」
「〜何だと!いいよ、別に。俺もう、護衛団員だし。なぁ、ウォレーン?オンナノコの取り扱いは、そういうものを扱うくらいの気持ちで行けや?」
「・・・・・・タバサの事か」
「ん。嬢ちゃんだけに限らず婦女子全般。老若関係なく。これ大事だって。試験に出る。もう、出ているぞ!ウォレーン」
「何の試験だ?」
「――人生の。だから線でも引っぱっておけ!」
「どこに教科書があるんだよ?」
そう呟くウォレーンに、チェイズはいたずらっぽく笑いながら、自分の胸を拳で二度打った。その後、ウォレーンの胸にも拳を突き当てる。
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ニカッと意味ありげに歯を見せて笑うチェイズに、ウォレーンは無言だった。何か考えるところが見つかったらしい。
(お。どうやらちゃんと伝わったようだな。一安心っと。基本は優しいヤツだしな。・・・しかしあの調子では一生、理解されんわ・・・ガンバレ)
「ま、ここじゃ出来ない話もルシンダの店なら出来るってぇワケだ。さ、行くぞ行くぞ!オマエも付き合え。シャザンも多分いるだろうし。百戦錬磨のアイツに相談してみるのも悪くないだろ?」
「アイツは・・・・・・いい。余計にこんがらがるだろ」
げんなりしながら言うウォレーンがおかしかった。確かにアイツはある意味、話していると疲労が増す。
「いやいや。わからんぞ〜?何か発見があるかもしれないだろ」
「人事だと思って。オマエはずいぶん楽しそうなんだな」
「ああ!俺は愉快でたまらないのさ。親友にやっと春が来たのをこの目で拝めているんだぞ。その上、あの余裕たっぷりのあの人が――!いや、あの人も・・・・・・。あ〜楽しみだなっと」
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「――それが本音か」
面白がりやがって。
「はっはっは。さ、行くか。『双子対策本部』設置といったところだな」
「・・・・・・それは何かが違うだろう」
「センス無いんだな、と心底呆れたように言うなよな〜。じゃ『上司の恋を見守る会』に・・・うっ!」
・・・しますか?副・隊長殿。そう最後までチェイズが続ける前に、思いっきり肘当てをくらった。
思わずみぞおちを押さえて立ち止まるチェイズを無視して、ウォレーンはさっさと先に部屋を出て行く。
チェイズはいい人です。ウォレーンの扱いを心得ています。寛容ですね。
そして何気にララサとウォレーン・タバサとチェイズの役どころといいましょうか。
調子は似ています。にぎやかに好奇心のおもむくままに騒ぐ二人に、冷静につっこみを入れる二人。