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魔王と少女の物語  作者: 春
5/9

魔王の気まぐれ

「あっけなかったな」


魔王の周りには無残にもズタボロにされた男達が転がっている。


「・・・・・・」


「殺していない。骨の2、3は折れてるがな」


「・・・・・・」


「子供。これが余の力の一部だ。本気を出せばこの街を一瞬で消し去ることが出来る」


「・・・・・・」


「これ以上余に近づくな。いいな」


―――ブンブン―――


「ついて来るというのか」


―――コクリ―――


「話を聞いていたか?」


―――コクリ―――


「怖くないのか?」


―――コクリ―――


「・・・これでもか?」


魔王は近くの壁を軽く殴った。


―――ズドン―――


壁に大きな穴が開いた。


「少し強くやりすぎたか。まぁいい。これでもついてくるか?」


「・・・・・・」


少女はその場から動かないでいた。


「(諦めたか)」


魔王は少女に背を向け歩き出した。


―――ガシ―――


「・・・・・・」


少女が魔王の手を握っていた。


「・・・離せ」


―――ブンブン―――


少女は離そうとしない。


「・・・(面倒だな)」


魔王は少女の頭へ手を近づける。


「(殺すか)」


少女の頭に手が触れようとした時


「・・・何をしている」


少女が魔王の手をさすっていた。


「・・・・・・」


少女は壁を殴った手を息を吹きかけながらさすっていた。


「・・・余の手を労わっているのか?」


「・・・・・・」


―――コクリ―――


少女は頷き、再度息を吹きかけながらさする。


「(何なんだこの子供は・・・)」


魔王は戸惑った。


なぜなら、自分にそんな事をする奴を見たことがなかったからだ。


周りからは恐れられ崇拝や尊敬はされていたが、こんな事をする者は誰もいなかった。


そして、少女から伝わる感じたことのない感情が伝わってくる。


「(これは何だ・・・)」


少女がさすってくれる手がとても暖かく気持ちがいい。


手だけではない。


なぜか胸の奥もそう感じる。


「(この感じは一体・・・)」


少女に目をやる。


「・・・・・・」


少女は必死に手をさすり、時折息を吹きかける。


「・・・・・・」


魔王は少女の頭に手を置いた。


「・・・・・・」


少女が気づき顔を上げる。


「(そういえば、この子供ずっと余から視線を逸らさないでいたな。中々綺麗な目をしてるな。それに余をまったく恐れていない。だが、リュードや部下とは違うこの感情は・・・。一人で観光するつもりだったが、一緒にいるのも悪くない・・・か。)」


「お前。・・・行く宛てはあるか?」


少女は少しだけ間を置いて、


―――ブンブン―――


首を横に振った。


「そうか。なら、少しの間だが余の供をするか?」


「・・・・・・」


―――コクリ―――


「では、行くぞ。ついて来い」


魔王は少女が握っているを握り返し歩き出した。


「腹は減ってるか?」


―――コクリ―――


「ふむ。なら飯を食いに行くか。・・・その前に」


「・・・?」


「まずは湯浴みと服を買いに行くぞ」


―――コクリ―――





「ふゥ~・・・」


「・・・・・・」


「いい湯加減だ。気持ちがいいな」


―――コクリ―――


「・・・いいな・・・」


「・・・・・・」


「どうした?」


少女が魔王に近づく。


「・・・・・・」


「余の胸がどうかしたのか?」


「・・・・・・」


―――ムニュウ―――


少女の手が魔王の胸を掴む。


「・・・・・・」


―――ムニュムニュ―――


少女は目を輝かせ魔王の胸を揉む。


「余の胸が気に入ったのか?」


―――コクリ―――


「わからんな。こんな物が気に入るとは・・・」


それから暫く少女は胸を揉みしだいていた。


―――。


「少しのぼせたか」


魔王は風呂から出る。


「ちょうどいい。お前も出ろ。洗ってやる」


「・・・・・・」


少女も風呂から出る。


「湯をかけるぞ」


―――コクリ―――


―――ザバー―――


「髪を洗うぞ」


―――コクリ―――


魔王は少女の髪を洗い始める。


「・・・・・・」


「・・・・・・(柔らかいな)」


少女の髪を洗いながら魔王は手から伝わる感触を堪能した。


「次は背中だ」


―――コクリ―――


少女の背中を洗い始める。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


手足にあった擦り傷や痣でわかってはいたが、


「・・・痛くはないのか?」


「・・・・・・」


少女が振り返る。


「?」


「体中の傷と痣だ」


「・・・・・・」


少女は自分の体にある傷と痣を見る。


―――コクリ―――


そして、頷いた。


「・・・そうか」


魔王は再び少女の体を洗い始めた。 





「気持ちがよかったな」


―――コクリ―――


風呂に入り、綺麗さっぱりした魔王と少女。


「では、次は服だな。行くぞ」


「・・・・・・」


少女は魔王の手を取り並んで歩いていった。





「いらっしゃいませ」


「こいつに似合う服を」


「・・・・・・」


「はい。お任せ下さい」


店の者は少女を連れて奥に入っていった。


「・・・色々な服があるな」


店の中にはたくさんの服が飾ってあった。


魔王は適当に一着の服を手に取った。


「こんな服着るのか?」


魔王が手に取った服はどうみても服とはいい難いものだった。


なぜなら、裸と同然の服だったからだ。


「こんな服で街を歩くのか?」


魔王は首を傾げた。


「・・・人間はわからんな」


「お待たせしました」


奥から店員が戻ってきた。


「こちらになります」


店員の後ろに少女がいた。


「・・・・・・」


少女は自分が着ている服を何度も見つめ、不安そうにしていた。


そして、魔王の方を恐る恐る見る。


「似合っているぞ」


魔王のその一言で少女は嬉しそうに笑った。


「この服いただくぞ」


「はい。ありがとうございました」


「行くぞ」


「・・・・・・」





「うまいか?」


―――コクリ―――


少女は口いっぱいに食べ物を入れながら頷いた。


「慌てるな。誰も取りはしない。落ち着いて食べろ」


「・・・・・・」


―――コクリ―――


「・・・動くな」


「?」


魔王は少女の頬へ手を近づけ、


「食べかすがついているぞ」


頬に付いていた食べかすをとってやった。


「せっかく綺麗になったのが台無しになる所だったな」


「・・・・・・」


「もう取れたから食べていいぞ」


「・・・・・・」


少女は食べ始める。


―――――――。


―――。


「・・・・・・」


「腹は膨れたか?」


―――コクリ―――


「では、宿を探すか」


―――コクリ―――


店から出ると外は綺麗な夕焼け色に染まっていた。


「いい景色だな」


「・・・・・・」


魔王と少女はゆっくりと歩きながら宿を探した。


――――――。


―――。


「ここにするか」


「・・・・・・」


夕焼け色に染まった街は何時しか暗くなり、街灯が淡く光照らしている。


目の前の宿に入る。


「ご利用ですか?」


宿の者が声をかけてきた。


「ああ、二名だ」


「では、こちらに名前を」


店の者は魔王に名簿を渡した。


「名前・・・か」


そういえば考えていなかった。


「・・・・・・」


暫く考え魔王は名簿に名前を書いた。


『マオ』


「マオ様ですね。では、こちらのお子さんもお願いします」


「・・・・・・」


少女は魔王を見た。


こいつの名前か・・・。


どうするか。


声を出せないから名前を知らない。


「お前字は書けるか?」


―――ブンブン―――


「まいったな・・・」


―――クイクイ―――


「ん?」


少女が魔王の手を引いた。


「どうした?」


「・・・・・・」


少女はペンを魔王に渡した。


「・・・・・・」


魔王の方をじっと見つめる。


「・・・書けということか?」


―――コクリ―――


「いいのか?お前の名前を知らんぞ?」


―――コクリ―――


「・・・わかった」


魔王は名簿に少女の名前を書いた。


『リーシャ』


「リーシャ様ですね。・・・では二階の奥の部屋をお使いください」


「わかった。行くぞ」


「・・・・・・」


魔王マオ少女リーシャは二階に上がり奥の部屋へと向かった。


「・・・ふぅ」


ベットに腰を下ろす。


「明日は港の方に行ってみるか」


「・・・・・・」


「お前も今日は疲れただろ。早く休むといい」


「・・・・・・」


少女が魔王を睨んだ。


「どうかしたか?」


「・・・・・・」


少女は自分を指差していた。


「何が言いたい?」


「・・・・・・」


少女は自分に指差す。


「・・・わからん」


こいつは何を伝えたいのだ。


先ほどから己自身を指差して、


「『お前』は何がしたい・・・」


「・・・・・・」


今度は魔王に指を差した。


そして両手を使って×と記した。


「・・・今の言葉に駄目な所があったのか?」


―――コクリ―――


「・・・ふむ」


魔王は考え込んだ。


・・・・・・。


・・・。


「・・・名前か?」


―――コクリ―――


少女は頷いた。


「名前で呼んでほしいのか?」


―――コクコク―――


「だがお前の名を知らぬぞ」


「・・・・・・」


少女はジェスチャーを始めた。


そのジェスチャーを見ると、魔王が受付で名簿に名前を書いていた時の行動だと理解した。


「あれはお前の名ではないだろう」


―――ブンブン―――


「気に入ったのか?」


―――コクリ―――


「・・・ふむ・・・」


「・・・・・・」


少女が魔王を見つめる。


「・・・わかった。・・・リーシャ。明日も出かけるから今日はもう休め」


「・・・・・・」


―――コクリ―――


魔王が少女の事を名前で呼ぶと、笑顔を向けベットに入っていた。


「やれやれ」


魔王は小さな声で呟いた。


――――――。


―――。


「・・・・・・」


リーシャの寝息が聞こえる。


「・・・・・・」


魔王は窓から見える夜の街を眺めていた。


「なぜあんな事を思ったのだろうな・・・」


眠っているリーシャを見る。


「・・・・・・」


安心しているか、ぐっすりと眠ってる。


「人間とはわからぬ生き物だな」


リーシャは余の事を魔王と知っている。


だが、まったく恐れていない。


逆に懐いている。


なぜだ?


それに、リーシャといると落ち着く。


これは何なんだ?


リーシャに特別の力があるのか?


魔王は目を一旦閉じて見開く。


「・・・・・・何も感じない」


リーシャは普通の人間だ。


では、どうして余はこんな気持ちになるのだ・・・。


最初は目障りで殺そうとまでしたのに。


今ではそんな感情はまったく湧かなくなっている。


これまでの人間にはそんな事はなかった。


向かってくる人間、目に入る人間をたくさん殺した。


命乞いする輩もいた。


だが、殺した。


殺すことに躊躇いはなかった。


なぜリーシャは殺さなかった?


リーシャは余を恐れていなかった。


それよりも、あの男たちを恐れていた。


魔王はリーシャの額に手を当てた。


「少し見せてもらうぞ」


そう言って魔王はリーシャの記憶を覗いた。


――――――。


―――。


「・・・なるほど」


リーシャは人間を恐れている。


リーシャの住んでいた村は人間が襲った。


「・・・人間が人間を襲うのか」


醜いな。


村は焼かれ、逃げる村人は殺された。


そして、リーシャは目の前で両親を殺されたのか。


そのショックで声が出なくなったのか。


「・・・だから・・・か」


人間でない余に懐いたのは。


あの時、リーシャと出会ったのは余にとっては偶然だった。


だが、リーシャにとっては違った。


あの時はただ助けを求めての行動だった。


だが、余があの男を倒した時、リーシャは何かを感じ取った。


それは人間とは違う何かを・・・。


それでずっとついて来ていたのか。


「魔王である余より、人間を恐れるか・・・」


確かに、目の前であんな光景を見せられたらそうなか・・・。


「・・・だがな」


魔王は眠っているリーシャに語りかけた。


「魔物も人間も変わりはないぞ。弱い物から奪う。それがこの世の定義だ」


「・・・・・・」


「・・・だが、違うとすれば、同族同士を襲わない所だけだな」


「・・・・・・」


「今はいい。余の供としているからな。しかし、それが終わるとどうなる?また、人間に襲われるかそれとも魔物に襲われるか・・・」


「・・・・・・」


「後六日。楽しむんだな」


「・・・・・・」

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