始まりと出会い
これを書くのに四時間も掛かった。スマホいまだに慣れず
神官長様に案内されて村を出ると一本道に出た。
「この街道を真っ直ぐに行くとヴェーラの町に出ます」
親切に教えてくれる神官長様だけど脇にあった立て看板にヴェーラまで8時間、ゴブリンに注意!!と書かれていて俺の不安を倍増させる。
「あのゴブリンが出るんですか?」
辺りは見渡す限りの草原で何が出てもおかしくはないんだけども。
「サカモト様はお強いですからゴブリンに教われても心配ないですよ。人を殺めたゴブリンなら300グローリになります」
つまりゴブリンと会ったら殺るか殺られるかになりかねないと。
「人殺しゴブリンを倒した証明はどうするんですか?」
その前にどのゴブリンが人を殺めたか分からないんだし。
「グローリの数値は天界で決められています。神官が天使様にお伺いをたてると、どうやってグローリを貯めたかを教えてくれるんですよ」
小さい子どもが弟や妹を守る為に必死にゴブリンを倒すのと冒険者が集団でゴブリンをボコるのじゃ手にはいるグローリは違って当たり前かもしれない。
「つまり悪い事をすれば魔物を倒してもグローリは貯まらない可能性があると」
「何時でも天使様は私達の事を見守ってくれています」
つまり天使のご意向に逆らえ何時までたっても元の世界には帰れない可能性があると。
「とりあえず生活ベースを確保してからグローリを貯めていきます」
元々スキルなんてない世界で生活してたんだから何とかなるだろう。
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神官長様と別れた俺は砂利道をトボトボと歩いていた。
8時間も歩くのに最初から飛ばしていては体力がもたない、幸いに天気は穏やかで草原を渡る風も爽やかだ。
遮蔽物もないからゴブリンが突然襲ってくる可能性も少ないと思う。
(とりあえず3時間歩いたけど、この調子なら何事もなくヴェーラの町に着けそうだな。おっ、休憩所か)
少し目の前が広場になっており小さな小屋と井戸が見える。
(生水スキルが早速役にたつな)
休憩所には先客が数人いた。
戦士風の男もいれば親子連れもいる。
「よお、兄ちゃん。1人旅かい?そんな棒しか武器が無いと不安だろ?俺を護衛として雇わないか?安くしとくぜ」
話し掛けてきたのはモジャモジャ頭に無精髭、細身だけど野暮ったい感じの男。
「手持ちがないから遠慮しとくよ。それに俺の武器は棒だけじゃないんだよ」
きっとこの男はこうして日銭を稼いでいるんだろう。
「武器って兄ちゃんは魔法でも使うのかい?」
「俺の武器は周り全部だよ」
男はきょとんとしている、当たり前の反応だよな。
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ちょうど良いカモだと思って話し掛けた男は周り全部が武器なんて変な事を言いやがった。
ただの世間知らずかと思いきや足運びは素人には見えない。
興味を持った俺はサカモトって男の後をつける事にした。
(俺の間合いに入った途端に早足になりやがる。素人じゃねえな)
そのまま2時間ぐらい歩いただろうか。
突然、叫び声が聞こえてきた。
見るとババアがゴブリンに襲われている、服からすると農婦だろう。
(助けても礼は期待できねえな。けど見捨てたら商売に響くし、どうすっかな)
「あれがゴブリンか?」
「そうだぜ。まさか初めて見るって言うんじゃないだろうな…助けるつもりか?」
ゴブリンなんて町から出ればいくらでも見かけるんだぜ。
「今ならゴブリンはおばさんに意識がむいてるからな」
サカモトはそう叫ぶと走りだした。
「気を付けろ、脇の川は深いからな」
「ありがとう。使わせてもらうよ」
使わせてもらう?なんだそりゃ?
………サカモトの戦い方はえげつなかった。
ゴブリンの後頭部を棒で殴り付けたかと思うと返す棒でゴブリンの腹に一撃。
うずくまったゴブリンのボロい服を棒で引っかけると川に叩き落としやがった。
その上、ゴブリンを棒で押さえ付け息をす暇を与えずに溺死させた。
(周り全部が武器か…人の良さそうな顔してる癖にえげつねえな)
…こいつと組むのも面白いかもな。
「サカモト、俺とパーティーを組まねえか?俺の名前ローク・グルーヴってんだ。よろしくな」
これが坂本虎馬とローク・グルーヴとの出会いだった。