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救出

「わー! わーわーわー!!」


「うるさいっ! 命が短くなってもいいの!?」


 そんなこと言うんだったらすぐそのカッターナイフの刃をしまってよ! かわいい顔して恐ろしい奴だな! 殺人鬼か!

 ああ、僕はなんでこの世界に飛ばされてきてしまったのでしょうか……。聡ごめん、お父さんお前の叔母さんにられるわー。ほんまごめんなー。って、何故にちょっと関西弁。人は本当にヤバイときほど冷静になれるってこのことだな。


「ぎゃーぎゃー! 殺されるー! 誰か助けてくれー!」


 叫ぶ。叫ぶ。だんだん声が掠れてくる。美鳥ななに口を塞がれる。わーやめろこの変態やろー! くそやろー!

効き目なし。以上、おしまい。


「死ねええええええ!」


 だーっ!! さっきの愛情あふれた行動とは正反対だけど! ね! どういうことですかー!?


「ぎゃああああああ」


 これこそホンモノの断末魔の叫び。死んじゃう! もしくは痛くなる! ってか、すでに痛い! 助けてー!


「原野さん、もう少し静かにしていただけませんか……って、キャー!」


 看護師さんが僕たち(特にこの叔母さん)のうるささにしびれを切らしてやってきたのだが、僕たちのこの状況に驚いて悲鳴を上げた。そんなことしてる暇があったら助けてくれませんかー!?

 看護師さん、おろおろ。叔母さん、目をぎらぎら。あーっあーっ!! 殺されるわーっ!!

 そういえば思ったんだけど、なんで僕とヒカリが結婚して苗字が原野なんだろう? どっちも原野じゃなく淺木と高橋ですが。あっ、そういえば僕の母さんの旧姓はたしか原野……。ま、まさか父さん、死んじゃう!? それか離婚!? ひぎゃー!!

 ……ああ、僕ってなんてついてないんだろう。なんでこんなことばっかり知っちゃうんだろう。何の罪を犯したっていうんですか。しかも親の死または離婚を予言してしまうって……。

 未来を変えれるんだったらどうにかして父さんと母さんの仲を保てるようにして、事故死だったら無駄だけど健康診断でもさせておこう。うんうん、備えあれば憂いなし、ですね。

 意外と知れてよかったかもなあ。父さんを助けられるかもしれないし★ あっ、なんか黒星が……。笑いしか起こらねー。笑いすら起こらねー。えーえーえー。

 ちょっと待って、これってもしかして中二病? いやいや、そんな中二病見たことも聞いたこともないわ。あと僕は高校生だから。中二病じゃないはずだから。


「あっ、看護師さん、警察! 警察呼んでください!」


 僕は不意に思い出して看護師さんに指示をした。すみません、えらそうにしちゃって。違うんですよ、別にけが人だからちょっと横暴に振る舞ってもいいだろうなんて思ってませんよ!

 看護師さんは頷いてばたばたと病室を出て行った。よし、あとは警察を待つだけ……あっ! ひー、どうしよう!

 ――――犯罪者Nを野放しにしているじゃないか。

 軽症とはいっても一応けが人の僕と社会人の女性、どっちが勝てるかと言ったら普通に考えると完全に美鳥ななの方が有利だ。こ、今度こそ殺されるんじゃ……? やばっ。


「ふふふ……ふふふふふ……」


 ひぃっ! 美鳥ななが不敵に微笑んだぁっ! こ、こ、殺され……る……。もう、この世の終わりだ。


「今度こそ、息の根を止めてやるわっっ!!」


 いいいいぃいぃいぃぃぃぃいっ!? ってかさあ、何で僕は殺されかけてるんだっけ? おかしいよね? 僕はなにもしていないはずだよね? あっ、真紀の性格の逆恨みか。いやーっ、怖いね、逆ギレ。僕はなにもしてないのにねー。ひっはっは。……うん、人間はね、本当に危険で危険でたまらなくてもう我慢できなくて怖いよ死んじゃうよ、って時に限ってなんかおかしな言葉を連ねたりべらべらしゃべったり暴れたり急に黙ったりするんだよな。知ってる。で、実際今そうなってる。うわお。

 そして、そろそろ僕の最期のとき。あうぅ、殺られちゃうよー! まあ、でももしかしたらこっちで死んだらあっちで生き返るとかあるかもだし。うんうん、可能性はなくはない。そもそも、僕はこんなファンタジーな出来事に巻き込まれてんだから、今さらそうでしたーとか言われても「あ、そーなんですか」みたいな感じになるだけだと思う。僕意外とそういうことにたいして大きなリアクションをしたりしないんだよ。知ってた?


「……バカぁっ!」


 どかーん! という盛大なオノマトペが僕の耳を貫く。とともに、僕を殺す気満々だった美鳥ななが吹っ飛んでいた。むしろ、ぶっ飛んでいた。

 突然のことにあたふたする僕を瞳にとらえたのは、僕をかばっててっきり意識不明の重体になっていると思われていた川内真紀だった。


「ま、真紀……さん?」


「ばっかじゃないの! ほんっとにばか! ばかばか!」


 突然の罵倒。しかもばかばっか。このやろ。なんだよばかばかって。僕はそこまで言われるほどばかじゃない。


「ばかぁ……殺されたかと思ったじゃん……」


 あ、心配させてた? それは謝る。でも、けが大丈夫?


「真紀、けが……大丈夫、なのか?」


「ん? けが? あっはっは! なに言ってんの聡ぃ! 聡の方が重傷だよもー」


 は? 僕の方が重傷? ありえんありえん。だって真紀は足を骨折したはずで……えっ、してない?

 僕はまじまじと彼女の足を見た。ギプスひとつつけていない。さらに素足。スリッパを履いただけ。えーと、これはさっきの叔母さんの情報が間違っていたということでいいのかな?


「それにしても医学は発達してるよねー」


 彼女は楽しそうに笑いながら言った。まあ、発達してるだろうね。どうせあれでしょ、未来だから、でしょ。


「なんと! たったの一時間で足の骨折が治ったんだよー! すごいだろー!」


「ええぇ!?」


 思わず大きな声を出してしまった。いや、だって、骨折が治った? 一時間で? ほんとに?

 じゃあ、あの叔母さんの話は真実だったけれど治ってしまった、ということでいいんだ? ええーすげー。未来すげー。しかも結構近い未来だし。ああ、だから僕の方が重傷ってか。


「すごっ、すごいねー」


 真紀は満足そうにうなずく。叔母さん残念だったね、骨折は跡形もなく消えていったよ。百万無駄でしたね。騙される方もどうかと思うけど。ってか、そんなんで人を殺そうとする方もどうかと思うけど。


「それで、僕は?」


 いまいち自分の体がどんな状態なのかよくわからない。痛みもないし、動かせないところもない。ついでに言えば、看護師さんも軽傷だと教えてくれた。


「ん? あー、すり傷くらいじゃない?」


 くらいじゃない? って、適当だなぁ。まあいいけどさー。

 少しして、警察が入ってきた。真紀に突き飛ばされて意識が飛んでいた僕の叔母さんは運ばれていた。僕らも事情聴取みたいなのをされるハメに。めんどくさいー寝たいー。

 警察は、僕の家族にもいろいろと事情聴取をしていた。例えば、叔母さん(ヤンデレ)の性格とか。そういうのをいろいろ聞いているようだ。


「聡っ!」


 がばっ。事情聴取が終わったのか、母さん(ヒカリ)に抱きしめられた。や、やめろ、なんだこれ罰ゲームかなにかか。見た目は母性あふれる優しげな女性だけど、ヒカリだってわかってるし僕一応高校生だしっ! これが本物の母親でもさすがにハグは遠慮したい。


「聡ーっ!」


 こちらもがばっ。だーっ! 父さん(ぼく)やめろおおお! 抱きつくな! 抱きしめるな! やっぱりこんなの罰ゲーム以外のなにものでもないよ……。なんでこんなことになったんだ。それもこれもすべてあのヤンデレのせいだ。一生恨むからな、叔母さん。

 ってか、かわいいかわいい甥っ子(笑)に悪い虫をつけたくないから殺すとかこれ、完全にヤンデレだよな? これって、ヤンデレだよな?

 絶対にこんな人琢と結婚なんかさせない。断固反対。絶対に阻止してみせる。


「よかった、よかった」


 母さんは僕の頭をなでながら何度も繰り返した。うん、わかったから離して。ごめん、わかったから離して。ほんと、わかったから離して。


「体は大丈夫か?」


 心配そうに訊いてくる父さん。うん、大丈夫だから腕つかむのやめて怖い。


「大丈夫。ありがとう」


 家族愛だなー、とか考えながらぼけーっとする。真紀の方も家族に囲まれてまんざらでもなさそうだ。とりあえずみんな無事でよかったなー。うんうん。

 といっても、一人用の病室に二家族と警察がいるとかなり窮屈だ。警察の方には出てもらい、真紀の家族も帰ると言った。

 母は真紀の母に手を振った。あちらも愛想笑いつきで振りかえしてくれて、ちょっと気分が良くなったらしい。母はにこにこしながら「じゃあ帰って今日はハンバーグにするか!」と叫んだ。えっ、今何時!?

 僕は学校に行く時に轢かれた。というか、轢かれかけた。それで外はもう暗い。えーっ! どんだけ寝過ごしたんだろ……。学校サボっちゃったな。ま、いっか。楽観的に、楽観的に生きていこう!


「帰ろう帰ろう♪」


 姉も機嫌がいいようで、帰ろうコールをしている。姉の考えることはすぐにわかるぞ。どうせ僕のお見舞いに来たことで授業サボれたラッキー! とか思ってんだろ。すり傷だけとはいえ、結構痛かったんだからなー。


「さ、帰ろう」


 あたたかい声。手を伸ばす。僕は不覚にも少しだけ泣きそうになった。帰ろうって、その言葉が聞けたことで。

 もう数年くらい、おかえりとかいってらっしゃいがない日々を過ごしてきた。家族で出かけることもないし、顔を合わせて話すことも家族みんなでご飯を食べることも稀だった。そんな僕に、家族愛を見せつけてみろ。泣けるだろ? って、なに独り言言ってんだろう。


「聡、なにぼさーっとしてんの。さっさとハンバーグ作ってもらお!」


 姉がそう言って僕の腕を引っ張った。痛い痛い。でも、その手はあたたかくて、愛にあふれていて……?

 直感でも、別にいいかなって思う。間違っても、別にいいと思う。だめだけど、いいと思う。それが、人間性って感じだと思うから。

 ……多分、はもうつけないから。そういう不安定なことやめた。楽観的に、直感で。これからの僕のモットーにします。ということで。


「帰りますか」


 原野聡、帰宅。


 家に帰ると早速母が約束通りハンバーグを作ってくれるようだった。うん、ハンバーグ早く食べたい。なんか安心したらお腹空いた。しかも眠い。暗くなるのも早いしお腹空くのも早いし、この世界は一体どうなっているんだろう。まあそんなことはどうでもいいとして。

 部屋に入るとすごく蒸し暑かった。リビングに置いてあった小さめの扇風機を運んできてつけてみる。古いやつなのか、首振りにしているとぐうぃーんという音が聞こえてくる。うるさいから首振りにしないでおいた。羽が回っている音もかすかに聞こえてくるのだが、さすがにそこまで気にしていては暑いだけなので我慢した。ぱらたらぱらたら……と変な音。なんかうるさいな。

 気を紛らわせるために本でも読もうかと思ったが、趣味の悪い本ばかり並んでいた。ぱらぱらと読めるような雑誌もまったくないし、くだらないギャグマンガも見当たらない。ちなみに、僕の好きなSF小説『タイムロボ』はあった。だけど内容が少し違って、作者も聞いたことのない名前だった。なんかアレされたのかな? 書き換え的な感じの。作者が違ってちょっとアレンジしてみましたーみたいな。でも、まったく聞いたことのない名前だから、そこまで有名でもなさそうだしなぁ……。有名な人だったら分からなくもないんだけど。ああでも未来の有名な作者なら僕が知らなくても無理はないかな。

 そんな感じでしばらく悩んでいると、下から僕を呼ぶ声が聞こえた。お、ハンバーグできたのかな?


「聡ー、お箸並べてー!」


 なんだ、手伝いの要求か。どこの母親でもこういうのはやるんですな。


「はいはい」


 本棚から目を逸らしてドアを開ける。扇風機の電源を消すのも忘れずに。外に出ても部屋とたいして変わらない暑さだった。生暖かい風が窓から入ってくるけど、当然涼しくなんかない。吹いてない方がマシなくらいだ。廊下の窓を閉めて階段を降りた。

 一階のリビングに入ると、心地よい冷風が汗をかいた首元にあたった。涼し~。なにかと思えばクーラーをつけていたようだ。おかげで熱のこもった体は表面的に冷やされる。喉渇いたしお茶でも飲もう。水分補給はちゃんとしないと余裕で熱中症になる。最近の熱中症になった人はたくさんいるし、ここは未来だからもっと増えているかもしれない。冬だからって気を抜いていたら倒れる気がする。こめかみから流れる汗を手の甲で拭った。


「いただきまーす」


 ハンバーグは熱いけど、部屋は涼しい。快適な温度と湿度のおかげで、だらだらと汗を流しながら夕食をいただくことはなかった。食べ終わってしばらくしたらお風呂に入り、寝る用意をして部屋に入った。さらに夜が深まったからか、暑さはだいぶマシになっていた。ベッドに寝ころがってしばらくしたら、いつの間にか僕は寝ていた。

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