魔王と少女の幸せ
外を見ると街にはいつも以上に人がいた。
おかしい、この時間ならいつもは店の準備をする人間だけしかいないはずだが。
「にぎやかだな」
「・・・・・・」
人の声が部屋にも聞こえて目が覚めてしまったので外に出た。
「熱はもう大丈夫か」
―――コクリ―――
リーシャの額に手を当て確認する。
「大丈夫のようだな」
・・・それにしてもこれは一体なんだ?
いつもより店の数が多い。
それにあの高台みたいなのはなんだ?
見張り台か・・・。
・・・まさかこちらが攻めてくる事を知り、防衛網を築いているのか?
無駄な足掻きだな。
「お!嬢ちゃんとチッビコじゃねぇか!」
聞き覚えのある声が魔王を止めた。
「お前は・・・蒸かし芋の店主か」
「覚えてくれてたのかい!嬉しいねぇ!!」
豪快に笑う。
別に覚えたくて覚えたわけではない。
毎日通るたびに声を掛けられ、蒸かし芋を渡されれば誰だって覚えるだろ。
・・・そういえば・・・。
誰かを覚えた事なんてリュード以外にいなかったな。
余とリュード以外はただの駒としてしか見ていなかったな。
命令すれば何でもする便利な駒。
気に入らないことをすれば消す。
誰も余に逆らう奴はいなかった。
誰も余に近づこうとしなかった。
こうやって声を掛けてくれることもなかった。
―――クイクイ―――
「・・・どうした?」
リーシャが裾を引いていた。
「・・・・・・」
目をこちらから離さないでいる。
「・・・・・・」
「・・・安心しろ」
リーシャの頭を撫でた。
「それで今日はどうしたんだい?」
「ああ、外が騒がしかったのでな」
―――コクリ―――
「あ~、そいつはすまなかったな!」
「いや。・・・ところでこれは何をしているんだ?」
「・・・・・・」
「ああこれかい。これは祭りの準備だ!!」
「・・・まつりとは何だ?」
「???」
「・・・もしかして見たことないのかい?」
「ない」
―――コクリ―――
「・・・な・・・な・・・」
「な?」
「???」
「なんてこったい!!!そいつは人選を棒にふってるもんだぜ!!」
「そうなのか」
「ああ!祭りは人を幸せにするんだぜ!」
「・・・しあわせ」
「そうだ!美味いもんたくさん食べて、遊んで、胸の中から温かくなって楽しくなって皆が幸せになるんだ!」
「・・・・・・しあわせ・・・」
どうやら余の感じていたしあわせとは違うな。
・・・何時だっただろ。
しあわせと感じたことは・・・。
・・・・・・ああ、あの時以来か。
余の城に押しかけ喉元にまで剣を向けてきた人間との戦い。
あの時は心の底から充実してた。
楽しかった。
命のやりとが。
それが余のしあわせを感じた最後の瞬間。
では、人間が言うしあわせとは何だ?
感情的は一緒のように思うが、何かが違う。
「・・・そのまつりは何時あるんだ?」
「明後日さ!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「嬢ちゃん。どうかしたのか?」
「すまない。まつりは見れそうにないな」
お互いにな。
「どこか行くのかい?」
「ああ。明後日にはな・・・」
「そっか・・・。ならしょうがねぇな」
「まつりの準備頑張ってくれ」
「おう!!」
「行くぞリーシャ」
―――コクリ―――
手を繋ぎ、祭りの準備をしている街中を歩いていった。
皆大変そうにしているが笑顔だ。
あれも、しあわせというものなのか?
「・・・リーシャ」
なぜ足を止めた。
「・・・・・・」
「お前はまつりが見たいか?」
余は何を言ってるんだ?
「・・・・・・」
「・・・・・・」
―――フルフル―――
暫くしてリーシャは首を横に振った。
「そうか・・・」
そして握っている手を強く握ってきた。
「どうした」
「・・・・・・」
次に両手で握ってきた。
「・・・リーシャどうした」
腕にしがみついてきた。
「・・・・・・」
そして、小さな体で抱きしめた。
「・・・リーシャよ。許す」
「・・・・・・」
―――コクリ―――
暫く余を抱きしめるリーシャを見つめた。
「リーシャ」
「・・・・・・」
手を再び繋ぎ街中を歩く。
「しあわせか?」
「・・・・・・」
「よくわからんのだ。余の感じる、感じてきたしあわせは別物でな。先の人間が言った意味があまり理解できなかった。リーシャはあの人間が言った意味と同じ感情を抱いているのか?」
「・・・・・・」
「どうだ?」
「・・・・・・」
―――コクリ―――
「・・・そうか」
「・・・・・・」
「・・・後一日」
「・・・・・・」
「従者の仕事をこなせ」
―――コクリ―――
「・・・そして・・・」
「・・・・・・」
「余がいなくなってもしあわせに生きろ」
「・・・・・・」
―――コクリ―――