残酷な裏切り11
「泣かないでくださいってば、そんなんじゃ干からびて死んじゃいますよ?」
エン軍の拠点の片隅で、リダーは途方に暮れていた。護送用の装甲馬車には彼と小柄な人間の少女しかいない。その少女がもうずっと泣き止まないのだ。
「ほら、もっとしっかり食べてください。人間だって貧血は危険なんですからね」
粥を掬って差し出しても、少女は手足を縮めて隅に座り込み、泣きじゃくるだけだった。近寄ろうとするといやいやと首を振るので、豊かな金髪はすっかり縺れてぼさぼさだ。その髪の奥に垣間見える小さな顔は泣きはらして真っ赤だった。顔を擦りすぎて手まで赤い。
「ああ、なんでこんなことに……」リダーは深刻に溜息を吐いた。粥を置き、嫌がる少女の前へしゃがみ込むと、そっと手を伸ばして縺れた髪を解こうとする。
それを小さな手がぺしっと払った。「優しく、しないで、くださ……っ」
「だ、誰が人間なんかに優しくしますかっ。貴女の体調が戦況に関わるから、仕方なく!」
彼が思わず言い訳すると、少女はまたも俯いて泣き出した。どうやらすっかり優しくされるのが嫌になってしまったらしい。
リダーはすっかり困ってしまった。情けない顔で説得を試みる。
「攫われてひどい目にあってるんだから泣くのも仕方ないですけど、貴女が生き残るにはこれしかないって、説明しましたよね?」
「……はい……」弱々しい声で少女が答えた。
「採血は僕が責任を持って規定量を遵守しますし、魔法使いからも守ります。僕は貴方を守るのにうってつけなんですから」
少女は鼻をすすりながら頷く。
「あと、ルジェ氏はあの様子ならおそらく命に別状は――」
『ルジェ』と聞いた瞬間、少女の目から大粒の涙がぼろぼろと零れだした。
「だっ、大丈夫ですか?」リダーはおろおろして手巾を渡そうとし、拒否された。
「だい……っ、じょぶ、です……っ!」
とは言うものの、少女の涙は止まらない。リダーは溜息を吐いて天を仰いだ。
「もうすぐまた採血しなきゃいけないのに。どうしたら泣き止んでくれるんですかぁ」
「わか、な……っ」少女はしゃくり上げ、それから小さな声で呟いた。「ルジェ……」




