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ゴッドオブ美智佳参上

長編を書くのって大変ですけど楽しいですね

「あっづーい……」


 今日は土曜日。昨日は散々だったけれど、今日は外に出る予定はない。これ以上面倒なことに巻き込まれてたまるか。

 しかし。一日中ゲームでもしようと考えていた僕に襲いかかったのは恐るべき相手美智佳だった。


「聡ぃ!」


 ばんっと部屋のドアが勢いよく開いた。ゴッドオブ美智佳の登場だ。


「今日は絶対に逃がさないんだからっ!」


 なにやら恐ろしい言葉を口にして、にやにや笑っている。怖っ! めっちゃ怖っ! うわっ怖っ!


「いや、ちょっ、落ち着こう……? って危なっ!?」


 僕は瞬時にしゃがみこんだ。どうやら本棚にあった本を投げてきたようだ。後ろでがたーんとなにかが倒れる音がする。な、なんか壊れたら弁償だからなっ! 姉は次々と僕の(本当は聡の)本を投げてくる。だーかーらっ、危ないって!


「ぎゃっ」


 悲鳴をあげながらすごい速度で襲いかかってくる本から逃げる。そう、この世界は逃げるが勝ちだ! でも今は逃げてるだけじゃ敵わないかもなー……。だって、この人。


「反抗期とかっ、おねーちゃんはっ! 許しませんからっ!」


 そんなこと言われても! 反抗期じゃなく、これは姉の束縛から逃げる哀れな弟だよ! どこが反抗期なんだよ! 言い訳だろ、それはっ!

 投げる本がなくなったのか、今度は自慢の護身術でぼかすかやってくる。右右左下右左上下左……だぁーっ! やめろっ! 護身術は自分を守るために使うんだろっ。これは守備じゃなく攻撃だ! 攻めだ! どう考えたって守りなんかじゃないっ。


「ほらっ、あんた守りしかできてないわよー」


 挑発したいのかなんなのか、姉はにやにやしながらつぶやく。あの、作戦ですか? それ。っていうか、なんの目的でやってんの!? 守りをするべきなのはそっちだ。彼女は変わらず僕の腹を狙ってくる。あ、やめろ、ばか。痛い痛い。


「ちょっ、そろそろやめない? 疲れたって」


 交渉を持ちかけるが、姉は「あたしは疲れてないから」と聞く耳を持たない。お前、世界は自分を中心に回ってるとかいう考え持ってるんじゃないよな? そんなアホなこと考えたりなんかしてないよな?


「束縛法其の壱」


 彼女はぼそぼそとつぶやいた。雰囲気からして怖い。は? 束縛法? 其の壱……? えっ、僕、束縛される!? ってか、其の壱っていうのも怖い! レパートリーどんだけあるんだよ!

 とか考えていたら腕を背後から掴まれた。あの……美智佳さん……? 彼女は器用に紐を使って僕の腕を縛った。あーこの変態!! そしてきつい! 痛い! いつの間に紐用意したんだろう。

 痛い痛い……痛い痛い痛い。僕は紐のせいで引きちぎれそうな腕を必死に動かして外そうとしていた。無駄なんだけどねー。ははは。


「あーらー? ずいぶん苦労しているようね~」


 高笑いしながら近づいてきたのはゴッドオブ美智佳。だから、あの、ちょっと怖いです。

ぺし、ぺし、と軽い音が僕の部屋でなっている。なんの音かというと。


「だいたいさあ? なんっで右左確認しないわけぇ? んーなんだから轢かれたりすんのよこのクソ野郎」


「……はい、すみません」


 ひどい。僕は姉にいろいろ説教をされていた。拷問か、これは。美智佳これは変態なのか。しかも言い方がねちっこくて妙にムカつく。上から目線なのもやめていただきたく。ちなみにぺしぺしという音は姉が僕を正座させて何かの紐で頬を叩いているおとである。正座……ぺしぺし……これは、なんですか。あと地味に痛い。


「おねーちゃんさあ? あんたがちっさいころいーっつも言ってたよ? 右左はちゃんと見てから歩くんだよって」


 自分の事を“おねーちゃん”って言うのはどうかと思いますが。


「いや、でも僕は後ろから突っ込まれただけだから左右の確認は関係ないと思うんだけど」


 事故の時のことを思い出して、ちょっと言い返してみる。僕はたとえ左右の確認をしていても轢かれてたと思うぞ。あと僕はそんなこと言われた覚えはないぞ。知らねえ知らねえ。まあ、左右の確認は必要だと思うけどさー。


「口答えしなぁーいっ!」


 ぺちーん! と乾いた音が響く。


「いってー!」


 思わず叫んだ。だって、だって痛い……痛いよ。頬だよ、肌軟らかいんだよ、ここ。痛いんだよ、知ってる? あとお姉さん、そのねちっこい話し方をどうにかしてください。怖いから、ね。あとすごくムカつくから、ね。


「ねえ聡?」


 正座をしている僕の顔を覗きこんで彼女は呼びかける。無視していいかな。だめだよな。


「はい、なんでしょうお姉様」


 いつの間にか呼び方がグレードアップしていた。ついついお姉様って言っちゃったよ。だって怖いもん。お姉様怖い。


「バカにしてんの? 殴るよ?」


 笑顔で恐ろしいことを言われた。バカになんてしてないし殴られたくもない。勝手に僕を殴る設定にするな。


「殴るのはなし。それはあれだから、暴力だから。虐待だから」


 いつも言われっぱなしはさすがに嫌だから、ちょっとプレッシャー的なものをかけてみる。殴ったらダメだよー殴ったら暴力だよーゴリラ女とか呼ばれるかもしれないんだぞー言いふらすぞー。みたいな圧力をかけてみる。当然、声には出さないけど。目で語ってるんだよ、お姉さん。


「虐待は違うと思う」


 僕もそう思ってた。嘘だけど。いや、なにも別に暴力=虐待って考えてるわけじゃないよ? でもまあ、僕は特に悪いことしてないし? ここで暴力ふるったら? 虐待かなー? みたいな。ってか姉からの虐待とかあんのかな。


「じゃあ暴力変態」


「誤解を招く言い方はやめて」


 怒られた。頭はたかれた。痛い。あと、早く縄をほどいてほしいです。この状況だけ見たら誰だって悪役は美智佳の方だぞ。いいのか、叫んで母さんを呼んでやるぞ。あ、でも今の時間だったら録画してたドラマ見ながらスナック菓子つまんでるか寝てるかどっちかだな。聞こえても多分無視だろう。


「あのさあ、あたし思うんだよ」


「はいなんでございましょう」


「黙れ」


 相づちを打っただけなのに怒られた。いつもならなにも言わないとキレるくせに。なんで。今度は蹴られた。そろそろ虐待じゃないか? 呼んじゃうぞ。


「この世界は不平等だって」


「うん」


 なんか唐突だけどまあまあためになる話かな。僕はそう考えて真面目に聞くことにしたのだが。お姉様は暴走するものだ。


「だからあたしが変えなきゃ変わらないかなって」


 でたー! 世界はあたしを中心に回ってるという思い込みー! 変わるわけないだろ!


「それは出しゃばりすぎだと思うよ」


「いっぺん死んどく?」


 それは遠慮します。何で殺されなきゃいけない。素直に言っただけなのに。いやだってさ、世界のことに一般市民が口出しするのはどうかと思うよ。そういう庶民の考えを取り入れたりするのはいいことだと思うけど、そんなことが実際できるのかな? だって、病気になるのはランダムだし、人間が決められるようなものじゃない。キリスト教じゃないから神が決めるものだとか言わないけど、人間には決められない。

 以上、平等、無理。


「あーあ、どっかに子犬落ちてないかなー」


「地味に悲しいこと言うのやめよう。この辺りの人はそんなことしないよ」


 いや、知らないけどさ。この辺りの人が子犬捨てない人ばっかりだとは限らないけどさ。僕の世界のこの辺りの人たちはそんなことしなかったけど。ってか、なんで子犬。まあ、せめてどっかから「引き取ってー!」とかいう話がそのうち舞い込んでくることを願っておいてあげよう。


「そうとは限らんよぉ~?」


 いや、だから知っとると言うのに。あ、いや言ってないけど。思ってるだけだけど。


「うん、だね」


 無難にそう答えると、彼女はぽかんとしてこちらを見ていた。え、僕なんかまずった?


「意外」


 姉の口から出てきたのはそんな言葉だった。なにが?


「聡が、そんなこと言うなんて」


「は?」


 どういうことだろう? 僕が首を傾げていると、姉は理由を教えてくれた。


「聡はさ、あたしの意見に同意しないタイプじゃん。いっつも『それは違う』『それも違う』ってそんなのばっか。だから、驚いた。また『限らなくもないし』とか言うかなって思ってたから」


 なんだそれ。まるで僕の弟じゃないか。僕の意見はまるで無視。ああ言ったらこう言う、っていう感じで。例えば、僕は犬が好きっていう話をしていたら『俺は猫派』とか聞いてもないようなことを言ってきて『お前犬派?子供だなー』とバカにしてくる。そして延々と猫の素晴らしさを語ってきてうっぜえ、となるわけである。それがどんな話題でも起こるんだからすごいんだけど。


「そ、そっかぁ」


 適当な返事をする。彼女の言うことは、とても他人事(ひとごと)には思えなかった。僕もまったく同じことで悩んでたよ! そう、そうなんだよね! 否定してくるのマジでやめてって感じだよ! だってさ、人には人のにゅうさ……じゃなくて意見があるものだし。

 美智佳は長い髪を掻き上げてふう、とため息をついた。す、すみません。ってか、聡って意外とワルだったんですか。それはちょっと驚きだなぁ。へー、そうは思わなかったけど。あ、でも学校と家で性格が変わる人もいるみたいだし、あり得なくもないか。


「あ!」


「え!?」


 突然叫ばれて僕はびくっとした。や、やめろよ、急にでかい声出すのやめろよ。心臓止まるかと思った……。


「忘れてたーっ!」


 姉はそう嘆きながら僕の部屋を出ていった。うるさいなあ、もう。なにを忘れてたっていうんだ。あーほら、ドア開けっぱなしだし。迷惑もいいところだよ。僕はベッドに体を投げ出すと、力を抜いて寝ころんだ。なんでかな、めっちゃ眠いわー。そのまま寝てしまったのか、気がついたら一番暑い昼間だった。えー。もう少し寝たかった。

 あ、そういえば美智佳は「今日こそは逃がさない」的な台詞を吐いていたけど、あれはなんだったんだろう。なにを忘れていたのか部屋を飛び出して行ったし。ついていけない。気にするだけで疲れる。考えてるだけで幸せが逃げていく気がする。疲れた。僕はため息をついた。ごろごろとベッドで寝返りをしながら美智佳の言葉を思い出す。これ、意味とかあるのかなー。逃がさないんだからって、なにをだよ。なんでだよ。意味わかんねえよちんぷんかんぷんだよ。ついでになにを忘れていたのかもわからない。あの人の存在そのものが謎すぎる。考えてらんねー。ってなんか口が悪くなっている気が。


「意味わかんねー……」


 さて、いったい姉はなにを考えていたのでしょーか! シンキングタイムーっ!

 ……って感じで誰か考えてくれたりしないかなあ、まじで。だってわからないしなー。誰か考えてくれないかなー。正解を教えてくれないかなー。っていうか、本人に聞けば確実じゃないか? うんうん、そうしよう。


「おーいっ!みっ」


 美智佳、と呼びたかったのだけれど。聡は果たして彼女をどのように呼んでいたのだろうか。美智佳と普通に呼んでいたのか、もしくは姉貴とか姉ちゃんとかそういうタイプなのか……僕が知るか。わかるはずがない。考える気力もない。疲れた。

 僕は仕方がないので姉を呼ぶのをやめて、部屋を片付け始めた。掃除とかは、結構好きだったりする。そうだ、将来こういう仕事しようかなー。楽しそうだし。あーでも体力ないからできないかな。すぐ疲れてまた明日ってなりそうで怖い。そのうちリストラされたりしかねない。うん、向いてないや。

 じゃ、片付けるか。僕は姉が散々投げて散らかした聡の本を本棚に入れていく。どういう順番で並んでいたのかはわからないから適当に。しばらく元の世界に帰れそうにないし、本棚の本くらい別にいいと思う。

 というか、並び方とかめちゃくちゃ気にする人の気持ちがまったくもってわからない。同じシリーズとかのやつを近くに置きたいとか巻数はちゃんと並べたいとか、それくらいならわかる。僕もそれくらいはしている。だってどこにあるかいちいち探さないといけないし。

 でも、それ以上綺麗にはしない。本の題名順に並べるとか、作者ごとに分けるとか、ジャンルごとに分けるとか、あるいは自分が好きなのを一番取りやすい段にするとか。なにがしたいのかさっぱりわからん。なんでわざわざそこまで気にすることがあるんだ。本棚の本は適当にでいいんだよ、適当に。どうせ投げられたりするんだし。


 空は少し暗くなり始めていた。まだ四時なんだけど。ここの世界は日が沈むのが早い。暑いってのに、なんで冬みたいな……。ん? 冬? そっか、冬か。そういえば、火星に移住するというニュースがあったのを思い出した。冬なのに暑くて火星に移住しようとしてる。これは、つまり。


「……地球温暖化、だ」


 今僕たちの世界は地球温暖化による島国の消滅の危機にさらされている。ってか、地球温暖化になるの早くないか? 遅くても二十年後。地球はあたためられ続けた結果、地球温暖化を招いてしまったようだ。確かに、暑い。クーラーをつけるほどでもないが、まあまあ蒸し暑い。除湿をするべきではないかと思うくらいだ。

 ……そういえば、今が冬なら夏はどれくらい暑いんだろうか。四十度とか平気でいっちゃうのかもしれない。三十五度で熱中症などの理由で死にかけの僕らが、四十度に耐えられるはずがない。軽く死ねる。こうなったら北海道に移住するか、いっそのことロシアのシベリアとかに行かないと。北海道は分からないけど、今が冬ならシベリアは雪くらい降っていると思う。そこもダメなら南極に住めばいい。……どうやって生きるんだ。

 暑いから、もう一回寝ることにした。

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