雨音
―第7話―
私はその日、1日中上の空だったと思う。今朝の出来事が色々とショックで、何も手につかなかった。
何となく授業を受け、何となく1日が終わった。
学校を出ると、予報では快晴の筈なのに豪雨となっていた。まるで、私の心情をそのまま表したようだ。
「すごい雨だね…」
「うん…」
千穂と下駄箱の前で雨の様子を見ながら話していた。
「ひかる。あんた傘持ってないんじゃないの?」
「うん…持ってない」
「私、折り畳み傘持ってるから一緒に入ってく?」
そう言って、千穂はカバンの中から折り畳み傘を取り出した。
「少し小さいけど…」
「ごめん、いい…」
「えっ…でも…」
「家まで走ってくからいいよ。ありがとう」
「…あんたが平気ならいいけど…」
千穂が心配している。それは分かっている。
「じゃあ、また明日」
「うん…気をつけてねひかる」
けど…今は1人になりたかった。それくらいに、色々な事がどうでもいい。
雨に濡れながら、特に家路を急ぐこともなく、トボトボと歩いていた。
虚しい…そして惨めな気分だ。一ノ江くんに拒絶された事も辛いけれど、あの時一ノ江くんはクラスの全員から白い目で見られていた。
私が、明彦くんの忠告を無視したせいで…私のせいで、一ノ江くんを再び傷付けてしまった。一ノ江くんを悪者にしてしまった。
私は…一ノ江くんを傷付けた幼なじみの彼女と何一つ変わらない。私は一体何してるんだろう。
…いつしか歩みを止め、私はずぶ濡れの道路に崩れ落ちた。濡れたアスファルトが、異様に冷たい。
雨は一層強くなり、民家の屋根を雨粒が叩き、けたたましい音を発している。
このまま消えてしまいたいとは、良く言ったものだ。
私は雨に打たれながら、声も出さずに静かに泣いた。
自分が嫌になる。今こうしているのも、結局私が一ノ江くんを一方的に好きなためだけなのだから…
「私は…」
雨音にかき消されそうな声で言う。
「私は自分の事ばっかりだ…」
うつ向いて、雨に濡れた顔を涙で更に濡らして…
とにかく自分を呪った。
と、急に雨が止んだ気がした。誰かの気配を感じる。
顔を上げると、そこには私が片想い中の彼がいた。
「一ノ江くん…」
「傘がないなら誰かに言えばいいのに」
口調は無機質だが、一ノ江くんは私を自分の傘に入れてくれた。
「ビショビショだね…」
「…」
顔をまともに見れない…あんな事があった後では当然か。
一ノ江くんは、暫く考え込んだ後、こう言った。
「仕方ない…一回僕の家に来なよ」
「ええ!?」
私は驚愕した。今彼は何と言った?もう一度聞いてみよう。
「いいいいいい今、ぼぼぼぼぼ僕の家に来いって言った!?」
たどたどしい口調で尋ねる私に、彼は涼しい顔で答える。
「そうだよ。だって君、ビショビショだもん。このまま帰したら風邪引いちゃうよ」
…なるほど。理に適っている。…ってそうじゃない!!
「い、いいの?迷惑じゃない?」
「大丈夫だよ。このまま放っておく方が気分悪いし」
とりあえず私は、彼のお言葉に甘える事にした。
それにしても、この人の挙動は本当に読めない…




