★レシピ★ * 0 * キャンディー・ストアの看板娘〜開店前〜
双子ですが、やっぱり違うものでして。
ララサとタバサ。仲良し姉妹のやり取りをお楽しみ下さい〜。
キャンディーストア。要は飴屋です。ちなみに老舗の我が家です。
でもそれ、知ってるのは我が家の人間だけかもよ。――お父サマ?
双子の姉のララサが、言い出したというか。打ち明けたこと自体が突然だった。
『タバサちゃん、お願いがあるんだよね』
しかも。いつもと変わらず二人、父のこさえた飴だの菓子だのを籠に詰め込み終わり、さあ行きますか――。
「「行ってきます」」
そう同時に父に告げ、おう!行ってこい!と見送られたばかりじゃないか。
店から出てお互いの担当区域まで、いつもこうして二人で連れ立つ。その途中。
お願いがある――。そう切り出されて、へえ、何々〜?などと軽い調子で受け答えたタバサだったが。
眼を大きく見開いて、思わず叫んだ。
「な、なんで?どうしたって言うのよ!急にさあ!アンタ楽しそうに担当してたじゃないのよ!」
「うん・・・・・・。でもね、ちょっとね、行くのヤなのね。だから、担当区域変わってくれないかなあ?」
「そりゃ・・・もちろん構わないけどさ。どうしちゃったの?いじめられたの?」
「違うけど。ごめんね、タバサちゃん。――面倒な事、言ったりして」
いいけどさああ、と言うわりにはタバサは不満顔でララサを見ている。
真っ直ぐに。けれども遠慮がちに。
見つめてくる瞳は、薄紫のすみれの色だ。タバサも姉の瞳を見返した。自分の方が色味が強い分、ララサが言うには紫紺色に見えるらしい。背の高さも一緒だから、視線も同じ高さでもろにぶつかる。
ララサの方がまつげが長いせいか、多少は目じりが下がって見えなくもないが。
自分と同じ造りのはずだが、表情までもが同じとは限らない。それはタバサを、堪らなく切なくさせる。
覗き見た鏡の中の自分が、哀しそうな顔でこちらを見返してくるのだから――。
ララサはタバサ。タバサもララサ。二人は双子で、一人より二人だ。
「ララサがさあ、そういうこと言う時って。本当に自分でどうしようもない時だけだからさあ。どうしたの?言ってよ!」
ララサの俯き始めた顔を覗き込むようにして、タバサは訊いた。
「・・・・・・ごめんね」
「私にも言えない事なの?」
「違うの。何て言ったらいいのか、わからない、の・・・・・・」
申し訳無さそうに、ララサは呟いた。その様子からこれ以上追求した所で、進展の望みはなさそうだと判断できる。
「――わかった。今は訊かない。でも、言葉が見つかったら話してくれるよね?」
「うん。もちろんだよ、タバサちゃん。ごめんね」
「いいから。でも、約束だからね」
姉妹は立ち止まって、道の真ん中でやり取りしていた。その様子に気がついた、常連客が近づいてきて声をかける。
「こんにちわ!待ってたよ!タバサ・・・に、ララサちゃん?――今日のお勧めはなんだい?」
タバサの担当する区域の、石屋のおかみさんだ。いつも元気がよくて、行動がしゃきしゃきしている。
ほとんど毎日のようにお菓子を買ってくれる。甘いものに眼がないと言うよりも、うちの店のトリコなのだそうだ。嬉しい事を言ってくれる。
「こんにちわあ!」
タバサはいつも通りに胸を張り、負けじと声を張り上げて挨拶した。
「・・・こんにちわ」
勢いに驚いたためか、やや遅れてララサも挨拶を返した。ぺこりと頭も下げて。
「――今日のお勧めはですねえ、っと。実は言い忘れてましたけど、今日からしばらくララサが担当になるんですよ。私のと少しバスケットの中味が違うんですよ〜!ねっ、ララサ?」
言いながらララサのバスケットを取り上げて、自分のと持ち替えさせる。
「えっと、そうなんです」
「そうかい、ララサちゃん。よろしくね」
「毎度ありがとうね、おかみさん。じゃあ、よろしくね!ララサ、私も行かなきゃ」
タバサは片目だけを素早く閉じて見せると、後は駆け出していた。ララサが力強く頷く。
はいよ、行っておいでと言うおかみさんには、一旦振り返って手を振って応えた。
(誰だよ、何だよ、まったく、もう!!)
タバサはだんだんと腹が立って、居ても立ってもいられなくなったのだ。だから走る。
ララサにあんな顔させるヤツが、おそらくはそこに居るだろうから。
――タバサは勢い良く、神殿前の広場を目指した。そこが主に、ララサの担当する区域だ。
★ ☆ ☆ ☆ ★ ☆ ☆ ☆ ★
「あのコ、どうしたんだい?まあ、いつもだいたいあんな感じだけどもさ」
「・・・・・・ちょっと、急ぎの届け物があるからですよ」
(・・・・・・タバサちゃん。――ごめんね)
ララサは心の中で詫びながら、その一目散に掛けていく背を見送った。
自分と同じセピア色の、カールの強い髪がなびく。それと一緒に腰の後ろの、エプロンのリボンもなびいて見えた。
きつく結んで上げたはずなのだが、ほどけてしまったらしい。
(タバサちゃんなら、きっと。――あの人達と仲良くなれると思うから、ごめんね)
ララサは俯くのは止めにして、精一杯の笑顔でおかみさんに向き合った。
姉はララサ。やや、大人しい。
妹はタバサ。かなり、威勢がいい。
助け合って生きている双子の看板娘達が、恋に商いにとがんばっていきます。
よろしくどうぞです。