表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王と少女の物語  作者: 春
6/9

湖の主VS魔王

「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


「・・・平和だな」


「・・・・・・・・・」


リーシャは頷く。


「だけど・・・」


「・・・・・・」


「・・・釣りとはこんなに暇なものなのだな」


「・・・・・・」





「・・・・・・朝か」


窓から差し込める太陽の光が目に入り目覚めた。


穏やかな朝だな・・・。


小鳥のさえずり。


市場の準備にいそしむ住人達の声。


そして優しく全身を撫でる風。


あっちでは味わえない甘美な朝だ。


「・・・さて」


「・・・・・・」


リーシャはまだ寝ているな。


短い間だが余の従者になったのに、まだ寝ているとは・・・。


「起こすか」


寝ているリーシャに詰め寄る。


「・・・・・・」


ここまで近づいてもまったく反応しない。


それもそうか。


リーシャはただの人間。


人を恐れ魔王を恐れない惰弱な人間。


「・・・・・・」


「やれやれ」


安心して寝ているとは、まったく・・・。


乱れた布団を綺麗にし肩までかけてやる。


まだ日が昇って浅い。


「・・・もう少し寝かせておいてやるか」


リーシャの隣に椅子を置き腰をかけた。





「夕刻ぐらいに戻る」


「行ってらっしゃいませ」


「行くぞ。リーシャ」


「・・・・・・」


「あの、マオ様」


宿の女将が話しかけてきた。


もしや気がついたか?


手に魔力を込める。


変な行動をしたら殺すか。


「・・・何だ」


「どこか行く予定はありますか?」


「・・・いや、考えていない」


「でしたら湖に行ってはどうでしょう」


「湖?」


「はい。ここから東行くと大きな湖があります。とても綺麗ですよ」


「・・・湖か・・・」


リーシャの方を見て


「・・・行きたいか」


「・・・・・・」


―――コクリ―――


無言で頷いた。


「わかった。東だな」


「はい。行ってらっしゃいませ」


「行くぞ」


魔力を解除し、リーシャの手を取り歩き出した。





市場を通っている際


「お!昨日の嬢ちゃんじゃないか!」


中年の男性が声をかけてきた。


「・・・誰だ」


「昨日俺の店で芋食っただろ」


「・・・・・・ああ」


思い出した。


あの蒸かし芋は美味だったな。


「何用だ?」


「用はねえよ。ただちょっと待ってな!」


男は自分の出店に戻った。


「・・・・・・」


少しすると袋を持って戻ってきた。


「これ持っていきな!」


「・・・これは」


手渡された袋の中身を見ると蒸かした芋が入っていた。


「嬢ちゃんのあの食べた時の顔が妙に気に入っちまってな!よかったら貰ってくれ!!」


「・・・・・・」


見た感じ毒などは入っていないな。


まぁ入っていたとしても余には効かないがな。


「すまないな。ありがたくいただこう」


「いいってことよ!チビッコと一緒に食べてくれ!!」


「ああ。そうする。よかったなリーシャ」


―――コクリ―――


蒸かし芋が入った袋を持って東へと歩き出した。






東の門を出てしばらく歩くと女将が言った湖があった。


「これは大きくて美しいな」


湖はとても広く青く日の光で輝いていた。


「リーシャはどう思う」


「・・・・・・」


―――コクリ―――


目を大きくして頷いた。


「いい場所だな。しばらくここでゆっくりするか」


―――コクリ―――


草の絨毯に寝転がる。


これは中々いい・・・。


自然の香りを直に嗅げる。


体が休まる。


―――ポチャン―――


「・・・何の音だ?」


起き上がり湖を見ると人がいた。


「よっと」


長くて細い棒を振っている。


「あれは何だ?踊りか?」


魔王はおかしな行動をしている男に近寄った。


「何をしている」


「何って釣りだよ。釣り」


「・・・つり?」


「なんだお前さん釣りを知らないのか?」


「ああ。知らんな」


「もったいない。人生を損しているな」


「そうなのか?」


「ああ!もちろんだ!ちょうどいい竿を何本か持ってきてるからこれでやって見ろ!」


男は魔王に釣竿を渡してきた。


「釣り針に餌をつけてこうやって投げる!」


―――ポチャン―――


「そして後は浮きが上下に動いたら引く」


「それまでの間はどうするんだ?」


「待つ!ひたすら待つ」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


先ほどまで遊んでいたリーシャがいつの間にかこっちに来ていた。


「・・・リーシャ。どうかしたか」


「・・・・・・」


私が持っている釣竿を見てるな。


「・・・やりたいのか?」


―――コクリ―――


「すまない。もう一本借してくれないか」


「あいよ!」





「釣れんな・・・」


釣りを始めてずいぶん経つが一向に釣れないな。


「・・・・・・」


「お嬢ちゃんすごいな!入れ食いだな」


「・・・・・・」


なぜリーシャだけ釣れるのだ。


リーシャの籠をみると魚が大量に入っている。


「この調子ならヌシを釣れるかもな」


「・・・ぬし?」


「この湖は主がいるって噂があるんだよ」


「ぬしとは何だ?」


「知らないのかよ!?」


「すまんな。無知なもので・・・」


「ヌシっていうのはここの親玉だよ」


「なるほど。わかりやすい」


私と同じ者か。


「・・・ところでお嬢ちゃんはどこ行ったんだ?」


「そういえばそうだ・・・」


「・・・・・・!!?」


「ほう・・・」


「お・・お嬢ちゃん!!」


リーシャは湖の上を走っていた。


「リーシャ、魔法が使えるのか」


水の上を走るなんて中々の高等魔法だ。


「・・・・・・!!?」


「いや、あれ引っ張られてるんじゃあ・・・ほら、竿が・・・」


リーシャの方を見ると確かに竿が引っ張られていた。


「なるほどまた釣れたのか」


どうしてリーシャだけ釣れるのだ。


「何冷静なコメントしてるんだよあんたは!あれはヌシだ!絶対そうだ!!」


「ほう。・・・あれがぬしか・・・」


「!!?」


「リーシャ。一人で釣れそうか?」


「・・・・・・」


―――ブンブンブンブン―――


リーシャの頭が高速で横に振っていた。


「なるほど。・・・リーシャ。しっかりと竿を握っていろ」


「・・・・・・」


―――コクコク―――


「あんた、一体何しようってんだ」


「ぬしを釣る」


「釣るってあの状態でどうやって」


「簡単だ。あそこにいって引っ張り上げる」


「どうやっていく・・・」


足に魔力を込め一気に開放。


水面に触れる直前に魔力を再び足に集中。


「これでいい」


「・・・・・・あ、あんたは一体・・・」


「ただの旅人だ。リーシャ。こちらに来い」


「・・・・・・!!」


竿を使いヌシを魔王の方へと移動させる。


「いいぞ。その調子だ」


ヌシは魔王の水面を通過し、そのままリーシャが掴んでいる竿を一緒に握る。


「いくぞ。・・・ふん」


「・・・・・・」


竿を引っ張ると水中にいたヌシが飛び出した。


そして、飛び出したヌシの頭を軽く小突き陸に上がらせた。


「・・・・・・」


「なるほど。これがぬしか。大きいものだな」


「す・・・凄すぎるよ・・・あんた」


「リーシャ。大丈夫だったか」


「・・・・・・」


リーシャの服はビショビショに濡れていた。


「・・・丁度夕方だし、帰るか」


「・・・・・・」


―――コクリ―――


「釣竿を返す。中々楽しめたぞ」





「よかったのか」


「・・・・・・」


「ぬしをあの人間あげて」


宿に帰るさい、蒸かし芋をくれた男にヌシを差し出した。


―――コクリ―――


「・・・あの蒸かし芋の礼か?」


―――コクリ―――


「お前が釣った魚だ。気にするな」


「・・・・・・」


「今日は疲れただろう。もう休むといい」


「・・・・・・」


リーシャは素直に従いベッドの中に入った。


「・・・礼か・・・」


人間は変わっているな。


くれた物に礼をするなんてな。


強いものが弱いものから供物を貰うのは自然の道理。


「・・・いや、そうではない・・・か」


ふと今朝の出来事を思い返した。


あの男はそういう感じではなかったな。


喜んでほしいからくれた。


「略奪や強奪とは違うな」


あれが善意というやつか。


「・・・・・・」


月が綺麗だな・・・。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ