休日のひととき
― 第3話―
土曜日の午前11時、場所は駅前で。待ち合わせの
内容はこうである。私は約束の10分前に待ち合わせ場所に到着したが、彼は既にそこにいた。
「やあ」
「ごめん…待った?」
「全然。今来たところだよ」
そのやり取りはさながら恋人同士のよう。実際は告白して一週間も立っていないのだが…
「どこ行こうか」
と、彼はいつもの淡白な口調で私に言う。最早この
無感情な言葉も聞き慣れてしまった。私は、「一ノ江くんが決めていいよ」と答える。
「じゃあ、僕がよく行くお店でいい?」
「いいよ」
私は少し微笑んでそう答えた。
「行こうか」
こうして、私たちは「一ノ江くんがよく行くお店」に
向かった。街は家族連れやカップルでにぎわっている。
休日なのに加えて、天気もよく、絶好の行楽日和だった。
大通りから脇道に逸れ、小さな雑貨店にやって来た。どうやらここが一ノ江くんの行きつけのお店らしい。
「ここ?」
「そうだよ」
彼はそう言うと、店内へと入っていく。私も一ノ江くんに続いて店内へ…
「いらっしゃいませ」
店員が優しい声で出迎える。内装は簡素ながらもどこか懐かしいような、ホッとするような雰囲気である。
彼は店内のアクセサリーを扱うコーナーに、私を案内した。
「この間のお礼に、好きなのを1つ買ってあげるよ。」
「えっ…そんなの悪いよ…」
「このくらいの事はさせてよ」
どうやら彼は、根は親切なようだ。いや、前にも感じた事だけれども、本来ならこの状況はとても喜ぶべき
ことなのである。
しかし、以前から好きだった気持ちと、バレンタインデーの時に受けた衝撃とがごっちゃになり、複雑な気分になっていた。
「い…一ノ江くんが選んでよ」
「…君が欲しいのでないと意味がないんだけど…」
暫し、気まずい沈黙がながれる。告白したあの日、彼が返答をするまでの長い一瞬にさも似たりだ。
「仕方ない…君がそう言うなら…」
一ノ江くんは軽くため息をつきながら言うと、1つのキーホルダーを手に取った。何やら小さな宝石のような物がついている。
小さいながらも緻密な加工が施されたその石は、綺麗な青色に輝いていた。
「綺麗…」
「女の子の好みはよく分からないけど、これなんか良いんじゃないの?携帯につけても良さそうだし」
どうやら彼いわく、何となくな感じで決めたらしい。それにしては、やけに迷いなくこの石を手にしたようにも見えたけど…。
結局私はその石を買ってもらった。
「ありがとうね。一ノ江くん」
「いいよ。お礼するのは当たり前の事だし」
と、やはり淡白な口調で答える。
その後は特に当てもなく街を周り、たわいもない話をした。好きな人との初デート、しかも向こうからのお誘いだというのに、やはりどこか味気なかった。
それと同時に、徐々に彼に違和感を感じるようになっていた。告白した時のことを考えれば、何を今さらと思うかもしれない。
だが、言葉では言い表せないが、何かこう…最初に話した時とは微妙に雰囲気が違うような気がする。
好意的になった、という事でもないが…とにかく、よく分からない。何かモヤモヤする。
夕方、それぞれの帰路につく。帰り道でも、私は彼の違和感が頭から離れなかった。
ちなみに、彼が買ってくれた宝石を調べてみると、
トルマリンという物だった。宝石言葉は、「健やかな愛」。
彼がこの事を知っていたのかは分からない。




