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女子って

ちょっと遅くなりました

すみません

編集を怠っていました

 机の上のビスケット以外になくなったものはなかったので、僕は安心して本を読むのに没頭した。知らない本が特に多いし興味のない本もたくさんあったけど、ぱらぱらめくる程度で軽く読んで見ると面白いものもある。だからたまにはこういうのも悪くないかなーとかいう感じで。

 盗まれたビスケットは僕が来る前からあったようだ。食べようかと考えたこともあったが、湿気ってそうだからと食べずにいた。だからと言って捨てたわけでもないのだけれど。そんなこんなで盗まれてしまったという。まあ、捨てるのはもったいないけど食べたくもないビスケットを消費してくれた泥棒には一応感謝しておこう。あと机の目の前にある窓の枠が汚れていた。土足で入ったな、ちゃんと拭いていけ。


「さっとし♪」


また美智佳かと思って振り向くと、そこには今はいないはずのヒカリがいた。


「え、と?」


 間違えた、真紀だった。聡って言ってた時点で気づけよっていう冷たい視線で見られている気がした僕は身震いする。なんか寒気してきた。


「調子はどう? 記憶戻りそぉ?」


 彼女はにこにこしながら問いかけてくる。記憶ねー、戻るわけないだろーな。だって僕は記憶喪失じゃなくてただの(・・・)タイムスリップをしただけの人間だから。


「体の調子は大丈夫だよ。心の調子は不調だけどね……」


 はは、と乾いた笑い声をあげた。虚しさが残る。やめろ、そんな目で見るんじゃない。そうだよ、心は超不調だよ。何故かわかるか? お前が! この部屋に!


「やったきたからだーッ!」


 しーん。そんな音聞こえてくるはずがないのに聞こえてきてしまう。それもそのはず、真紀がバカにしたようにこちらを見てにやけていたのだ。もちろん声を発することなく。ずるい。


「どうしたの、聡。ぷふっ、あの、大丈夫? ふふふっ」


 地味に笑われるのは傷つく。ひどいな。もしかしてわざと? わざと!? それからも彼女はこちらを見るたびに顔をそむけてくすくすと笑っていたりする。うざい。こういう女子やだ。


「えへへ、ごめんごめん。ついつい面白くなっちゃってからかいたくってさー」


「一回死ぬことをおすすめするけど」


「美智佳ちゃんに似てきたね」


 そうなのかもしれない。あの人も結構性格が濃いというかなんというか。とにかく、インパクトのあるような人なんだよなー。だから、つい性格がうつってきてしまったりするようだ。自覚はない。自覚があってたまるか。姉みたいな性格にはあまりなりたくない。ヒカリよ、子育てをしっかりやらなかったのだな。だからこんなに性格が悪いんだ。むっつり。


「あ、そういえばさぁ」


 真紀もヒカリも話題をすぐに変えるのは得意そうだ。ヒカリに似ている真紀が少し不思議だけど。なんで娘でもないのにここまで似ているんだろう?まあ、似ていたからこそタイムスリップしたときに真紀と入れ替わったのかもしれないけど。

 そういえば、真紀はやっぱりおそらくあっちの世界に行っていたであろう行為をまったくしていない。それはただ隠しているだけなのか、それともそこの部分の記憶が失くなったのか、ヒカリと入れ替わったわけではなくしばらく別の場所にいて寝ていたとかそういうファンタジー的なことなのか……。可能性があるものをあげていくとキリがない。うーむ。


「でね、そのとき……」


 ごめん、楽しそうに話してるけどまったく聞いてない。耳に入ってくることもないよ。ほんとごめん、あとでもう一回聞かせてくれてもいいから。

 で、本題はヒカリや僕がこっちに来たとき、おそらく立場だけが入れ替わった真紀や聡はどこに行っていたかっていうことだ。僕の姿は変わっていなさそうだったし、多分容姿が似ているんだろう。真紀とヒカリなんか見分けがつかない。

 でも、容姿が似ているから入れ替わったってそれだけかな。もしかしたら他にも共通することがあるのかもしれない。……ひとつあったな、性格だ。僕ら、似てる、性格。なんか片言になった気がする。

 そういえば、部屋の感じが変わってなかったのはなんでだろう? 少し違ったからパラレルワールドっぽいなぁ、とか思ったけど。もしかしてここはパラレルワールド? 未来はこうなるかもしれないよっていう可能世界? だから、容姿や家の中もあまり変わりがなかった。それは僕の中の僕らの世界の印象が強く残りすぎていたから。僕たちの世界とこの世界はつながっているのかもしれない。

 それより、なんでヒカリと真紀は戻れたんだ? 僕は聡と入れ替わっていないってのに。聡が僕らの世界で死んだとか、もしくは今来ることができない状態に陥っているとか? 来ることができない状態ってどんな状態? ……だめだ、なにを考えてもなにをしても全然わからない。

 とりあえず、今必要な情報はどうやったら帰れるのかということと、ここはどこなのかということ。この二つさえわかればなんとかなる。結局なんだったのかも知りたいけど、それは戻ってから調べたりすればいい。中二病っぽく思われるかもしれないけど、無事に帰れたならノンフィクション小説として書いてみようかな。もちろん人には見せられそうにないけど。文章力とかまったくないし、作文嫌いだし。でもまあ、たまには慣れないことしてもいいかなぁ、なんて。まあそんなことはおいといて。


「で! そのときに凛ちゃんが来て話が聞こえてたみたいでさぁ、めっちゃ怒られたんだよね。凛ちゃんだって悪口言ってんのに、自分の言われたら顔真っ赤にして怒るとか、なんか失望しちゃった。だって、あの凛ちゃんだよ?」


 凛ちゃんって誰だ。なんの話だ。うーん、まあその凛ちゃんとかいう人がいつも誰かの悪口言ってて、そのときは凛ちゃんの悪口を彼女抜きで話していたと。そしたら外で聞いていた凛ちゃんが現れて怒ってたってことか? ふーん、女子なんてそんなもんか。


「へー」


「なにその顔。今は違っても昔は好きだったんでしょ!」


「は!?」


 聡が、ってことはわかってるけど。わかってるけど! 聡って、そういう青春しちゃってる系の男子だったのか……。そうだよなー、いたもんな、聡を好きだったあのお方とか。そっか、青春してたのか。僕は生まれて一回も人を恋愛感情として好きになったことはない。それなりに仲のいい人はヒカリ以外にもまあまあいたけど。


「もー、そんな恥ずかしがらなくてもいいじゃん。私は知ってんだからさあ」


 ヒカリもこういう感じだよな。人の恋愛沙汰に入りこみたがる。なんでわざわざ面倒なことに首を突っ込むのかよくわからないけど。


「うんはいはい」


 こういうのは受け流すのが一番である。適当に適当に。


「もーさあー、凛ちゃんってあれじゃん。なんかしっかり者って感じだし、アイアムジャスティス! って言ってるようなものでしょ? あーゆーの見てるとウザって思う。だっていっつも自慢げじゃん?」


 幼馴染の好きな人の悪口を言うのはどうかと思うが。僕が聡じゃなくてよかったな。聡のために怒ってやってもよかったけど、凛ちゃんの良さは1ミクロンもわかりそうにないのでやめた。ってか凛ちゃんって誰だっけ。


「ああいう子はいつか嫌われるって思ってた。私ずっと嫌いだったもん。なんで男子ってあんな腹黒に騙されんのかなぁ」


 おい、さりげなく男子をバカにするな。見たことないけど、男子はほとんど顔と胸だからなー。あ、僕は違います。好きになったこともないし。外見だけで決めたら後悔するぞ。

 ――――そう、ヒカリと幼馴染になったときから思ってた。彼女は見た目だけはかわいいけど中身は全然だ。なんでこんな人と仲良くしちゃったんだろうってわがまま言われたらいつも思う。自己チューだしバカだしなによりうるさい。文句も言うし、いいとこを見つけろって言われても無理だ。そんなややこしい人と幼馴染だったと思うだけで寒気がする。

 だいたい、僕はどちらかというと目立たない方だ。そしてヒカリは目立つモテる系の女子だった。おかしい。こういう女子は嫌いだったはずだ。うっとうしいだけで邪魔だし。でも、なんか今も付き合いがあるというか。大人しい系の女子とはよく話すけど、目立つ女子の中で話すのはヒカリだけだ。やっぱちょっと特別に思ってんのかな。


「ね、聡。今は凛ちゃんのことどう思ってる?」


「え、えぇ?」


 知らねえよ! と言いたい。だって知らない。まだ一日しか学校行ってないし。でもこの世界に馴染んでいる。不思議。


「別に」


 素っ気なく返すと、真紀はぽん、と手を打った。な、なんでしょうか。


「聡、記憶喪失だったんじゃん! だから詳しく言えなくて当然だよね。ごめんごめん」


「はあ」


 いろいろと誤解されているがこっちの方が都合がいい。放っておくことにした。


「えへへ、私すぐ忘れちゃうからさぁ~」


 彼女は笑いながら言った。わかったわかった。


「あ、てかさー、昨日なんか大変だったらしいね。大丈夫だったー?」


 真紀はにこにこ笑ってそう言った。大変って、あの女の子のことか。なんて名前だったっけ、あの人。


「うん、まあ普通に」


「そっか。よかったねー」


 平和な会話をしているうちに、僕は朝のことを思い出した。


「真紀、本」


「あ、本!」


 僕はあの本を取り出すと彼女に手渡した。真紀は嬉しそうにそれを抱きしめて「しばらく借りるね! 三百回くらい読みたいから!」と言った。うん、いいよいいよ読め読め。僕はそれはあんまり興味ないからいくらでも貸してやるよ。ただし元の世界に僕が帰るときはしっかり戻しとけよ。聡が怒るかもだし。でも多分僕のせいじゃない。

 真紀はルンルンしながら僕の部屋を出て行った。


「んじゃ、家でゆっくり読むね。ばいばーい!」


 機嫌良さそうに手を振って、愛想笑いつき。わかったからさっさと帰れ。


「ばいばーい!」


「はいはい、ばいばい」


 僕も合わせて手を振ると、さらに笑顔になって高速で手を振りはじめた。だからさっさと帰れと言っている。


「帰れ」


「はぁ~い」


 ドアを開けたと思うとすぐに閉まって真紀の姿も見えなくなった。


「はー……」


 やっといなくなった。そんな感想を言わずにはいられなかった。ヒカリとは本当に似ているなぁと思う。うるさいところとか、さっさとどっか行けと思ってしまうほどの自己チューさとか。

 こんなにヒカリに似ているけど、真紀の両親は誰なんだろう? なんでヒカリの家に真紀が住んでいるんだろう? あー、これはあれか。パラレルワールドだから、僕の世界の感じもちょっと残ってるだけっていうのが一応一番単純な考えだったんじゃないか。そうそう、忘れてどうする。結構大事なことだった。危ない危ない、すっかり忘れてもう一回考え直さないといけないところだった。これ以上ここのことを考えたくはない。疲れた。

 ってか、ここに来てからほとんど真紀と姉としか話していない気がするのは僕だけ? だってそうだよな、両親はヒカリと自分だから話したくはないし、学校に行かないと男友達には会えないし。


「もう、疲れた……死にそう。いや、もういっそのこと死にたい……」


 なにげなーくつぶやいた瞬間、ドアが勢いよく開いた。しかも頭打った。こんなこと、前もあったようななかったような……。


「あんた今っ! なんて言ったぁ!」


 美智佳だった。な、なんでキレてんの? 意味わかんないけど、意味わかんないけど!


「だから、その、疲れたって……」


「そのあとだよっ!」


そこまでわかるんだったら自分で思い出してよ! 確認したいだけだろ! いつも思うけど、今なんつった? ってただの脅しな気がする。今なんつった?=怒られるだしさ。だから今なんつった? タイプは嫌いだったりする。


「死にそう?」


 こうなったら粘ってやる、とわざとわかっていないふりをした。ここでもそのあとだよっ! と叫んだらああ本当は覚えてるんだなってわかるし。


「ちがーうっ! 死にたいだよっ、死にたい! あんたバカ!? 今生きたくて生きたくて仕方なくて、でも生きられない人がこの世界にはたくさんいるんだよ! なのに、生きれる人間が死にたいなんて、言っちゃダメ!」


 突然どうした。なんだよなんで感情的になってんだよ。必死になりすぎだろ。別に言っただけだろー。ほんとに死にたいとか思ってねえし死のうとしてないし。

 ああもうほんと女子は冗談通じねえなー。まあ、女子は女子でもヒカリは冗談言う派だし、言ったらそれなりにノってくれる。真紀もノってくれそうなイメージだし。僕的には美智佳も冗談通じるような人だと思ってたんだけどな……。


「うんうんわかったって」


 適当にあしらおうとする僕に彼女はしきりに話しかけてくる。それも怒りながら。


「ぜえったいわかってないでしょお!」


「なんでわかった」


 言った瞬間しまったと思った。……ま、いっか。別に美智佳はあんまり怖くないし。子供っぽいし。


「聡……あんた」


 前言撤回。超怖い。


「ふっっざけんなああぁぁぁ!」


 どすうぅっ。見事に僕の腹に美智佳の拳がめり込んだ。痛い! 痛いよ! かなり痛いよ!


「痛っ、ちょ、手加減なしとか、いや、まっ」


 容赦なく何回も何回も僕の腹に拳を振りかざしてくる。痛い痛い! なにこれ、なにこれ!? 何この状況、おかしいよね!?


「わかった? ……聡」


 悪魔のように微笑みながら彼女は僕に問う。僕は土下座をしそうなくらいのポーズで、プライドをすべて捨てて言った。


「めっっちゃわかりました。ありがとうございました」


 今の状況を一言で説明しよう。――――男子は女子に勝てない。それがたとえ、殴り合い(一方的に美智佳が殴るだけ)の喧嘩だったとしても、だ。

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