虎馬とルーチェ
イスラちゃんの後を追っていくと、丁度二人の男性と話している所でした。
「先輩だ…良かったー、元気そうだな。先輩が無事で本当に良かった」
ルーチェちゃんはそう言って安堵の溜め息を溢しました。
その瞳からは涙が次々に零れ落ちてています。
「あの方がサカモト様ですか?」
ルーチェちゃんの視線は、人の良さそうな男性に釘付けになっていました。
「そうだぜ、あの人が坂本虎馬さ。ヤバイなー、大人になった先輩は素敵過ぎだよ。優しさはそのままに、大人の雰囲気をまとわせて。俺はやっぱり先輩が好きなんだ」
でもサカモト様は、お世辞にも美男子とは言えない顔立ちです。
そんな時です、サカモト様の言葉を聞いたイスラちゃんの表情が変わりました。
「あんなの?…不細工な人間が天使に対して、そんな言葉 を使って許されると思って!!そうよ、ロークを燃やしちゃ えばサカモト・トラマも探せなくなる」
イスラちゃんは、そう呟くと巨大な火の玉を作り上げてしまいました。
「イスラの奴、分かってねえな。先輩の良さは外見だけじゃく、中身も格好良いのによ。チェーニー、あの火の玉は俺が消すからな」
「大丈夫ですよ、人があの火の玉を見たら直ぐに命乞いをして謝ります。そうしたらイスラちゃんも火の玉を消すでしょう」
あれは天使に逆らった人間に対する示威行動なんですから。
「チェーニー、なんで先輩が謝らなきゃいけないんだ?それにお前は先輩を知らないんだよ」
サカモト様は謝るどころか信じられない言葉をおっしゃりました。
「うるせーよ。お前があれを呼び込んだんだろうが…さて 、どうやってロスト君達を逃がすかだな」
それは命乞いをせずに、仲間を救う為に犠牲になるという事です。
「お前は逃げねのか?…大事な彼女に会えなくなるぜ」
「日本からアルバに来たときから、ルーチェの事は諦めてるよ。何より、ここで逃げちゃ格好悪い先輩になっちゃう しな。ローク、あの天使を町から引き離すぞ 」
そう言ってサカモト様は、町と反対方向に走り出しました。
「あれが俺の先輩さ。あの人は誰かの為に必死になれるんだよ、それこそ自分を犠牲にしてもな…もう、先輩のバカ、先輩は何時でも格好良いんだぞ」
サカモト様達が走り出した所為で、イスラちゃんの手元がぐらつきます。
「ルーチェちゃん、このままじゃ打ち消す前にサカモト様達に当たります」
「大丈夫だ、先輩は俺が守る」
「でも、それじゃルーチェちゃんの正体が」
さっきの会話からサカモト様は、天使を嫌っている事が分かります。
「あのな、先輩は町の人を助ける為に自分を犠牲にしようとしたんだぜ?チェーニー、お前は俺を格好悪い彼女にするつもりか?」
ルーチェちゃんは真っ白な翼を広げるとサカモト様の所に飛び立ちました。
――――――――――――――
天使の手には、笑えない大きさの火の玉が作られていた。
「ローク、火消しスキルとか耐火スキルは持ってねえのか?」
「火の天使が火消しスキルなんてくれる訳ねえだろ。料理人の知恵でなんとかならねのか?」
穴を掘って隠れる…蒸し焼きになって冨貴鳥じゃなく冨貴虎になっちまうか。
あえて火を突っ切る…ローストトラの出来上がり。
「近くの川まで逃げるぞ…浅くなきゃ逃げれる」
「浅かったら、どうなるんだよ」
「茹でトラになるだけだよ…とりあえず町は助かるさ。お前もな、好きな女が生きてるんだろ」
俺はロークを思いっきり突き飛ばして、走った。
でも逃げたは良いが、人の足には限界がある。
火の玉がぶつかると思った瞬間、俺は真っ白な翼にくるまれていた。
「間に合って良かったー。先輩、どこも痛くないか?」
「ル、ルーチェ?お前なんでここにいるんだよ?それより何でこんな馬鹿な事をしたんだよ?」
そこにいたのは間違いなくルーチェ。
「先輩を守る為に決まってるだろ?…それに俺は天使だから平気なんだよ」
確かにルーチェの背中からは真っ白な翼が生えていた。
「天使だからって火の玉が当たって平気な訳ないだろ!!早く背中を見せろ」
「嫌だ!!先輩に火傷の痕なんか見せたくない…先輩、俺は天使なんだぜ?嫌いにならないのか?」
――――――――――――――
背中は痛むが、今はそれどころじゃない。
「馬鹿言ってないで背中を見せろ…ルーチェ、生きていてくれてありがとう。火傷が治ったら俺の飯を食ってくれないか…もう一度、恋人として食べてくれないか?」
「ず、ずぇ、ずぇんばーい!!勝手にいなくなってごめんなさい…俺を本当にまた好きになってくれるの?」
「またじゃないよ?俺はずっとお前を好きだったんだから」
先輩はそう言って俺にキスをしてくれた。
8年ぶりのキスは治癒能力を全開にしてくれて、火傷なんか直ぐに治った。
今の俺はアルバ一の幸せ者だと胸を張って言える。
ローク編どうしよう。
とりあえず次の話で色々回収します。




