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死ぬほど帰りたいけど帰れない

 さてどうしよう。僕の考えは却下されてしまったし、なにより危ない。超危険。でも帰れないのは困るしなあ……。


「ヒカリ、どうすればいいと思う?」


「んー? 死ねばいいと思うー」


「そういう方向はなしで」


 なんでどいつもこいつも僕を殺そうと考えだすんだ。いつ僕が殺されるほどの大罪を犯したんだよ。なんでそんなことばっかり最近の人は考えるんだろう。命の尊さとかそういうのを忘れてしまったのかな。もしそうなんだったら、可哀想な人たちだな。(憐みの目)

 するとヒカリが『火星のふしぎ』を自分の部屋においたままこっちに来た。もちろん、窓を越えて。


「ねー思ったんだけどさ」


「はい」


 ヒカリは、じーっとこっちを見てくる。な、なになに? なんか怖い。怖いからやめて。やめてやめて。


「聡って誰?」


「え、っと」


 そっか。ヒカリは知らないのか。え、知らねえの? 6年間ここにいたんじゃないのか? いや、聡が僕とヒカリの子どもだった!!!!(驚き)っていうことは知らなくてもおかしくないかもしれないけれど。むしろ知っているんだったら合わせる顔がない。無理。


「僕と入れ替わった」


「知ってる」


 ヒカリ、真顔。僕、結構真剣。


「真紀の幼馴染」


「知ってる」


「子供」


「誰の?」


「あ」


 言ってしまった。つい、ついなのに。ついついなのに。


「いや、だから、その、聡の両親の」


「それは当たり前でしょ。その両親が誰かって言ってんの」


「別に普通の人だよ」


「嘘つけ」


「嘘じゃないけど」


 言えるか。僕の口から言えるか。あーもう、何で行ってしまったんだろう。何故に、何故に。あのとき僕とヒカリの、ってつけてなくてよかった。つけてたら終わってた。人生詰んだわってなるところだった。人生詰んでたまるか。というか、ここで気まずくなったら聡が生まれなくなるんじゃないか? そしたら僕は帰れる? ……もしくは、一生帰れないか。怖いな。言わないでおこう。死んでも言わない。


「じゃあ誰よ」


 言え、という威圧を感じる。凄まじい威圧を感じる。とてつもない威圧を感じるよ! 誰か助けてー!! 僕は悪くないんだよ、たまたま口にしちゃっただけなんだよ、こいつがしつこいから、粘るから悪いんだよ。僕は悪くないんだよ! 多分!!


「あの、えっと」


 ここは、少し変えよう。少し変えよう。少し変えよう。大事な事なので三回言っておいた。


「えっと、僕の弟の子どもだった」


「へー……」


 怪しい。そんな感じのことを考えている気がする。怪しくないよーほんとだよー嘘だけど、ほんとなんだよー。

 僕の顔に表れてしまっていたのか、ヒカリは眉をひそめた。


「嘘じゃない? じゃあ、相手の方は誰なのよ。……っていうか、あんたの弟ならここって西暦何年!? え、未来!?」


 知らなかったのか。よし、この説明を長々と話して忘れさせてやろう。お前は聡の話を忘れる~お前は聡の話を忘れる~お前は聡の話を忘れる~。なんだこれ催眠術か。


「僕の考えでは、パラレルワールド的なのも混じってると思うんだけどさ。だって、家のつくりとかほとんど同じだろ?」


「ん? ま、まあそうね。あんまり考えたことなかったけどな……」


 ヒカリはぼそぼそとつぶやく。こいつはこういうことを重要視しないタイプだ。よく何の疑問も持たないで六年間過ごしていられたな。心から尊敬するよ。なんで何も考えずに生きられるんだろう。そんな楽に生きれる方法があるなんて思わなかった。何も考えずに、ぼーっと過ごしていればいいんだ。あっちでは聡がきっと頑張ってくれているはず。だからこっちもコツコツ頑張りながらゆったり暮らしていればいいんだ。

……そういえば。


「ヒカリ」


 僕は彼女に訊きたかったことを今訊くことにした。


「聡はどうだった?」


 ヒカリは少しだけあっちに帰っていたはずだ。なら、聡の状況もわかっているに違いない。

 そんな風に期待する僕を、ヒカリの言葉は呆気なく裏切った。


「えー? ……ごめん、覚えてないや」


「……は?」


 覚えてない? 記憶の持ち越しはされるんだろ? えー?


「いや、結構記憶って曖昧なんだよ。なんか、どっちも夢の中って感じなの。今はここが現実だと感じるけど、あっちに行くとあっちが現実でこっちは夢で見た記憶だって思い込んじゃうっていうか。だから、なんか持ち越しはされるけどそれが夢だったみたいなものだから、重要視してないの。昔は創もいなかったし、夢じゃないけど夢だってずーっと思ってたもん」


 信じられない。じゃあ、聡については何も覚えていないってことか……。遠い。僕の世界が遠すぎる。


「あとね、手紙もなんだけど、あれもちょっと中二病混ざってるからふざけて書いてみた感じなんだよね。だってあれは夢だと思ってたから。でも夢じゃなく現実だってわかってからは、真紀ちゃんには悪いことしたなって思ったよ。あたしの言葉全部信じてくれてたんだから」


 それは、言えてる。ちゃんと謝れよ。真紀はお前みたいにバカじゃないし、純粋でいい子なんだからな。中二病とか言われても多分反応は「なんですかそれ」だと思う。

 そんな中、僕の中にはもう一つの疑問が芽生えた。


「なあヒカリ、あっちの世界には聡と真紀がいるんだよな?」


「まあ、多分ね」


 僕の問いに、ヒカリは頷く。


「それなら、なんで?」


「は?」


 彼女は首を傾げた。なにがなんで? そんな顔をして。


「おかしいだろ? 僕の世界にこっちの世界の人がいて、こっちには違う世界の人間がいる。この時点で得た情報が少ないから僕は帰れない。僕が帰る方法もない。二人がどこへ行ったのかも真相はわからない。一応僕らの世界に行っているってことになってるけど、もしかしたら天国と地獄の境目とか生死を彷徨う部屋とかなんかそういうファンタジー的な場所にいるかもしれないじゃないか」


「だからって、あたしたちにできることなんてないじゃん」


 そうだ、絶対おかしいんだ。なんでヒカリは覚えていない? なんで入れ替わった? なんの関係もない僕らが入れ替わった理由はなに? どうして?


「ヒカリ、お前は元の世界に戻れたのか? それとも、戻れなかったのか?」


「……戻れた。でも、創もいたし、普通だったよ。なにも変なことなんてなかった。本当の元の世界だったの」


 本当の元の世界? 僕もいて? それは夢なんじゃないかな。これが夢なのかなんなのか知らないけど。


「怖くなったから、本を読むことにした。怖さを紛らわせるためなら、嫌いな本だっていくらでも読めた」


 ああ、だから真紀みたいに読書家になっていたのか。ふんふん、ふーん。

 ヒカリは空色のマーブル模様のスカートをきつく握りしめた。声を絞り出すようにして、その時のことを教えてくれる。


「あたし、創といるのに創じゃないみたいだって思って、そこがまた別の世界なんだって気づいた。あの時いたのは、多分元の世界じゃなかった……」


 もし元の世界ではなかったのなら、彼女はきっとファンタジー的な場所で夢を見ていただけだ。僕がいたっていうのも不思議だけど、それは聡じゃないのか? でも、僕だと思い込んでいたということはその人はきっと創って呼ばれていたんだろう。まあ、そこの記憶さえも曖昧になっていたらもうよく分からないんだけど。

 まあ、とりあえず感心感心。


「ふうん……すごいのな」


「でしょでしょ!? ってそうじゃないの! 怖かったんだからねーっ!!」


 はいはい。あーもううるさいなあ。耳が痛い。鼓膜が破れたらどうしてくれるんだ。あ、でも鼓膜って再生するんだっけ。なんか中学の時の理科の先生が言ってた。それでもやっぱり聴覚は衰えるらしいから嫌だけど。


「それで、帰れんのか?」


 僕がそう訊くと、ヒカリは笑いながら「わっかんなーい☆」とぶりっ子ポーズをした。ウザい。さらに「だから、一緒に考えるんだよっ!」と何故かキレだす。一緒に、ってところをやけに強調させてたけど、まさか僕を巻き込むつもりか。いやいや、なんで僕も巻き込まれないといけないんだ。


「んじゃ、考えますかー」


「……は?」


 だからなんで僕まで考えたりなんてしなくちゃいけないんだよー……。自分のことは自分でしてくれないかな。僕は僕で僕が帰る方法を考えないといけないんだから。人のこと考えられる暇なんてないよ。


「っていうかさ、ヒカリが帰る方法は飛び降りじゃダメなわけ?」


 僕が問うと、彼女は首を横に振った。


「そしたら、飛び降りをしなかった方が不思議な世界に連れ込まれることがあるの。ま、ここにくるのは成功したけど」


 その前も大丈夫だったんじゃ……? なんでまたここにきたんだ。あ、僕のせいか。


「あんたがあたしに会いたいなんて言わなければ良かったのに……!」


 恨みのこもった、怒りとかそういう表現では説明できないような顔で言われる。怖い怖い。声もなんか低いし、怖いを通り過ぎて恐ろしい。おどろおどろしい。ホラーだ、ホラー。


「ごめんごめん。でもあれは真紀が言い出しっぺなんだけど……」


「口答えしなーいっ!」


 ぺちーん! という音がする。背中、叩かれた。超痛い。

 なんで僕の周りの女子はこんなのばっかりなんだろう。これは不幸じゃないかな。ってか別に僕は口答えしてない。


「それはともかくっ、早く帰る方法を考えようよ! 帰らなきゃ!」


 テンションが何故か高い。うるさい。なんでこんなにテンションが上がってるんだろう。帰る方法を考えようっていうだけなのに。ってか、考えてるのに。こんなのにはついていけない。


「わかったから落ち着いてくれないかな。なんというか、すごくうっとうしい」


「うわっ、ひどっ! ……そっかぁー創ってこんな性格悪い人だったんだぁー」


 ヒカリはわざとらしく語尾を伸ばしながら、ねちっこく言い寄ってくる。あーあー、こういうやつ嫌だなー。

 うっとうしいって言われただけでこんな怒るか? メンタル弱いのかただ単に怒りっぽいのかなんなのか……。うーん、これは後者が正解だな。ヒカリは怒りっぽい。うん。

 そんなことよりも、早く帰る方法を考えないといけないんじゃなかったっけ? っていうか、さっきからこの言葉ばっかり言ってる気がする。気のせいかな。


「とりあえず帰れるかもしれない方法を適当に考えておいて、実験すればいいと思う。一から考えるのは難しいだろ?」


「すでに一から考えてるけどねー……」


 あ、棒読みはやめい。そういうのはいらん。ヒカリが一から考えようが考えまいが別に僕はどっちでもいいけど、巻き込まれるのだけはごめんだ。僕は僕の帰る方法を考えたいからな。邪魔したらマジで許さん。

 そんな感じで考え込んでいると、あることに気がついた。この時間は無駄なのではないか、と。何故なら、どれだけ考えたとしてもそれがちゃんと帰れるかわからないし、下手したら死ぬかもしれないし、なによりその方法で二人がちゃんと入れ替われるのかどうかがわからない。定かではないのだ。

 まあそれは当たり前だとしても、こんな風に考えているよりこの世界を満喫していつの間にか帰れた、みたいな話の方が面白い気がする。こんな考えてるシーンばっかりでも面白くない。ただ高校二年生の女子と男子がうーんうーんとときどき唸りながら考えているだけだ。本当にそれだけ。全然面白くない。

 僕が帰る方法ではなくそんなことを考えている間も、ヒカリは一生懸命に多分帰る方法を考えていた。もう考えてたって無駄じゃないかなーと僕が思うようになってきたのは、彼女には秘密である。言ったらぶち殺される。


「ねえ創ー」


 いつものようにヒカリに声をかけられて「はい、なにー?」と応答すると、彼女はこっちを睨んできた。えっ、怖っ! 僕、なにもしてないけど! 逆ギレ!?


「今変なこと考えてたでしょ」


「えーっと……?」


 よく意味がわからなかった。変なことってどんなことだよ。いつの話だよ。逆ギレかと疑ったところか?それとも、ぶち殺されるのところ? ……わからん。もうどうでもいいや。

 結論、ヒカリとこれからも幼馴染でいられる気がしない。っていうか、もう幼馴染なんかじゃないと思う。


「創はそういう人だよね」


 ヒカリは唐突にそう言った。ん? そういう人とはどういう人のことですか?


「自分の損得を考えて、そのための努力を惜しまない。あたしといるのが得なのか損なのか知らないけど、おそらく得なんでしょうね。情報を得られるから。じゃなかったら、あなたがあたしみたいなのとずっと幼馴染のままでいるわけないもの。ね、そうなんでしょ? 違う?」


 早口すぎてほとんどなに言ってたかわからなかったんですが。

 うーん、別に損得で動いてるわけじゃないんだけど、人から見るとそんな感じだったのかなー。そういうわけでもないし、多分ヒカリといたって得はない気がする……あ、なんか鋭い眼光が。嘘です得ですむしろずっと一緒でもいいですほんと。はい、ごめんなさい。


「あー、えーっと、ヒカリさん?」


 遠慮がちに声を掛けると、冷たい声が飛んできた。結構速いスピードで、矢のように。


「もう創なんか嫌いだから」


「いや、多分誤解だと思うけど」


「どこがよ。あとここ二階よ」


「そういうボケはいらないから」


 古いぞ。いや、そこまで古くないのか? いやでも誤解を五階ととる人の考えがわからない。文脈で普通にわかると思うけど。それとも彼女はわざとボケたのか。それにしても逆ギレとはヒカリもなかなかやるなあ……って、誰だよ。

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