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- 022 -

 クライヴ殿下とクリフォード殿下は八つも歳が離れていたが、互いによく似た姿をしていた。顔立ちではない。雰囲気も違う。

 決定的にその血筋を物語るのは、二人のあざやかな赤髪だ。

「クリフォード殿下におかれましては、おすこやかなご様子で」

 この上ない喜びでございます、と。

 胸に手を当て、膝をまげて礼を取る。こう言う心にもないことは、口からするする出てくるから不思議だ。

 この辺境に、王の次男が。一体何の用があって自ら足を運んだのだろう。本当は、そればかりが気になっていた。

 気取らず快活なクライヴ殿下とは違い、その兄であるクリフォード殿下は柔和な印象の美丈夫だ。ラヴァンデュラの花に似た薄紫の瞳は、いつもやわらかに笑んでいる。

 返した挨拶にうなずいて答え、次兄殿下は私の隣に目をやった。視線の先にいるのはエスだ。すると、控えていた側近の男がクリフォード殿下にささやいた。

「エステラ・バー・フィルメにございます」

「あぁ、獅子の牙の」

 これが、とでも言うような。その反応におどろいた。そんなことまで知っているのか。

「エステラは確か、星と言う意味だったかな」

「そうなのですか?」

 愛らしい顔をきらきらと輝かせ、サイモンがクリフォード殿下を見上げて言った。

「それは……美しい名ですね」

「ハーディー様、似合わないと仰って宜しいのですよ」

 おどろきを隠し切れずにつぶやく獅子に、ランサが深い同情を見せる。本人であるエスは、複雑そうに妙な顔をするだけだった。

 一同が集まるのは、城内のサロンだ。その中心で次兄殿下は長椅子に腰かけ、ティーカップを手に優雅にほほ笑む。

 長椅子は二つ、テーブルをはさんで向かい合わせに置いてある。次兄殿下の向かい側から、領主名代の獅子がたずねた。

「クリフォード殿下、こちらへはどう言ったご用向きで?」

「うん。可愛い弟がどうしているか、気になって。――ね? パース」

「しばらく前に、クライヴ様の殺害未遂があったとか。にも関わらず、安否を確認するために王宮から遣わされた使者を追い返したそうですね。それも、何度も」

 主の声に一歩進み出た側近の男は、淡々と、しかし確実に言葉の端々で責めている。

 しかしこれは、相手が正しい。王の命でよこされた使者を、追い返すのはまずいだろう。まあ、追い返すと言っても、例の「つつがなく」を一応は返事に持たせたらしいが。

 王が、それで納得する訳がない。

「父上が焦れてしまってね。役に立たないなら使者の首を刎ねるとまで仰せだったよ」

「では王が、使者の代わりに殿下をお遣わしに?」

「一度行って、直接見てこいと命を下された。使いを出しても、決まりきった返事しか持ち帰らないものだから」

 それに、自分も弟のことは心配だった。そう言って浮かべる微笑みは、やはり優しく気品があった。

 そうやって笑むラヴァンデュラに似た薄紫の瞳が、けれども私は少し苦手だ。

「そう言えば」

 今思い出したと言うように、クリフォード殿下は長椅子の上から私の方へ頭を向けた。立襟になった長衣の首を、赤い髪がさらりとなでる。

「この城で死人があって、一時はあなたが疑われたとか」

「はい、お騒がせいたしました」

「スタンリーの無実は、叔父のクレメンスが証明したのですよ。興味がおありなら、呼んで詳しく話させましょう」

 領主名代の提案に、クリフォード殿下はうなずいた。大しておもしろくもないだろうに、男の人は血生臭い話が好きらしい。

 叔父を呼ぶために、私は礼を取ってサロンを出る。すると、すぐに後ろから追いかけてくる集団がいた。クリフォード殿下とその側近たちだ。

「どうされました?」

「折角だから、城の中を見たくてね。一緒に行くよ」

「でも……」

 この人は、本当に何をしにきたのだろう。

 そう思って、気がついた。ここへきたのは、クライヴ殿下の様子を見るためだと言った。けれども、弟はどうしているかと一度も問うことはしていない。それはなぜ?

「何をご存じなのですか」

 ラヴァンデュラの瞳が、やわらかに笑う。

「意地悪は嫌いでね。とっくにいない者を出せとは、さすがに言えない」

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