知れば知るほど
ジビエ料理の研修で猪をさばいた経験があるとは言えオークは2本足、見れば見る程食べる気が失せていく。
幸いな事にオークは毛皮や肉込みで14万ゾロートになった。
1人頭7万ゾロート、身の回りの品や宿代の事を考えたら安心とは言えない。
「ヴェーラの町に着いたら神殿に顔を出してから冒険者ギルドに登録をしにいくぞ。オークは1匹400グローリーだから新しいスキルは覚えられないかもな」
オーク1匹400グローリ、俺が日本に帰るのに必要なのは1000万グローリだから帰るのにはオークを2万5千匹倒さなきゃいけない。
…そんなにオークはいないと思うけど。
「ナーチェーロの大神殿ってヴェーラの町から遠いのか?」
日本に戻るスキルを覚えれるのはナーチェーローの大神殿だけとの事。
「ナーチェーロまで行くだけで半年はかかるし、大神殿に入るには王族か貴族に身元を保証してもらう必要があるんだぜ」
…マジですか?
「後、7大天使にはどうすれば会えるか分かる?」
日本に戻るスキルを覚えるには7大天使の許可も必要なんだよな。
「気を付けろ!!7大天使様って言わなきゃ下手すりゃ牢屋行きになるんだぞ。7大天使様の1人にでも会えれば孫の代まで自慢が出来るんだぜ…7大天使様はそれぞれの神殿に行かなきゃ会えないから、7人全員と会うなんざよっぽどのコネと金がなきゃ無理だな」
気軽には帰れないとは思っていたが、ここまで厳しいとは。
「マジかよ!!俺にアルバに永住をしろってのか…はーぁ、世知辛くて涙も出ないよ」
「ナーチェーロ大神殿も7大天使様も庶民には縁がない存在だからな。しかし、他の世界から来たばかりのトラがなんでナーチェーロなんて知ってるんだ?」
俺はロークに元の世界に戻る条件を伝えた。
「…1つだけ方法があるぜ。年に1回7大天使様はナーチェーローの大神殿にお集まりになる。その時にお1人にでも会えれば許可がもらえるかもしれない…大神殿に入る条件を満たせたらの話だけどな」
「とりあえずヴェーラで金を稼いでからだな。400グローリーは靴擦れ防止と馬車耐性に使うか」
ゲームみたいに道を歩いていたら、オークが現れたなんて展開がある訳もなくヴェーラの町に到着。
ヴェーラの町はレンガ造りの建物が並び石畳が綺麗に敷かれていた、地球にあったら新婚旅行のメッカになっていると思う。
「ここがヴェーラの神殿だ。各種ギルドのもここに入っている」
ロークに案内されたのは郊外型のスーパーマーケットぐらいの大きさの建物。
「随分と大きいんだな」
「ギルドの他に神官の修行場もあるし巡礼の信者も泊まる宿屋も兼ねてるんだよ」
神殿の中は穏やかな雰囲気で意外と簡素な作り。
ただし俺が紹介状を出すまでの話、俺が紹介状を渡して、少しすると神殿が慌ただしくなった。
「…どうしたんだ?」
「だから言ったろ?お前は神殿的には有り難くない存在なんだよ。何しろ異世界から人を連れて来ない事を決めたのは光の大天使様なんだぜ」
ロークが言うには8年前に光の大天使様から¨何時までも異世界の人に頼らずにアルバだけで文明を発展させなさい¨そんなお告げをしたらしい。
つまり、俺が異世界人なんですよと言い触らしたら天使の信頼が崩れ神殿の権威にも傷がついてしまう。
「サカモト様、こちらにいらして下さい」
俺を迎えに来たのはフル武装の神官さん達、その姿は俺を逃す訳にはいかないって気合いがみなぎっている。
「そんなに怖い顔をしなくても逃げませんよ」
そんな俺の言葉を聞いてないのか神官集団がグルリと取り囲んだ。
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俺が連れて来られたのは、かなり奥まった所にある部屋。
「私が当神殿で神官長をしているアドリフです。この度は何と言いますか…厚かましいお願いなのですがサカモト様が異世界から来たと言う事は出来るだけ内密にしてもらいたいのですが」
アドリフさんは人の良さそうな顔を何度も下げてきた。
「俺としては元の世界に戻れるならそれで構いません。グローリーや大神殿の許可を融通したもらえたら助かるんですけど」
「それは私の一存ではなんとも…各領地の通行許可やギルドの仕事をサカモト様に優先させる事なら大神殿にお願い出来るのですが」
まあ、アドリフさんは日本で言う町長さんみたいな役職なんだろう。
その人に国会の法律を変えて下さいって言ってる様なもんだし。
「分かりました、お願いします」
「そうですか、ありがとうございます。サカモト様が倒されたオークの腕の丸焼きを用意したのでご賞味下さい」
…毛がむしられた5本指の丸焼きはビジュアル的に危険過ぎた。
ルーチェとの再会を遅くすると虎馬がせつなすぎる感じがしてきました