★レシピ★ * 10 * 候補に上がった乙女達
今日も一日、色々あったよ!くたびれた!な、タバサです。
――おまえ達だって、女の子なんだから。憧れたりしないのかい?
ん〜ん、あんまり〜。わたしも、あんまり〜。
――そうなのかい?ああやってキレイに着飾ってみたいとは、思わないのかい?
・・・・・・キレイだとは思うから、見ているのは楽しいけど。動きにくそうだから、着たいとは思わない。
――・・・まぁ。まだ、二人とも幼いものな。でも、そのうち・・・きっと・・・・・・。
きっと?
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夕飯も明日の準備も済ませ、タバサは自分の部屋でララサが来るのを待っていた。
ベッドに背を預ける格好で、足を投げ出して。
そうやってベッドに横にならないでいるから、タバサはかろうじて起きていられる状態だった。
気を許すと、かくん、かくんと首が――。前に後ろに倒れてしまう。
(ララサまだかな。もう、私・・・眠たいよぉ・・・・・・)
ハッキリ言って今日はくたびれた。体が、と言うよりも心の方が。
いきなり。本当に何の説明も無く、突然色々言われたってねぇ?
タバサはうとうとしながら、今一度オオカミさんの言葉を思い返す。彼が言わんとして射た事は何なのだろう?
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【タバサ。君は能力がある様だね。術の空間を感じとり、術者が誰かすぐに解った。しかも私の声がこうして聞こえてもいる】
――そりゃ、わかるよ。だってオオカミさんのまとう空気が違うもん。そんなの、誰だってわかるよ。能力?そんな大そうなものじゃないでしょ?それに!私耳は悪くないもの。しゃべってたら聞こえて当然でしょう・・・・・・?
【そういう意味じゃないよ、タバサ。このオオカミの声は皆が皆、聞こえるわけではないのだよ】
――・・・・・・そうなの?どうして?皆には聞こえないの・・・・・・?寂しいね。
【さみしい?どうしてそんな風に思うんだ、タバサ?】
お互いが――なんで、どうして、をぶつけあって話は全く見えてこなかった。そんなやり取り。
外は夕闇が迫ってきていた。だからタバサは心底慌てた。遅くなるにも程度がある。
「ね、ね!オオカミさん。明日また、ゆっくり話さない?本当に帰らないと!ララサが心配してる・・・・・・」
【ああ。話そう。――また、夕刻前にここで待っている】
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『神殿前広場・黒ずくめ集団対策!商い会議』――双子の本日の議題だ。ちなみにタバサが名づけた。ララサはしばらく沈黙してから「・・・・・・ちょっと、違うんじゃない」とだけ言った。
ララサが用意してくれたミルクティーを受け取る。たぁっぷりのミルクがほとんどを占めるミルク・ティー。香り立つ湯気からくゆるのは――嗅ぎ慣れた優しいもの。
「あ。うれし。カモミラ入り?」
「そう。ハチミツも」
「・・・・・・ハチミツ・・・・・・・」
「?どうかした、タバサちゃん」
ララサが隣に腰を下ろす。同じようにベッドにもたれ掛かり、足を投げ出しながらタバサを覗き込んだ。
「・・・ララサも知ってると思うけど。あのハチミツ色の瞳をした、兄弟。思い出したら地味にムカついてきた」
「うん、タバサちゃん。琥珀色の瞳の、あの兄弟ね。一体、何が・・・」
「聞いてよ〜聞いてよ〜!!あ〜も〜今日の私は偉かった!!」
「タバサちゃん、こぼれちゃう!熱いよ、気をつけて!」
タバサは眠気を吹き飛ばして、昨日から今日にかけての経緯を話した――。
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「――とか、なんとか。訳のわからないこと、たくさん言われたけど。ララサも『春の乙女』候補に上げられた、やっぱり?」
「・・・うん。ウォレーン、に。候補に上げるから受けて欲しいって」
(ウォレーン?)
タバサはララサが、『弟』の名を呼び捨てたのに軽い違和感を覚えた。
何だろう、この何となく――もやもやしたものが胸の辺りを占めるこの感覚は?
タバサには上手い具合に表現する言葉も、態度も見つからなかった。だから、やり過ごすように何にも感じないフリをして、ララサに向き合うしかなかった。
「――へぇ〜。もしかして・・・アイツがララサにイジワルしているから、神殿前には行きたくなくなったの?大丈夫?何か、感じ悪かったからびっくりした。お兄さんの方は礼儀正しかったのに。オオカミだけど」
「え!?」
「ん?」
ララサが見開いた目をタバサに向けた。
「――オオカミ?お兄さんの方が?」
「うん。真っ黒でツヤツヤのぴかぴかの毛並みがステキだったよ。間違いなく『兄上』・『隊長』って呼ばれていたよ」
「そうなの」
「しかし似てない兄弟だね。オオカミさんと人だもんね。――弟は背が高くて、目つきがちょっと鋭いかな。まぁ、護衛団所属だしね。眉も目もややつり上がり気味なせいか、顔立ちは凛々しい・・・方かな?それで、オオカミさんとお揃いのハチミツ色の瞳で、髪の毛は真っ黒だった。ちょっと長めで後ろで束ねていたよ。ここら辺は似てるね」
ララサはただただ黙って、タバサが一生懸命言葉を探しながら説明するのを聴いていた。とても熱心に聴いてくれているので、タバサもあまり得意ではないがウォレーンを描写するようにと心がけながら、身振り手振りも交えながら話す。
「――ね、タバサちゃん。ウォレーンの話し方はどんな感じだったの?」
「えらそう。ぶっきらぼう。あんまり長くは話さないで、短く切り上げられた。『べつに』『いや』『一度にまくし立てるな』とだけしか、話していないよ!そういえば〜!!」
タバサが思い出して再び悔しさから、大声を上げる。その横でララサが腕組みながら、妙に納得したように呟いた。
「うん。やっぱり、ウォレーンだわ。間違いなくそれは、ウォレーンだね」
「・・・・・・何てヤツなんだ」
タバサは呆れたように呻いた。ララサと同じように、腕組む。
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姉妹達はこれからどうして行こうか、兄弟の申し出はどうするか、商いはどう対処していこうか・・・・・・。
――から、久しぶりに会った幼馴染の兄弟や、担当区域が代わったおかげで久々に会うお得意様達の話や、昔の思い出話へと実にくるくる。――くるくる、くるくる話題を変えながら姉妹は話し込んだ。
本題からそれつつ、行きつ戻りつはいつもの事だ。よって、まとまったようでいて、話は一向にまとまらず終わりが無い。
「あのさぁ。ララサ。この事は父さんにまだ、ナイショにしておく?」
「う〜〜〜ん。多分、父さん泣くほうに1000・ロートだよね」
「だぁよねぇ〜嫁に出すよな騒ぎだろうからさぁ。目に浮かぶ」
ちなみに1000・ロートあれば、うちの焼き菓子が三種類詰め合わせ(全部で9個入り)がお求めいただけます。はい。おまけにキャンディーもお付けしますよ。と、営業トーク思考なタバサ。おそらくララサも。
夜も更け――明日に備えて、もう寝ましょうか。となるのが、いつもの二人だった。そして、それは今夜もだ。
まとまったようでいて、まとまらないままに対策本部はお開きにする事にした。
続きはまた明日。――明日もあるのだ。何より対策本部長のタバサがもう、起きていられそうもない。
「タバサちゃん。あのね。あんまりオオカミさんに、べたべた引っ付かない方がいいよ、絶対」
先にベッドもぐり込み、もう半分以上眠りに入っていたタバサに、ララサは囁きかける。声を潜めているのに、ずいぶん力強い響きにタバサは揺り起こされた。
「――ふぇ・・・?あ、うん。わかった。曲がりなりにも食べ物売ってるんだもんね。
私達。オオカミさんに触れた手で、お菓子売ってたらお客さんが不安がるかもだもんね。
だから。一日の終わり。商売が終わってからにするから。あと人目にも気をつけるよ」
「う、ん。まぁ。それもあるけど・・・。とにかく。必要以上にべたべたしない方がタバサちゃんのためだと思うな」
「――・・・・う、ん。わかったぁ〜おやすみね・・・・・・。」
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「・・・・・・。」
マズイ。ララサが思っていたよりもずっと。ずっとだ。タバサは『鈍い』。そっち方面だけ、異常に。なぜか。
(タバサちゃんは純粋だからなぁ。さすが私のかわいい妹。大事に出来ない人には、触れて欲しくない――)
くぅくぅと寝息を立てて眠るタバサを見つめ下ろしながら、ララサは深いため息を吐いた。
――女子の話というものは、脈絡も無く、まとまりも無く、止めども無いものではないでしょうか。
それでいて、妙〜に核心に触れていたりする事も。
あるような。ないような。――気がします。