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- 035 -

 一緒に戻ったのだろう。執務室には、サイモンたちの姿もあった。椅子に座ったクライヴ殿下の少し後ろで、控えて立つのはその名代を務めた獅子だ。

 黄昏の中、誰もが口を閉ざしてじっとこちらへ目を向けていた。

 ただ戸惑うばかりの私の横で、すべてを理解したように叔父が問う。

「それは、王のご判断でしょうか」

「そうだ」

「では、わたくし達は」

「これまで通り」

「……残念です」

「済まない」

 謝罪とともに目が伏せられて、琥珀の瞳に深い影が落ちた。

 二人が何を言っているのか、解らない。

「療養とは、どう言う意味ですか?」

 理解できないのは、その処遇だ。でも、ほかにどう言えばいい?

 クリフォード殿下は、罰を受けるのではなかったのか。クライヴ殿下を殺そうとした、その罪の。

「そのままの意味ですよ、フェイス」

 答えたのは、叔父だった。顔は前に向けたまま、冷たげな視線を床に落とす。

「王は、ご子息を罰するお積もりがない」

「……だが、二度と兄上の名を耳にする機会もないだろう。王城からも王都からも出され、人知れず生涯にわたって幽閉される。父上がおおせの療養とは、そう言う意味だ」

「どうして! それでは、駄目です」

 それは、裁かれないと言うことだ。罪を問う機会さえ、与えられないと言うことだ。

 殿下も、叔父も。どうしてそんなに落ち着いているのか解らない。

「スタンリー、わきまえなさい」

 厳しい口調で言うのは獅子だ。

「でも」

「王の意見をまげる事は、誰にもできない。それも、王家から逆賊を出せとは」

 ――ああ、だから。叔父はまず、王の判断かと確かめたのか。

 唇を噛んで下を向く。

 もう何も言葉がなかった。王の意向と言われたら、どんな不満も飲み込むしかない。それは恐らく、クライヴ殿下でもそうだ。

 なのに、割って入ったその声は軽い。

「って言うのが、まあ、たてまえなんだけどさ。やっぱ、ホントのとこ聞いときたい?」

「フィルメ!」

 信じられないと言うふうに、名を呼んだのはクライヴ殿下だ。机に手をついて立ち上がり、グレンデル家の護衛をにらむ。しかし当の本人は、あっけらかんとした顔だった。

「だって、なあ。あれどう思う? ランサ」

「そう言う年頃なのだろう。殿下殿は裏で無理をしておいて、顔には出さず語りもしないのが美しいとお考えの様だ」

「知らないところで恩着せられても、迷惑だよなあ」

「言ってやるな、エス。苦しみを全て一人で引き受けていると思い込んでおられるんだ」

「エス、ランサ。もうやめて。クライヴさまがおかわいそうだよ」

 サイモンが金の巻き毛をゆらしつつ、ふるふると首を振って二人を止める。ランサはそれにうやうやしく礼を取って答えたが、エスは自分の頭をくしゃくしゃとかきまぜた。

「責任感じてんですよ、これでも。バカ親父が死んでさえなきゃ、もっと簡単な話で終わってたような気もするし」

「待て、それは」

 はっとしたようなクライヴ殿下を、エスは完全に無視する形で顔をこちらに向けて言う。

「コーネリアス・ウォルフが、クリフォードって人とつながってた証拠は出なかったんだってさ。それでもウォルフ家の救済を王に約束させたのは、この人ががんばったからだよ」

「え?」

「クライヴ様、それは道理が通りません」

「もういい。お前ら全員黙れ」

 私と叔父がほとんど同時に声を上げ、クライヴ殿下はうめきながら自分の手の平に顔をうずめた。しかし、エスの言葉はまだ続く。

「療養って言うか、幽閉だな。この形で手を打とうと提案したのは、確かに王だ。オレもそう聞いてる。でも、了承したのはこの人だよ。それには交換条件があったらしくて」

「フィルメ! 俺は黙れと言ったぞ!」

「その条件が、フェイス・スタンリーを罪に問わないこと」

 そう言うと、彼女は私に近づき肩を叩いた。

「じゃ、あとはがんばって」

「え」

 どう言う意味かと、出口へ向かうエスを目で追う。するとそのあとへ続きながらに、獅子が感心したように言った。

「そう言う、平気で余計な事をするところ。お父上にそっくりだぞ」

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