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真実

 まあそんなことはいいとして。バイトをしまくろうと思った僕に、ちょっとした災難が降りかかった。なんと同じところで連続してバイトをすることはできないそうだ。だから、違うところでバイトをしなければならないらしい。そのため『バイトする』というコマンドが出ない。えー、めんどくせーなー。

 仕方ないから今度はcook'sという調理器具が売っているところで働くことにした。すると姉に「もういいでしょ、あたし勉強するんだから出てってよ」と言われて追い出された。ちえー。

 僕は自分の部屋に戻ってゲームを続けた。cook'sでのバイト代は八百ラム。武器屋より少し安いけど、まあいいとしよう。ないよりある方がずっといい。

 そのあともいろいろなお店でバイトをし続けているうちに、所持金は三万二千ラムとなった。警察署でバイトして一万ラムももらったのだ。警察署でバイトができるなんて聞いたことないけどな。じゃあ早速武器を買おう。

 武器屋には一番高級な剣が一万五千ラムで売ってあった。盾は一万ラム。充分買える値段だ。まとめ買いをして森に出かけた。これで最初のモンスターは一発だ。

 森に入るとすぐにショボそうなモンスターが現れた。剣を装備して、僕のターンになったら剣で攻撃する。相手の体力は全っっ然減らなかった。減ったと言えるかわからないほどだ。最初からこんなに強いとか、ありえなくねー?

 その後の相手のターンで体力がバシュンと消えていった僕は、気絶して家に送り込まれた。なんだこれ。なんだこのゲーム。バグ? バグか? いや、バグ以外ありえない。


「これ、やっぱバグだ!」


 再プレイした瞬間、そう叫ばずにはいられなかった。武器などがすべて消えて、所持金もゼロになっていたのだ。……もう、こんなゲームやめよう。そう決意した瞬間だった。なんか、すごく時間を無駄に使った気がする。

 結果。ゲームはやめた。あれはクソゲーだ、クソゲー。意味わかんねー。確かにセーブしてなかったからお金消えたり武器消えたりしたのかもしれないけど、初っ端からクソ強いモンスターが出てきたり所持金0だったり、もうやってらんねえよと言いたいものである。

 なんでこんなゲームがここにあったんだ。なんで聡はこんなクソゲーを全クリできたんだ。それとも僕の運が悪かっただけなのか。

 考えているうちに面倒くさくなってきた。なんでわざわざ僕がこんなに頭を使って考えないといけないんだ。たかがゲームだろ。暇つぶしにしようと思っただけなのに、なんでこんなに苦労しないといけないんだ。これなら本でも読んでおいた方がずっと良かった。あー、損した。損した損した。ゲームなんかやらなかったらよかった。あーもーこのクソゲーがァ!!

 ……うん、キレても無駄だな。やめよう。やめよう、こんなことしてたって無駄だ。超無駄。してるだけ無駄。損。落ち着こう。本でも読んで落ち着こう。そしてしばらくの休息を要求する。疲れた。つかれた。ツカレタ。超疲れた。

 よし、本読もう。これ以上壊れてたまるか。


 そんな感じで暇つぶしをして次の日。なかなか寝付けなかったせいか目がしぱしぱする。ってか、しぱしぱってなんか想像しにくい気がする。しぱしぱってなに? What shipa-shipa? みたいな。外国人には通じなさそうな擬音だな。

 どっかの外国の人と日本人では犬の鳴き声が違うように聞こえているらしいし、世界は広いなーって思う。ワンワン以外になにがあるんだ。インイン? よくわからん。

 そんなわけで制服に着替えていざ学校に出陣! しゃきん! ……わかってますよ、どうせ僕はイタイやつですよ。朝ごはん食べてきます。

 今日の朝ごはんはご飯に味噌汁をぶっかけたねこまんま。食欲がない時にもおすすめ。おかゆとかおじやみたいな感じでするするいけちゃうんだぞ。すごいだろ。でも「行儀悪いでしょ」と母に怒られてしまった。聞かないけど。

 姉が家を出てしばらくしてから、僕も家を出ることにした。玄関には真紀がむっつりしながら立っている。昨日のパズルのやつ、まだ怒ってるのか。


「おはよう」


 声をかけると、こっちを睨みながら低い声で「……おはよう」とつぶやかれた。あの、怖い。


「えーっと、昨日のパズルのこと、怒ってる?」


「怒ってるように見える!?」


 そこは怒ってないように見える?って聞くべきだと思うけど。だって完全に怒ってる。怒ってるときは怒ってないように見える?って聞くのが普通だと思うけど。


「う、うん」


「バーカ! 怒ってなんかないわよっ」


 怖いわ。どう考えても怒ってる。目がつり上がってますよ、真紀さん。たかがパズルでそんなにキレるかなあ……。女子ってわからん。

 あーでも、男子でもプラモ壊されて荒れたりするらしいし、そういうやつには近寄らないでおくのが一番だ。気をつけよう。


「……聡はさ、大切なものとかないの?」


「んー?」


 唐突すぎて怖い。なに、大切なものって。真紀さんって言ってほしいのか。なんだよそれ、計画的犯行だな。


「しいて言えば、命とか、家族とか? あー、あと友達とかかな」


「……ふーん。なんか無難だね」


 無難で悪かったな。どうせ僕は無難な男だよ。無難だっていいじゃないか。なんで無難なのはいけないんだ。差別だ。


「そう言う真紀はどうなんだよー」


 ちょっと不機嫌になったのを隠しきれずに、口を尖らせる。すると彼女はまた僕を睨んできた。だからなんだよ、怖いなあもう。


「私が大切なもの? 決まってるじゃない、昨日のパズルよ!」


「えっ」


 パズルが大切なものって……なんか、うん。これ以上は言わないでおこう。真紀さんに知られたら確実に無傷ではいられないだろう。そんなに僕は運が良くない。

 それにしても、パズルが大切なものとはまあすごいですな。へー、そんなに大切なら怒っても仕方ないか。ふんふん。


「聡もねー、命とか友達とか家族とか、そんな綺麗事ばっか言ってらんないわよ。いつまでそんなこと言ってられるかしらね。どーせ美人な女とか金だ金だって言うんでしょ」


「君の中で僕はどんな人物になっているんだ」


 意味わかんねえよ。なんだよ美人な女って。望んでないし。金だ金だとも言ったことないし。想像上の僕すごいな。いや、僕じゃなく聡か。聡、怪しげなことでもしたのか?それも、真紀が嫌がるような。

 王道シチュだなー、幼馴染の女子が自分のことを好きになるってやつ。真紀は多分聡のことが好きだと思う。いや、わかんないけど。直感だけど。証拠も根拠もないけど。


「ほら、なにぼーっと突っ立ってんのよ。早く行こ!」


 急かされて僕が彼女の元に走り寄ると「あんた二人目だからせっかちになりそうなのに、一人目みたいにトロいのね。いつからだったかなー、トロくなったの」と言われた。う、そうだよ。僕は一人目だよ。弟がいるだけだよ。悪かったな。

 それにしても、一人目はトロくて二人目はせっかちってほんとのことかな。それ、当たってるかもな。琢は超せっかちだし、僕はトロい。真紀の言う一人目二人目像にそっくりだ。

 なんか、こういうのってやだなー。当たってるとイラっとする。バカにされてるような、お前みたいな単純なやつのことなんてお見通しだよって言われてるみたいで正直ウザい。悪かったな、単純で。


前の(・・)聡はせっかちだったのになー」


「……え?」


「あ、」


 前の聡? ……前の? 今のは? ええ?


「ごめん、今の忘れてくれない?」


「無理だから。忘れてと言われてすぐに忘れられるほど人間の記憶力は悪くないよ。そんな都合の良い生き物じゃない。……今の、どういう意味で言った?」


 これが、僕じゃない本当の聡を指していたのなら、入れ替わったときの記憶の持ち越しはすることができる、となる。聡と僕の性格は違うんだから。前のと今のでは別人なのだと、真紀が理解していたことになる。


「……聡。ううん、あなたは聡のお父さんなんでしょ? ――――創さん」


「やっぱ、知ってたんだね」


 僕はそう言って笑った。彼女は、知っていた。僕と聡が入れ替わっていたということを。そしてそれを知っているということは、入れ替わりにたいしてのことも知っていたのだということになるはずだ。

 ……うーん、自分で言っててもなんの話かわからなくなってくる。


「あなたと聡が入れ替わったとき、私はすでにあなたの世界にいた。私は、ヒカリさんになりきってあなたと過ごした」


「……んん?」


 僕と聡が入れ替わる前からヒカリと真紀は入れ替わっていた? じゃあ、入れ替わる前のあのときのヒカリはヒカリじゃなくて真紀だった……? 夢だと思っていた、あのヒカリは。


「一年くらい、ずっとあっちで過ごしてた」


「い、一年……!?」


 一年。なら僕のあっちの世界での一年間過ごしていたのは……。


「ずっと真紀だった……?」


「そうです。私でした。あなたは気づきませんでしたけど」


 信じられない。僕は一年間別人と過ごしていたってことなのか。確かに真紀とヒカリは似ていたけど、入れ替わったと理解した今ではちゃんと見分けられる。真紀の顔にはほくろがない。

 でも、入れ替わりなんて知らなかったあの頃、まさか幼馴染が別人になっていたなんてこと考えもしないだろう。そしてなにより、真紀は僕の前で全く動揺していなかった。だから僕は気づかなかったんだ。


「それにですね」


 いつの間にか敬語を使い出した真紀は続けて言う。


「私はその前に、五年半あちらの世界で過ごしましたよ」


「……は?」


「そのとき私はすべてを学びました。そして、気づいたのです。記憶の持ち越しができる、と」


 なにを言っているんだ、これは。五年半、僕と過ごしていた?


「それは、その、いつ?」


「小一のときです。五年生の二学期の真ん中らへんまで、ずっとそっちにいました。そして、戻ってきた私は知ったことをすべてメモに記したのです。そしてまた、私とヒカリさんは入れ替わった」


 僕と真紀は、六年以上一緒に過ごしていた? それも、それがヒカリではないと気づかずに。


「私がヒカリさんではないと気づかなかったのも無理はありません。幼いときからなのですから、むしろヒカリさんが偽物だと思わなかっただけマシです」


 つまり、僕は六年以上真紀と一緒にいて、真紀とヒカリはその間入れ替わっていて、記憶の持ち越しはできて、ここ一年真紀とヒカリは入れ替わっていたと。

 そういえば、ヒカリがあの日泣いていたのは、この長い年月にうんざりしていたのだろうか。それとも、僕と会えたという嬉し涙だったのか。どちらにせよ、あのときのヒカリは明らかにヒカリだった。

 でも、ヒカリはその一年聡と過ごしていたはずで。そこは小一から小五まで過ごした場所で。僕と一年ぶりに会って、とっくに入れ替わっていたのに、まるで今入れ替わったみたいにパニックを起こして。

 そうだ、なんか用意がいいと思ったんだ。聡の友達関係を教えてくれたり、そんなことがあって。


「ヒカリさんは、もしもまた入れ替わったときのために手紙を書いてくれていました。真紀へ、と書かれていた手紙を見ると、そこにはこう書かれていました」


 真紀はおもむろにポケットに手をいれ、何枚もの紙の束を取り出した。真紀とヒカリが同じ世界に生きることはできない。だからヒカリは手紙を残したのだ。


「『真紀へ

 元気にしていますか。この手紙を開いたということは、私たちはまた入れ替わってしまったのでしょうね。でも、安心してください。私は、戻り方を見つけることができました。それよりも先に、この仕組みについて私が調べたものを教えたいと思います。


 入れ替わるのは突然だと思っていませんか。でも、本当はそうではなかったのです。目覚めて、学校に着いてから起こったのではありませんか。今回もそうだったのではありませんか。入れ替わるのは、学校に着いてからなのです。そして、戻れたとき。このときは、だいぶお互いの世界に慣れてからのことでした。しかも、絶望感を抱いたときでした。真紀はどうだったのかわかりませんか、そのころ私はとてもショックでいました。どんなショックだったのかは秘密です。

 そして、偶然かもしれませんが、どちらも丁度休みのすぐ前だったりしませんでしたか。もしかしたら、規則性があるのかもしれません。


 次に、記憶についてです。記憶は鮮明に思い出すことができますね。どうやら、持ち越しができるようです。これなら、私たちもコミュニケーションをとることができそうですね。暇があればこの手紙の返事を書いて、机の右上の一番小さい引き出しの一番奥に入れて下さい。


 最後に、戻り方についてです。元の世界に戻りたいときは、危険な目に遭うか、死にかけになればいいです。でも、簡単にこんなことはできません。もしかしたら、死にかけどころか本当に死んでしまうかもしれません。そんなことになってしまっては、いけません。あなたが死ねば、私は二度とそちらには帰れないのです。だから、これは絶対にしないで。あなたもあたしも、不幸になってしまいます。

 2009年10月18日 高橋ヒカリ』」


 ぽかーん。開いた口が、ふさがらない。え……っと?

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