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友達

「山崎、ありがとう。じゃあな」


 僕は山崎にお礼を言うと、手を振りながら別れた。あいつ、いいやつだなぁ。帰ったらヒカリに教えておこうっと。


「あ、なあ聡」


 呼び止められて、僕は振り向く。彼は笑って言った。


「頑張れよ」


 一瞬なんのことかと思ったが、おそらく片間裕実のことだろう。僕は頷いて「わかった」と告げた。

彼は少し、さみしそうにしていた。


 なんであんな顔をしていたのか少し気になりながらも僕は教室に荷物を取りに行こうとしているところだった。中庭は暗かったけれど、ここまで来れば太陽の光が直接当たってきて暑い。ここの季節はよくわからないが、まあ夏ということでいいだろう。


「あっ、聡!」


呼びかけられて振り向くと、そこにいたのは名探偵の高岡だった。


「大丈夫だったか? 結局、誰がお前を呼び出してたんだ?」


その問いに、僕は心の中で笑いながら答える。


「山崎だったよ。お前の言うとおり、男子だったな」


「え? そうか、やっぱり男子だったんだ……」


彼は意味深に空を見上げながらそうつぶやいた。なになになになに、怖い怖い。男子だったよ。男子だったけどさ!


「あ、えーっと、ありがとう。教えてくれて。……っていうか、なんで男子だって分かったんだっけ?」


すると高岡は気まずそうに頭をかきまわして、うつむいた。


「いや、別に山崎から聞いてたとかそんなんじゃねえから!」


 彼はどうやら鈍臭いようだ。普通に答えを言ってしまっている。これじゃあなんの意味もない。バレバレだ。


「わかったわかった」


 僕がそう言うと、彼はやっと自分の言ったことに気がついたのかしまった、という顔をした。そんな顔したって無駄だぞ。

 それはさておき、何故彼は山崎から僕を呼び出すということを聞いたのだろう。彼は山崎に相談したってことなのだろうか。ならどうして僕にそれらしきことを彼は教えてくれたのだろう。

 疑問が浮かび上がる。しかしまあそんなに気にしていてもなんの得にもならないから、考えるのはやめよう。めんどくさくなるだけだ。あ、違う、面倒くさくなるだけだ。


「じゃ、まあ僕は帰るから。じゃあな」


 そう告げてその場を立ち去ろうとすると、高岡は僕の腕を掴んだ。怖い怖い怖い怖い。なになになになに?


「川内、真紀ってやつと仲いいだろ、お前」


「はあ?」


 誰だよそれ、と言おうとしたところで止まった。真紀――――つまりはヒカリのことを言っているのだ。


「それがどうしたんだよ」


 僕がそう聞くと、彼は照れくさそうにしながらぼそぼそつぶやいた。


「お、俺のこと、なんか言ってた?ほら、前三人で話したし、さ」


 三人で話した、という部分に関しては身に覚えがなかった。おそらく、僕らがここにくる前、聡と真紀と高岡で話したのだろう。それにしても高岡はもしや真紀のことが好きだったりするのか。


「高岡、もしかしてお前――――」


「あっ、そうだ聡! お前のこと、さっき先生が探してた! ほら、行ってこい!」


 僕の言葉を遮ってきた上に行ってこい、とこの場から離れろというような言葉を発した高岡は、顔を少し赤くさせていた。やはり彼はヒカリ、ではなく真紀のことが好きなのだろう。ザ・青春だなぁ、とかのんきに考える。


「はいはい。じゃあ、行ってくるよ」


 高岡にそう返事して別れたあと、僕は疑問に思った。どこへ行けばその先生に会えるのか、そもそも僕を探していた先生は誰なのか、どの方向に行ったのか。なにひとつ聞いちゃいない。

 数秒後、僕は高岡に騙されたのだと気がついた。



「ちょっとどこ行ってたのよバカ!」


 罵倒は突然だった。僕は目を丸くしてその相手を凝視した。


「ひ、ヒカリ?」


「そうよ、ヒカリよ! ってゆーか、今は真紀!」


 ヒカリはご立腹のようだった。何故だ。


「あたしはね、ずっとあんたを探してたの! なのになによ、こんなところでふらふらふらふらしてさぁ! こんのクソガキがァ!」


 探していたと言われても……。あれ?そういえば高岡は先生が探しているって言ってたよな。でも、実際僕を探していたのはヒカリという一生徒だった。彼は嘘を吐いたのか、それともヒカリが僕を探しているということは知らなかったのか……。どっちなんだろう。

 それにしても、ヒカリの言葉はかなりひどい。呼び出されて嘘吐かれて悩んでたっていうかなりハードな放課後を過ごしていたというのに、そこまでキレられるとこっちまでイライラしてくる。なんだ、クソガキって。僕がガキなら同じ年のヒカリもガキだ。いや、精神年齢的には僕の方が明らかに上だと思う。……多分。


「ねえちょっと、聞いてんの!?」


 怒鳴られた。手荒い彼女はさっそく僕の腹にパンチをかましてきた。さすがにこれには僕もキレたので無視することにした。いくら横暴なヒカリ姫であっても、一応彼女は女子のため、手を上げたりはしない。同じことをしたって無駄なのだ。幸い、ヒカリはかまってちゃんだからすぐにさみしくなって反省すると思う。伊達に幼馴染やってたわけじゃないんです。


「ね、ちょっと創。もー、そ、そんな怒らないでよ。ね? 反省してるから」


「……」


 この反応は予想通りだ。やっぱりこいつは昔から変わっていない。いつも誰かがいないと、助けてくれないといけない。一人ではなにもできない。そんな幼馴染、わがまま姫は今日もかまってちゃんぶりを発揮するのである。

 どんなに綺麗な花も水がなければ、日光がなければ、空気がなければ枯れてしまう。可愛いうさぎはさみしいと死んでしまうと言うから、きっとヒカリはうさぎのようなものなんだろう。かまってかまって、私をかまって。つぶらな瞳でそう訴えて。


「む~……創、ごめん」


 ヒカリはしおらしく謝った。いつもとは少し違う反応に、僕は正直驚いていた。まあ、きっと彼女のことだから結構心の中で戦争が繰り広げられていたのだろう。

 謝るか、謝らないか。彼女の中のたくさんのプライドが真の心を攻撃して。我慢しようって思ってもまた邪魔されて。そんなものがきっと、ヒカリの心の内にあったんだろうと考える。

 子供だなあ、としみじみ思いながら、このことが彼女に伝わったらきっと飛び蹴りでは済まされないだろうと考える僕。……悲しいなあ。がっくし。


「いーよ」


 もふ。もふもふ。ヒカリの頭をぽんぽんしながらそう言った。あ、なんかこれはちょっと誤解されそうなシーンだな。違う、違うんだって。これはそういうことじゃなくて微笑ましい幼馴染の仲直りであって決してそういう系のものではなく。


「うー、もう、創のばかぁ」


「なんでいきなり罵倒されないといけないんだ」


 本当にいつもこれは唐突である。蹴るときも悪口言うときもものを投げてくるときも、なにもしていないはずなのに被害を受けるのはいつも僕だ。こんなわがまま姫には付き合ってられない。そう思っていたはずなんだけど。


「ばかばか」


 しつこい。


「うっせーばか」


 言い返すと、今度は屁理屈が飛んでくる。


「ばかって言った方がばかだもん」


「ならやっぱりお前はばかだ」


 屁理屈に言い返してやった。ドヤ。

 僕が必死に心の中でドヤ顔をしているとヒカリは突然不機嫌になった。お前は幼稚園児か。


「……むぅ」


 むくれて上目遣いしたって無駄だ。幼馴染がそんなことしたって可愛いもくそもない。そもそもそういう風に考えたこともないので不覚にもどきっとしてしまう哀れな主人公になったりはしない、多分。そんな王道シチュに巻き込まれてたまるか。

 僕はそんなばかではない。ばかばか言われてるけど多分、そこまでばかではないはずだ。多分。……やっぱり説得力ないなぁ。悲しい。


 説得力がある人になりたい今日この頃。



「眠い」


「だろうな」


 ここは僕の部屋である。そして時刻は十時をまわっている。だというのにもかかわらず、こいつ、高橋ヒカリは僕の部屋でくつろいでいた。この状況を高岡が見たらきっと羨ましげに眺めてくるのだろうが、残念ながら高岡の家は学校を挟んで正反対のところにあるため望遠鏡を使ったって見えないのである。第一、カーテンを閉めてあるので、超能力者でもない限り見えるわけがないのだ。残念だったな。

 最近思ったことと言えば二人の名字が似ているということだ。高橋と高岡。結婚したりするとなれば、何か微妙だなあ、と両者の親が言いそうだ。あ、何かいろいろと早いことを考えてしまった。これが本当になったら高岡は飛び跳ねるだろう。が、ヒカリの方はどうなんだろう。そもそも高岡と話したこともないのではと思う。

 高岡が言っていた『三人で話した時』というのもまだ僕らが来ていない時の話だろうし。それにしても、真紀はいい人だったんだろうか。そりゃあそうだな。なんてったってあのわがまま姫が好かれてるんだもんな。絶対に真紀の方が性格が良かったに違いない。間違ってもヒカリの性格を好きになる男子はいないと思う。……多分。


「寝てもいい?」


 明らかに眠そうな声で訴えられる。ほざけばかが。寝るなら家だ、家。家は寝るためにあるようなもんだぞ。そこで寝なくてどこで寝るってんだ。


「自分の家で寝ろ」


「めんどくさい」


 一瞬本気で殴ろうかと思った。めんどくさいんならまず来るな! なんで来る! 誰もお前なんか呼んでないぞ! 脅されても呼ばないからな! 多分!(ドヤ)


「投げるぞ」


 本気で言ったつもりではなかったのだが、蹴られた。一回死んだらいいと思う。


 それはさておき、本題に入ろう。実は僕は高岡が真紀を好きだということを聞かされて(というか悟って)しまったのである。はい。知ってますよね。あんな分かりやすい性格をしていたら、将来困ると思う。多分。……僕も将来この性格で困ると思う。

 まあそんな僕の話はおいといて。彼からあの後何か聞いたわけではないのだが、僕の予想では真紀がとても・・・(嫌味)良い性格をしていたから好きになったのだと思う。性格については前に『三人で話したとき』に知ったのだろう。そして片思いをし続けて今に至る……みたいな。すごいな、高岡。そんな性格には見えなかった。あの穏やかな風貌からして、たしかに誠実そうだなあとは思っていたが、ここまで誠実とは。多分初恋だろうな。青春青春。


 とまあそんな妄想を僕がしているすきに、ヒカリは寝ていた。ふざけるな、帰れって言ったよな。若干キレながら押し入れに入っていた長年使っていなさそうな毛布を掛けてやった。あ、別にこれもそういう系のものではなくただ単に風邪なんてひかれたらこっちが困るからという自分の得を考えているだけであって決してヒカリのことを心配しているわけでは。……これ、なんか必死すぎて逆に捉えられそうだからやめよう。否定をし過ぎると怪しく感じられるってこのことだな。

 やめよう、最近本当に独り言が多い気がする。独り言が多い人は精神が不安定な人って言うし、そろそろ僕もヤバイ人入りかもしれない。なんかやだなあ。


「んー……」


 びっくううぅぅぅ。どこからかそんな効果音が聞こえてきそうだった。なんだよ、驚かせるなよ。ヒカリの寝言か。怖かった。正直言って怖かった。すごくびっくりした。臆病者だなあ、恥ずかしいぞ。

さて、どうしたものか。僕としてはこのビクビクしてしまう性格を一刻も早く直したいという気持ちがあるのだが。あと、なんでも多分をつけてしまう説得力のないところも直したい。悲しい。

なんで僕がこんなことを。ひどい。

一方、ヒカリが起きる様子はない。夢の中にいるようで、ぐっすり、だ。超幸せそうな寝顔だから、多分良い夢を見ているのだろう。た、いや、言わない言わない。

とか思っていたら、もう十一時前だった。たしかに眠いなーとか考えていた頃だったから、もう寝てもいいや。どうせ床で寝てるのはヒカリなんだし。僕には関係ない。そう、関係なんてない……。

うーん、やっぱり放置はダメかなぁ。僕が床で寝てヒカリにはベッドを譲った方がいいのだろうか。いや、しかし僕はこいつに散々嫌がらせをされてきたし、ここは僕の部屋だし、もしも彼女が風邪を引いたとしても僕にはなんの罪もないのである。そもそも僕の部屋に入ってきたのはこいつだ。僕が優しくしてやったり気にかけてやる必要もないのだ。そうだそうだ。……なんか良心が痛む気がするのは気のせいかな。

僕の心にも良心というやつがあるんだなぁ。感心感心。


「あれっ、聡?」


ヒカリがいきなり起き上がってそう言った。ぎゃっ、怖いなあ、もう。……っていうか、今、こいつ……。


「聡って言った?」


おそるおそるそう尋ねると、彼女は不思議そうに首を傾けた。おいおいおいおい、それをしたいのはこっちだぞ、こっち。


「あったりまえじゃん。どうしたの? てか、私ってば、もしかしてここで寝てた? ごめんごめん」


彼女は笑って言うのだった。

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