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人工電子頭脳『エデン』が世界統一を果たして一世紀。機械科学の進んだこの世界は全ての意思をエデンに委ねた、歪んだ世界。
それを思いながらも何も行動を起こさない自分は、偉そうに何か言える立場でもないわけで。少しでも刺激が欲しくて、少しでもあの管理された空間から抜け出したくて、そんな不純な理由から俺は軍へと志願した。
俺、坂谷晴樹、エデン学園アジア支部高等三年軍部科所属。それが俺のここでの身分だ。俺のいた軍部科はその名の通り、将来優秀な軍部の人材育成に特化した学科だ。エデンの直属の部隊である軍部の主な仕事はレジスタンスの制圧並びにエデンならびに支部都市の警備。
学生である俺たちも実践訓練と称して軍部から応援要請が来るぐらいだ。そして今現在その実践訓練中だったりする。というより、実践訓練って銘打った単なる鎮圧作戦だ。俺は相手から死角になるむき出しの岩の上から銃を構えて戦況を高みの見物よろしくスコープ越しに眺める。
エデン側が最新式のレーザー型粒子砲の戦車を出してきやがった。おいおい、こんな狭い渓谷でそんなもんぶっ放したらレジスタンスの生存者はゼロに近いんじゃないか。確か任務には捕縛も入っていたはずだが、上層部はそれを無かったことにしようってか。指揮官は・・・。あぁ、あのエデン主義のおっさんか。名前すら忘れた。
≪これよりレーザー砲を放つ、射的範囲内に居るものは即刻退避せよ。繰り返す・・・≫
インカムから聞こえてくる指示に俺はうつ伏せで構えていた体制を解き、武器を背負い起き上がった。ここは大丈夫だろうけど、念のためにな。
「!」
振り返った俺の目の前には武器を構えた少年の姿。目は血走り、荒い呼吸を繰り返している。
舌打ちしたい気分だ。俺より断然年下であろうこの子がボロボロになって武器を構えなきゃいけないこの状況に。そしてそんな子供を冷静に『敵』と判断している自分自身にも。
俺の持つ武器は長距離型ライフルと懐に忍ばせた短剣。子供は刃こぼれの多い刀。多少の傷は負わせても拘束できない相手ではないな。俺はそっと懐に忍ばせた短剣に触れる。子供はそんな俺の動作にびくびくと体を震わせ、睨みつけてくる。
「っあああああああああ!!」
先に動いたのは子供。叫びながら俺に刀を振り回し向かってくる。俺はそれを体を横にずらしてかわすと、短剣を子供の足元に向かって投げつける。
深く突き刺さった短剣に怯んでか、子供の動きは止まった。
≪レーザー砲発射≫
「しまっ!」
瞬間、凄まじい光と衝撃が岩場を揺らした。子供はバランスを崩し、後ろにむかって転倒していく。その先は崖のようになっていて、岩も切り立った岩が突き出すようになっていたはずだ。
俺は背負っていたライフルを投げ捨て無我夢中で子供に手を伸ばした。なんとか子供の腕をつかみ全力で引き上げる。
俺は入れ替わるように自分が落ちていくのだと感じ目を閉じた。
こんばんは、こんにちは野々村です。序章、加筆修正いたしました。というより、書き直しいたしました。
前半での晴樹はあんまり感情豊かというわけでもなく、エデンからの支配が若干解けかけている状態で自分自身モヤモヤしている状態ですね。後半は完全に次元の違う世界に渡ったわけで、完全に解けています。
この章は彼の運命の始まりです。皆さんもお付き合いいただけたらと思います。