クリスマスその2
次の日の朝、ポッシュがめを覚ますと、まくら元に何かが置いてあるのに気がつきました。
鮮やかな、赤い包み紙がそこにはありました。包を開けてみると、そこには緑色のマフラーと、メリークリスマスと書かれた紙が入っていました。
ポッシュはマフラーを両手にかかえてシルタのところへ行きました。お礼を言おうと思ったのですが、シルタは「なんのことかしら」ととぼけるばかりでした。
「そんなことよりポッシュ、なんだか外がさわがしいのよ。あなた、ちょっと見てきてくれるかしら?」
ついにシルタは話をそらしてしまいました。
「外? クリスマスだから、にぎやかなんじゃないの?」
「それがおかしいのよ。なんだか、みんなやけにあわてているみたいで......」
ふたりが話をしていると、カモシカがあわてた様子でやってきました。
「大変だ。広場のクリスマスツリーが......」
「ツリーがどうかしたのかい?」
ポッシュはたずねました。
「昨日のカミナリで真っ二つに裂けてしまったんだ
ふたりが広場についた時には、すでに大勢のウサギやネコたちが集まっていました。広場の真ん中には、大きく裂け、真っ黒にこげてしまったクリスマスツリーがありました。
ひとびとはみんな深刻な顔をしてツリーを囲んでいました。
「こまったな。まさかクリスマス当日にこんなことになるだなんて」
「みんなで協力して、いっしょうけんめいかざりつけしたのに......」
「どうしたものか、もう代わりになるものなんて、ないってのに」
村びとは口々にそう言いました。そのうちの小さなネコの女の子は、今にも泣き出しそうです。
ポッシュもカモシカも、ただその場に立ちつくすことしかできませんでした。
「わたし、描いたわ」
とつぜん、ふたりの後ろで聞き覚えのある声がしました。
「丘の上にある、くりの木の下で......」
ふたりの後ろにいたのは、まちがいなくボザでした。
「昨日の大きなパネルだけど、なんとかツリーの代わりにできると思わない?」
「ボザさん、どうしてここに? それに、あのパネルに替えはないのでしょう?」
カモシカが言いました。
「この前描いていた大きな絵、急な雨で絵の具がにじんでしまったのよ。いろんな色が混ざっちゃったわ。だから、もうどうなったっていいの」
「待ってよ、きみは一体何をするつもりなの?」
今度はポッシュが彼女にたずねました。
「下書きはあるんだもの。あとは、それを大きく描くだけよ。あんたたちも手伝いなさいよ」
ポッシュとカモシカはボザの後について行きました。そのとちゅう、ポッシュは彼女にたずねました。
「ねえ、どうしてきみはいきなりそんなことを言い出したりしたんだい? きみは、みんなに自分の絵を見られたりするのがイヤだったんじゃなかったのかい?」
「そうね。だけど、わたしはただ、あのツリーがないのが気に食わないのよ。あの泣き出しそうな女の子の顔を見たでしょ?」
ボザは小さくため息をついて、こう続けました。
「それに、わたしがこの村に住もうと思ったきっかけは、あの立派で美しいモミの木なのよ。あの木は、どこからでも見えて、どこにいても見守ってくれていた。わたしはあの木を遠くから見るのが好きだったの」
それからさんにんは、ボザの家の前までやってきました。彼女の家の庭には、昨日の大きなパネルと、くりの木の下にいたとき持っていたキャンバス、それからノコギリが二本ねかせてありました。
「さあ、今からわたしが、この大きいほうにツリーの絵を描くから、あんたたちは、ノコギリで絵の形にそって切り抜いてちょうだい。きれいにね」
ボザはふたりにそう言うと、目にも止まらぬ速さで大きなパネルに絵を描き始めました。雨でにじんでしまった絵の具の上に、また新しい絵の具がぬられていきます。
ポッシュとカモシカはその様子をただただじっと見守っていました。
彼女が絵を完成させるのに、そう時間はかかりませんでした。彼女はあっという間に作業を終わらせると、ふたりにノコギリを手渡しました。
「さあ急いで、クリスマスが終わっちゃうわよ」
村のひとたちはなすすべもなく、ただ途方に暮れていました。小さなネコの女の子は、とうとう泣き出しました。女の子のお母さんはますます途方に暮れました。
しかし、ふいに誰かがこうさけびました。
「おい、あれを見ろ! ツリーだ!」
みんな、いっせいにその声が向けられた方を見ました。
大きなパネルをこちらに運んでくる、さんにんのかげが見えました。
「本当だ。個性的で、すてきなツリーじゃないか!」
また、誰かがさけびました。泣いていた女の子の顔は、ぱっとかがやくような笑顔にもどりました。
村の広場に、見慣れたモミの木が姿を変えて戻ってきたのです。