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旅する子ウサギ  作者: 生吹
第二章 クリスマス
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出発

中途半端ですが、とりあえずこのへんで......

 暖かな春がやってきて、村の雪を溶かしつくしたころ、ポッシュはある決断をしました。

 この村から出て行くことにしたのです。新しい旅を始めるために。


「なんでだよ。もう行っちゃうのかよ」


 ハルはむすっとした顔をポッシュに向けましたが、引き止めるようなことはしませんでした。実際、いずれそうなるだろうということは、彼にもうすうす分かっていたことでしたから。


 ポッシュは朝早くに起きだして、玄関の外に荷物を運び出しました。

 所々に咲いた花の香りを、胸いっぱい吸い込みました。

 そして、あの言葉をもう一度、噛みしめました。


「どこかに、かならずぼくと同じ種類のウサギがいるはずだ。それを見つけたい。たぶん、そこがぼくのいるべき場所じゃないかと思うんだ」


 

「おはようポッシュ」


 シルタが眠そうに目をこすりながら言いました。


「相変わらず早起きね。今日、もう行ってしまうの?」

「はい、日が高いうちに出発したいんです」

「悪いわねえ、せっかくの日なのになんにもできなくて」

「いいえ、いきなりこんなことを言い出したぼくが悪いんです。できるだけ静かにいなくなりたくて」


 ポッシュはそう言うと、荷物の入ったリュックを持ち上げました。


「どうして、他のみんなにさよならを言いたくないの?」


 シルタは少しにやつきながらポッシュに言いました。

 しかし、彼はそれには答えませんでした。


「あなたがそう決めたのなら、それでいいわ。仕方がないわね」


 

 ふたりはまだ薄暗い村の小道を歩いて行きました。まだどの家の窓も開いてはいませんでした。村全体が、ひっそりと静まり返っています。みんな、まだ眠りの中にいるのです。ポッシュとシルタ以外、みんな......

 門のところまでやってくると、怖い顔の門番さんが眠たそうに目をこすっていました。ポッシュは少しだけこの門番さんが苦手でした。しかし、この時ばかりは、そんなことも忘れられました。


「お世話になりました。どうかお元気で」


 ポッシュがそう言うと、門番さんはにっこりとほほえみました。


「お前さんも元気でな。しっかりやれよ」


 そう言った門番さんが、少しさびしそうな顔をしたのを、ポッシュはうれしく思いました。前の村では、そんなことはありえないことでしたから。

 それからポッシュはシルタにも最後のあいさつをすると、村の門をくぐって外へ出ました。

 ポッシュが歩き出すと、だんだん山の上がだいだい色に染まり始めました。林の木々がざわついて、目を覚ました小鳥たちがおしゃべりを始めました。

 朝がやってきたのです。


「さよならみんな」


 ポッシュはそうつぶやくと、ずんずん歩いて行きました。その間、一度もふりかえりませんでした。

 そして、見晴らしの良い丘の上まで来たとき、ようやく村の方をふりかえりました。村の家々は、朝の光を浴びてきらきらと輝いて見えました。

 

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