出会い
「中々美味いな」
「お!そうかい!じゃあこれなんかどうだ?」
「アム。ムグムグ・・・これは美味だな」
「ハハハ!嬉しいね。よし!こいつはおまけだ持ってきな!」
「すまんな」
人間の食い物は美味いな。
今度リュードに頼んで作らせて見るか。
手に持っている蒸かした芋を食べながら市場を散策する。
たくさんの品が並んでおり、その一つ一つが新鮮で食欲をそそる。
「一週間で食べきれるといいな」
そう呟きながら人混みを掻き分けて歩いていく。
すれ違う人間はみな笑顔で楽しそうにしている。
「しかし、なぜこんなにも賑やかなのだ?」
余の領土でこんなにも愉快にしている者なぞ見たことがない。
皆緊迫した状況で次の戦にどう勝つか必死なのに・・・。
人間とは愚かな生き物なのか?
「見つけたぞ!!」
「ん?」
遠くのほうで男の叫ぶ声が聞こえた。
「誰かを追ってる感じの声だったな」
だが、余には関係ない。
今はこの観光を満喫しないとな。
―――ドン!―――
「ぬお!?」
急に後ろから押された。
「誰だ。ぶつかってきたのは」
後ろを振り返ると人間の子供が尻餅をついていた。
「おい、子供。人がたくさんいる所で走ってはいかんぞ」
危うく食い物を落としそうになったぞ。
「・・・・・・」
「お、おい!何だ急に!?」
子供が魔王に抱きついてきた。
「は、離さぬか!」
食べ物を持っていない手で引き離そうとするが子供は離れようとしない。
「一体何なのだ」
「やっと見つけたぜ!」
「・・・お前は」
「さぁこっちに来るんだ!!」
「・・・・・・!!」
「あ、おい後ろに回るな!」
「何だお前。ガキの知り合いか?」
「いや、初対面だ」
「じゃあさっさとガキを寄こせ!!」
気に食わない人間だな。
余にこんな言葉を使いおって。
いっそ殺すか?
・・・いや、今騒ぎを起こすと面倒か。
ここは堪えるか。
「子供。早く離れろ」
―――ブンブン!―――
少女は首を横に振って離れようしない。
「こっちは迷惑しているのがわからんか」
―――ブンブン!―――
「いいから離れろ」
―――ブンブン!―――
「何時まで待たせるんだよ!?」
「そうは言うが離れようとせんのだ」
「てめぇ!そう言いながら匿ってるのか!?」
痺れを切らした男が歩み寄って来る。
「早くその商品を寄こせ!!」
「商品?」
「ああそうだ。今のご時世、親を亡くして身寄りがないガキがわんさかいるからな。そいつらを金を持っている奴に売るのが俺たちの仕事だ」
「・・・なるほど」
子供の姿に目を通す。
貧相な服装。
髪はぼさぼさ。
見える範囲で体のあちこちに擦り傷と痣。
この街では似合わない格好だ。
「おい子供。いいかげん離れろ」
だが、余には関係ない事だ。
楽しみの邪魔をするな。
―――ブンブン!―――
「・・・埒が明かん」
引き離そうとするが、離れない。
「なぁ、どうしたらいい」
「・・・仕方ねぇ。こうなったらお前も一緒に連れていくしかねぇな。安心しな。姉ちゃんは高く売れそうだしな。丁重に扱ってやるよ」
「・・・・・・」
男は魔王の腕を掴んだ。
「さあ早く来な!抵抗するなよ。したらこれで傷をつけることになるからな」
懐から取り出した鋭利な刃物を魔王の頬にあてた。
「・・・・・・」
「良い品も入ったし行くk」
「おい」
我慢の限界だ。
「あ?どうした」
「今なんて言った?」
「何だ~?抵抗するのか?いいのか傷がt」
男が言い終わる前に魔王は刃物を掴み。
「こんな玩具でどうするつもりだ?」
そのまま握り潰した。
「・・・・・・」
男は驚きのあまり何も話せないでいる。
「こんな軟弱な物で余に傷が付くはずなかろう」
手の中でグシャグシャになった刃物を適当に投げ捨てた。
「あ・・・あ・・・」
「余に数々の暴言を吐き、玩具で脅迫。そして汚い手で掴むとは」
「・・・あ・・・あ・・・あ」
「・・・身を弁えろ」