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トンマとザコ浦島トラマ

 久し振りに会った親友(ざこ)は、以前と違い自信に満ち溢れていた。


「さてと、出発前にいくつか確認しておきたい事があるんすけど」

 ザコが確認したのは


1・天使の羽と力を一時的に封印する事は

出来るか

2・ルーチェはウムヌーイ伯爵領に部下の天使を喚ぶ事が出来るのか

3・頑丈な釣り竿と糸を用意する事が出来るか

4・あの蛙の仲間が住んでる土地は今もあるのか

5・天使を拘束出来る法具はあるか

6・蛙を拘束出来る法術はあるか

 

「全部出来ると思うけど、釣り竿って蛙の餌にする魚を釣るのか?」

 確かにあの蛙の餌になる魚なら重さがあるから頑丈な方が安心だと思う。


「細工は隆々、後は仕上げをご覧じろってね」

 ザコの口が閉じるや否や、今度はロークが口を開いた。


「そうと決まりゃ、直ぐに蛙の所に向かおうぜ」

 落ち着きはらっているザコとは逆にロークの顔には明らかに焦りの色が見えている。


「直ぐには行けないっすよ。出来たら3日、最低でも2日掛けて領内を移動したいっすね」


「なんで、そんな事をするんだよ。その間に誰かが食われたらどうするんだよ」

 ザコは八つ当たり気味に食って掛かるロークを醒めた目で見ながらゆっくりと答えた。


「直ぐに行って倒したら俺達が蛙を呼び寄せた犯人にされちゃうっすよ。犯人にしてみれば折角企てた計画を横取りされた事になるんすからね。そうすれば領民を危険に晒した犯人に仕立て上げれちゃうっす。…そこに追い出した兄上がいたら謀反の罪も追加されちゃうっすね」


「だけど…だけど民には何の罪が無いんだぞ」


「言ってる事はご立派で正論なんだけどさ、後継ぎの権利を放棄したあんたにはそれを言う権利はないんだよ。まっ、話を聞いてりゃ弟さんが税やグローリーを納めてくれる大事な領民を餌にはしないさ。餌にするのは放牧してある家畜とかだろ」

 ザコはこ憎ったらしい程に落ちいている。


「ザコ、蛙を倒す方法があるのか?」


「トンマ、でかくなっても蛙は蛙なんだぜ。きちんと用意さえすりゃ全部解決出来るさ、でも倒すだけじゃ万事解決とはいかない。まずはイスラ・セブティムの羽と力を封じて下さい」

 

―――――――――――――――


 イスラの苦悶の声と怨嗟の声が街道に響く。


「荷物重いー、足も肩も痛いー。もう少しゆっくり歩きなさいよー」


「良いっすよ?でもその場合は野宿になるっすよ、人間のきつさを体験するんすから今なら大地のベッドと夜空の天蓋、ヤブ蚊の子守唄付きっすね」

 力を封印されたイスラにザコが命じたのは荷物持ち、普段は軽やかに大空を飛んでいる火の天使は息をきらし脂汗を垂れ流しながら歩いている。


「くー、そこの不細工な猿人!!私は高貴な天使なのよ。力を取り戻したら覚悟しなさい…はっ、力の弱まった私を無理矢理襲うんでしょ!!けだもっ…ノー!!」

 次の瞬間、イスラの頬から一滴の血が垂れた。


「す、すげー。矢で頬の皮膚だけ切り裂いた。流石はメリー先輩!!」

 ちなみにルーチェはわざわざ羽を閉まって俺の隣を歩いている。


「コウサ、あの勘違い天使の喉を射抜いたら静かになるかな?久し振りの二人っきり時間の邪魔なんだよねー」

 メリーさんは次は当てるよと、言わんばかりにイスラに弓矢を向けていた。


「イスラさんに言っておくっすね。俺もメリーも貴方よりずっと高位な神に仕えてるんすよ。まだ元気そうっすね…グラビティウェポン」


「な、何?いきなり荷物が重くなった?もうやだー!!」

 イスラはあまりに理不尽な展開にとうとう泣き出した。


「ザコ、何をしたんだ?」


「魔法で荷物を重くしたんだよ。人の苦労が少しでも分かれば天使(イスラ)も変わるだろ。火の天使だから暑さに強い、だから水分補給も必要なし。本当に良いシェルパーだよな」

 ザコはそう言うと腰に提げていた水筒に勢い良く口をつける。


「先輩、ザイツ先輩は何でイスラを苛めているんだ?チェニーとフレイがドン引きしてるぞ」


「ザコは自分一人が嫌われ者になろうとしているんだよ。俺にしろロークにしろアルバに住むんなら嫌でも天使と関わらなきゃいけないからな」

 第7級の天使をシェルパーにしたなんて、バレたら殺されても文句は言えないだろう。


「お腹空いたー、喉乾いたー、休みたいー」


「恨むんならトンマを強引に連れて来たゲイルを恨むんすね」

 イスラの怒りをゲイルに(なす)り付けてるのは気のせいだと信じたい。


―――――――――――――――


 2日目の昼にそれは遠くから聞こえてきた。

 低くどこか哀しげな蛙の声。


「今、鳴いてる蛙が例の(かえる)なんだろうな」


「トンマ、あれは鳴いてるんじゃなく泣いてるんだよ。強引に棲み家を奪われて気付けば見た事がない世界に自分一匹…哭いてるの方が正確かもな、慟哭だよ。いきなり知らない世界に1人にされる気持ちは分かるんじゃねえか?」

 確かに、ゲイルに連れて来られた時の恐怖感は身に染みている。


「そう…だよな」


「俺はオーディヌスに行ってメリーと知り合い家族や仲間を得る事が出来た。トンマ、あの蛙と同じになるなよ…気付いたら浦島太郎になってたなんて笑えないぜ」

 浦島(おれ)乙姫(ルーチェ)以外の知り合いがいなくなったら耐えられるんだろうか。


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