魔王と少女と昔の記憶
朝起きると空が雲で覆われていた。
徐々に雲は厚みを増し街の景色は暗くなっていく。
そして、暗い雲から降り出した。
「今日は雨か」
いつも賑わう道には人はおらず、窓から見える景色が歪む。
静寂の中に聞こえる雨の音。
この感じ、よく知っている。
「人間がいない街」
街を侵略した際、すべての人間を殺した。
老若男女かまわず命を奪った。
そして誰もいなくなった街はこんな感じだ。
この街もきっと
「きっとこうなるんだろうな」
・・・弱肉強食。
弱い者は強い者に食われる、自然の摂理。
魔族が人間を襲っても同じことだ。
仕方がないこと。
なのになぜ人は戦う。
もう、二百年前とは違う。
強き者は余が倒した。
押されていた領土も徐々に取り戻し今では五分・・・いやそれ以上手に入る力がある。
しかし、なぜ人間は降伏をしない。
勝てないとわかっているにも関わらず・・・。
そういえば、街を侵略したとき防具も武器も持たない人間が挑んできたな。
なぜだ?
なぜあいつ等は挑んだ。
何のために戦って死んだのだ。
・・・わからん。
空が一瞬光り少しして激しい音が響き渡った。
「・・・雷か」
・・・らしくないな。
余がつまらん事で悩みにふけるとは。
今日が雨のせいかもしれんな。
・・・違う。
「・・・・・・」
「リーシャ。何時まで寝ている。日は隠れて見えないがもう朝だ。起きろ」
「・・・・・・」
「余の声が聞こえてなのか」
「・・・・・・」
「・・・リーシャ?」
寝ているリーシャの方へと近づいた。
「リーシャ」
「・・・・・・」
返事がない。
「触るぞ」
額に手を当てると熱かった。
呼吸も荒い。
・・・熱か。
しかもかなりの熱。
まったく。手がかかる従者だな。
「医者を呼んでくる。しばし待っていろ」
「・・・・・・」
裾を引っ張られた。
「どうした。リーシャ」
―――フルフル―――
行くなと言っているのだな。
「大丈夫だ。医者を呼ぶだけ、すぐ戻る」
―――フルフル―――
離したくない・・・か。
・・・昨日の事か。
「妖精。リーシャの傍にいてやってくれ」
妖精はリーシャの傍に寄り添った。
「妖精が余のいない間ついている」
―――フルフル―――
「余がいなくなると思ってるのか」
「・・・・・・」
縦にも横にも振らないか。
「・・・絶対戻ってくる。従者を置いていなくなる主君はおらん。安心しろ」
「・・・・・・」
「すぐに戻る」
リーシャは持っている裾を手放した。
「いい子だ。行ってくる」
「もう大丈夫ですよ」
医者の診断が終わった。
「すまないな」
「いや、構いません。薬は出しておきます。今日一日寝ていれば良くなりますよ」
「そうか。よかったなリーシャ」
「・・・・・・」
「それでは」
医者は去っていった。
「今日はゆっくり休め」
「・・・・・・」
「大丈夫だ。余はどこにも行かん」
「・・・・・・」
「本当だ。信じろ」
リーシャの隣に座る。
「眠るまでここにいてやる」
「・・・・・・」
手を差し伸ばしてきた。
「・・・やれやれ」
その手をそっと握った。
「これで眠れるだろう」
―――コクリ―――
安心したのかリーシャはすぐに眠りについた。
「疲れていたんだな」
今日まで色々と体験したからな。
無理もないだろう。
それに、それより前の事もあったしな。
子供なのによくもったな。
・・・汗をかいているな。
「・・・拭いてやるか」
静かに握っている手を離し、女将に頼み綺麗な布と水を受け取った。
「今拭いてやる」
水含んだ布を絞りリーシャの顔を拭いた。
・・・そういえば余が幼い頃こんなことがあったな。
自身の魔力の制御がうまくいかず、その性で熱を出してしまった愚かな記憶を。
その時母が付っきりで看てくれていたな。
「こうだったか・・・」
リーシャの額に手を置いた。
「何をしているんだろうな・・・」
母のやっていた事を真似しているとは。
しかし、当時の余は安心していた。
母の冷たい手と温もりを同時に感じていた。
「リーシャ。気持ちがいいか?」
「・・・・・・」
眠っているからわかるはずもないな。
「・・・・・・」
「目が覚めたか?」
雨の音はしなくなり、外は暗くなり部屋にあるランプを点けていた。
「・・・・・・」
―――コクリ―――
「その様子だと熱も下がったみたいだな」
「・・・・・・」
リーシャはベッドを降り魔王の傍にきた。
「まだ安静にしていろ」
―――フルフル―――
「駄目だ。医者が今日一日は安静していろと言ったからな。言う事を聞け」
「・・・・・・」
リーシャは渋々ベッドの中に入った。
「いい子だ」
「・・・・・・」
リーシャが手招きをしている。
「こっち来いというのか?」
―――コクリ―――
「・・・いいだろう」
魔王はリーシャの傍にいった。
「余に何をさしたい」
「・・・・・・」
魔王の手を取り
「・・・・・・」
「・・・・・・」
自分の額に手を置かせた。
「・・・気がついていたのか」
「・・・・・・」
まさかあの時起きていたとは。
余としたことが油断したか・・・。
まったく、嬉しそうに笑ってからに。
「気に入ったか?」
―――コクリ―――
「そうか。・・・なら朝までこうしてやる。ゆっくり眠れ」
―――コクリ―――
リーシャはゆっくりの瞼を閉じた。
「明日はきっと綺麗な青空を見れるだろうな」