それでも…
―第6話―
私は、明彦くんの話を聞き終え、その場に呆然と立ち尽くしていた。明彦くんは既に教室へ戻り、私1人が廊下にポツンと立っていた。
一ノ江くんがなぜあんな無機質な人間になったのかは分かった。彼が、不器用ながらも私を気遣ってくれているのは、彼が元々優しい人だからという事も…
しかし、彼の過去を知ったところで、私に何ができると言うのだろうか…
『あいつをそっとしておいてやって欲しいんだ』
明彦くんの言葉が頭をよぎる。このまま身を引いた方がいいのだろうか。今の私は、一ノ江くんにとって、重荷でしかないのではなかろうか。
考えが定まらないまま、私は教室へと戻る。さすがにその時は結構な人数が教室に来ていて、一ノ江くんの姿もあった。
「あっ…」
一ノ江くんに話しかけようとすると、横にいる明彦くんに目で威圧され、立ち止まった。
そのまま自分の机に戻ると、千穂が私を迎えてくれた。
「お帰り。何話してたの?」
「うん…ちょっとね」
私は小声で答えた後、千穂に質問する。
「ねえ…千穂。好きな人を想うからこそ、自分は引き下がるってのも…ありなのかな?」
「自己犠牲ってやつ?」
「そんな聞こえのいいもんじゃないよ」
私の問いに、千穂は暫く閉口したが、少し考えてからこう答える。
「引き下がる事はないんじゃないかな?」
「…」
「明彦くんに何言われたのか知らないけど、ひかるから聞いた感じだと、あんた達はそんな状態じゃないと思う。だから、自信持ちなさいよ」
千穂はあっけらかんとした感じで言った。彼女はいつも、私が望んでいる事をさらりと言ってくれる。
「ありがとう千穂」
私は自分の席を立ち、一ノ江くんの方へ向かう。
「一ノ江くん!!」
明彦くんが制止するより早く、私は一ノ江くんに話しかけた。正直、私に出来る事なんてないかもしれない。
私が一ノ江くんの傷を癒す事なんて無理かもしれない。
それでも…それでも私は、彼のそばにいる事を選ぶ。私は少しでも…
「なんだい?」
私は、一瞬思考が停止した。私の呼び掛けに答えた彼の口調は、告白した時と同じ…いや、それ以上の無感情なものだった。
「何か用なの?」
あの告白も、バレンタインチョコも、休日のデートも、アクセサリーのプレゼントも…まるで何事もなかったかのような、味気ない切り返し…
正直、少し怖いとさえ感じる。更に彼は続けた。
「言っておくけど、この間街に誘ったのは単純に礼儀としてお返しをしただけであって、別に君に好意があったとか、そんなんじゃないよ」
この一言で、私は一気に奈落に落とされた。
結構クラスメイトが来ている状態でこのやり取りをしているため、その模様は皆に知れていた。
明らかに普通ではない感じに、皆困惑してある。
しかし、私はそんな事は気にも止めず、ただただ絶句した。千穂が信じられないといった感じでこちらを見ていたがそれもどうでも良かった。
彼の横では、明彦くんがこう言いたげにこちらを見ていた。
だから言っただろ?あんたにとっても一ノ江にとっても良くないって…




