ローク・ウムヌーイ
あの日と同じく赤い髪の天使が俺を見下ろしている。
イスラ・セブティム、俺の生まれたウムヌーイ公爵家の守護天使にして、俺から姓を剥奪した天使。
「 ローク・ウムヌーイ、久しいですわね。私の事を覚えていますか?」
「俺はただの庶民ですよ。誰かと勘違いされていませんか?」
そう、今の俺は公爵家の長男ではなく、爵位も姓もない庶民。
「私はイスラ・セブティム。貴方の守護天使じゃないですか」
「イスラ・セブティム様はウムヌーイ公爵家の守護天使ですよ。それに俺からウムヌーイの姓を剥奪されたのは他ならぬイスラ様です。第一、イスラ様とはウムヌーイ公爵家の私設礼拝所でしか会えないのが習わしですよ」
「と、特例です、緊急事態での特例なんです」
おかしい、イスラ・セブティムはの一人称は我だったし、態度は尊大そのものだった筈。
「何より、俺はイスラ様とウムヌーイ家から縁を切られた人間です」
そう、あの崖下でローク・ウムヌーイは、ただのロークになったんだ。
「ローク、あの天使は知り合いなのか?…天使って、あんなのしかいないか?」
トラがイスラを訝しげな目で見ている、トラも天使に人生を狂わされたから放って置けなかったんだろう。
「ああ、昔は尊敬していた天使様だよ。それに公爵家の長男ってのもマジだ」
「いや、それはないだろ?ロークから上品と気品なんて欠片も感じねえぞ」
「うるせえよ、料理バカ。今からウムヌーイ公爵家の暴れ坊っちゃんの話を聞かせてやる」
何よりトラは遠慮をせずに、何でも言い合える大事な相棒だ。
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昔の俺は空井戸坊っちゃんに負けず劣らずの馬鹿貴族だった。
勉強もせずに、手下を連れて冒険者の真似事に興じる日々。
望めばどんな高い装備も貰えたし、領民から集めたグローリーで色んなスキルを覚える事が出来た。
言い訳になるかも知れないが、恐かったんだろう。
暴れ坊っちゃんよりも、弟のアース様の方が公爵として相応しい。
ウムヌーイ家もローク様が当主になれば衰退する。
傲慢なローク様は誰にも好かれないし慕われない、それに比べてアース様は領民に優しく皆に尊敬されている。
目を閉じても耳を塞いでも、そんな話が聞こえてきた。
そして14才のあの日、俺は手下によって崖から突き落とされたんだ。
呆然としている俺を見下ろしながらイスラ・セブティムはこう言った。
「せめてもの情けでスキル切りはしないでおいてやる。ただし、今からお前はただのロークだ。我ともウムヌーイ家とも、もう縁はない。これはお前の元家族も元手下も領民もあのメイドも了承しているからな」
なんか笑えた、俺は崖の下で狂うぐらい笑った。
天使の一言で俺は全てを失ったんだから。
ただのロークになった俺が最初に知ったのは宿無しの惨めさと空腹だった。
それからは覚えたスキルを活かして、真似事じゃなく本物の冒険者になったんだよ。
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「あんなの?…不細工な人間が天使に対して、そんな言葉を使って許されると思って!!そうよ、ロークを燃やしちゃえばサカモト・トラマも探せなくなる」
イスラはそう呟くと巨大な火の玉を作り上げた。
「ったく、トラ。お前は一言多いんだよ」
「うるせーよ。お前があれを呼び込んだんだろうが…さて、どうやってロスト君達を逃がすかだな」
「お前は逃げねのか?…大事な彼女に会えなくなるぜ」
「日本からアルバに来たときから、ルーチェの事は諦めてるよ。何より、ここで逃げちゃ格好悪い先輩になっちゃうしな。ローク、あの天使を町から引き離すぞ」
「分かったよ。ロスト!!女を連れて逃げろっ」
最後に暴れ坊っちゃんから、町を救った英雄になるのも悪くねえな。
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巨大な火の玉を作ったイスラの思考は停止していた。
(まずい、やばい、まずい、やばい、まずい、やばい、まずい、やばい。トラ?日本?先輩?…ル、ルーチェ?あれがサカモト・トラマ?いやいや、ルーチェ様があんな男を好む訳がないって)
何より今さら火の玉を消す事なんて出来ない。
幸いな事に、ローク達は町から遠退いていく。
「もう限界…ファイヤーボール!!」
私の火の玉がローク達に当る瞬間、それは起こった。
またひきになったかも知れません。
次は魔王か下忍を更新します。
それと東京に住んでる方、詳しい方にお願いがあります。
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