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ロー イズ マイ・シスター!

「お兄ちゃん! あーん、して」


しねえよ――と心で否定しても、俺は妹に逆らうことができない。

パクッと口に運ばれたものを行儀よく食べるのが日常の一つだ。


「おいしい?」


「ああ、とっても美味しいよ。なんたってミュルーが食べさせてくれるからな」

心にも無いことを棒読みで言う俺。


「うふ、お兄ちゃんったら口が上手いんだから〜」


極上の笑顔をお届けするのは、妹のミュルシアラ・レッジェ、14歳。

歯の浮くような誉め言葉でも似合ってしまう、超美少女。

印象強いワイドな目と瞳。肩口で揃えた金髪の一部を短いツインテール状に結わいていて、頭の天辺からピョコンと一本だけ飛び跳ねたクセッ毛が愛らしい。

しかし性格は……。


「今日もお仕事するから、早めに出るね?」


俺も仕事だから早めに出るけどな。

朝食が終え新聞を読んでいると、早く出掛けると宣言したはずのミュルーがまだいる。

そのミュルーは新聞を取り上げると、


「何か忘れてない?」


「なにかって、何?」


「行ってきますの、チュー!」


今すぐ脳を解剖してこい。


「やだやだやだ! チューするのっ!」


うぜー、駄々をこね始めたよ。


「絶対するもん!」


「しない」


「今のうちだからね! 明日からは『兄弟は行ってきますのチューをしないといけない』法律を作ってやるからっ! バカーーーッ!」


半ベソで貯水漕を作りながら、ドアを乱暴に閉めるミュルー。

こればっかりは従うことはできないね。

いや、待て。法律を作るって言ったよな?

やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい、やばい。

俺は危険な状況を打破すべく、仕事場に直行することに決めた。



――聖会・ポルシオン前――


来た場所はいつもの広大な建物。白亜の大理石で造られている。

形は、昔に『とある国』にあった国会議事堂に酷似している。

ポルシオンは、この国の法律を決める聖域じみた場所だ。

なぜ俺がそんな所に来ているかというと――


「待っていたよ。伏見ふしみユーゴ」


その待っていた人物は、色素の薄い紫色の長髪ボーイ――シェヌ・フィデーリテルだ。

美形で小柄、人畜無害そうな容姿だが、それとは裏腹に超危険な性格の持ち主だ。

シェヌは自慢の鞭を片手に俺へと近づいてくる。


「おとなしく捕まってくれるなら、痛くしないよ。ねえ、ユーゴ。僕たちさぁ、親友だろ?」


殺る気、満々だよ。この人。

地面を抉った鞭を見てから、説明も放り出して逃走。


「君さえ僕の手中にあれば、僕が『法王』も同じさ! そうすれば絶滅種に指定された動物の管理は僕がやるんだ! ひゃーはっはっはっはっ!」


実験する気だよ、こいつ。この前、抱いた動物が嫌がり出したのは、その邪気の所為か。


「おらおら! 死ねよ!」


捕らえるんじゃないの!?シェヌの鞭は道路に爪痕を残し、コンクリートの壁を粉々にした。

もうダメだ。

鞭が俺の頭に直撃しようかという、まさにその時。

火の球が一瞬にしてシェヌを包み込み、動きを止めた。


「無事ね、ユーゴ」


助けてくるたのは黒のショートヘアー女性だった。

顔立ちは整っていて中性的。魅惑のボディと、お決まりな設定の人だ。


「助かったよ、アリエッタ」


アリエッタはウインクで返事をした後、前方の火球を睨んだ。


「アリエッタ……。なんで僕の邪魔をするんだい? 君もついでやっちゃうよ?アリエッタぁあああああっ!」


超人、キターーー!

閃光が弾け、二人の姿が見えなくなる。


「君はよい友人だった! しかし君の友人がいけないのだよ!」


これは、シェヌの残忍バージョンの声。


「ここでユーゴを守って、私が『あの御方』に優遇されるのよ」


うわー、ヤなこと聞いちゃった。

閃光の中からビデオカメラが登場した。


「私の雄姿を撮るのよ! ユーゴ!」


…………。

俺はビデオカメラを録画モードにしてから、地面に置いた。

それを、あさっての方向にやり、その場を後にした。



――聖会・ポルシオン内部――



様々な人々が出入りする正面玄関を抜け、階段を上った先にある巨大な扉を開けた。

中は『とある国』の裁判所に似た仕様になっている。俺の席は、指定席である青の6号。

別に色と番号に深い意味はない。特に意味はないぞ。本当に意味はないぞ。

さてと、『法王』と残る『三賢人』を待つか。

おっと、説明しておこう。ここは自由国家スタッローネ。

『とある国』が滅び、新しく四つの権力で分離されて、成り立った国だ。

また、四区域の代表一人ずつが法律をポルシオンで提案するという、新制度が確立している。

『法王』とは、スタッローネの法律を決める絶対の権力者。しかし可否権だけで、法案はできない。

『賢人』というのは、スタッローネの法律を提案する者。

賢人の腕に、各区域の命運が握られてると言っても過言ではない。

おっ、よく分かってるじゃん。俺も賢人の一人だよ。伏見ユーゴ。通称、青の6号。

いや、別に色と番号に深い意味はない。特に意味はないぞ。本当の本当に意味はないぞ。

アホな小ネタをしてたら、他の奴らが来た。


「酷いじゃない、ユーゴ! わたしの雄姿が撮れてないわよ! この、恩知らず!」


一人目はアリエッタ。


「やあ、ユーゴ。さっきはごめんよ。僕たち親友だよね?」


二人目はシェヌ。

シェヌはポルシオン内部だと残忍モードが出ないらしいので安全だ。


「こんにちは。ユーゴ君。今日はお手柔らかに頼みますよ」


三人目は初登場。

長身痩躯で色白の優男。

赤く、流れる血のような長髪と甘いマスク。眼鏡の奥の黄色の瞳が妖しく輝いている。

マルス・クロウだ。

四人が指定の席に着くと、『法王』が姿を表した。

あのさ、もう分かるよな?あいつが17代目の法王――その名はミュルー。

マイシスターです。はい。今は、紺色を基調とした制服を着ている。

ミュルーは誰よりも高い席に腰掛け、ハンマー打ち。


「では、議会を始めます」


先手必勝。俺は勢い良く挙手した。

だが、ミュルーは頬を膨らまし、プイッと外方を向いてしまった。

俺、超不利じゃん。

まあ機嫌が直らないことには、こうなるのは目に見えてたけど……。

でもチューの要求は呑めんよ。俺はノーマル・フューマンだ。

なんにしろ、17代目は最強の独裁者だと断言することだけはできる。弱いな、俺。

シェヌとアリエッタは作戦を失敗したので、次の策を思考中だろう。

無策の提案など、通らないからだ。

沈黙が続く中、マルスが静かに手を挙げた。


「発言を許可します」


ミュルーがマルスを指差す。

こんなときは凜々しいよな、こいつは。

別に、その横顔が弓の切っ先に似ているほど鋭いって訳じゃないが。

立ち上がったマルスは、おもむろにミュルーの席に向って歩きだした。

ん? なぜか、手にはデジカメ。

ミュルーの席まで行くと、


「私からは、我々の区域の商業に於いての優位化を図って頂きたいのです。可決時のお礼と言っては何ですが、お好きな映像を三枚ほど写真にしましょう」


そう言って、デジカメの映像を見せ始めた。

すると途端にミュルーが満面の笑みになり、ハンマーを叩いた。


「マルスの案を可決します!」


ちょっと待て。スゲー嫌な予感がするぞ。


「その不自然なまでに多大な決定力を持った物品を拝見したい」


議会だから、一応それらしく。


「うっ……、何かね? こ、これは企業秘密ですよ」


この慌てようは怪し過ぎる。

俺は魔法空間から愛用の槍――プロテヴォンを取り出した。


「そいつを見せろ!」


飛び掛かり、プロテヴォンを突き出した。

しかしマルスに届く寸前で魔法障壁によって阻まれた。


「はははっ……、私が魔法剣士であることを、お忘れですか?」


短篇のコメディーで細か過ぎるんだよ。

マルスは細長い剣を構え、カウンターを繰り出す。

俺は躱した直後、生じた隙を突きデジカメを奪った。


「しまった!」


即座に後退し、映像を見た。

そこには俺の映像のオンパレード。風呂場の写真まであるぞ!?


「犯罪だよ、あんた……」


「はははっ……、私が魔法剣士であることを、お忘れですか?」


「関係ねえだろ!」


「法王と賢人の立場である兄妹だけは結婚ができるって法案をしてくれた人には、特別にもう一つだけ好きな法を作ってあげるんだけどなぁ?」


俺がマルスからプライバシー保護をしていると、ミュルーの野郎がとんでもないことを。

何だその具体的かつ指名性が高過ぎる案は。

その権利をめぐってシェヌとアリエッタが口論を始めた。


「可決しても、結婚なんてしないぞ! 断固拒否!」


「うえーん。ひっく……酷いよ、お兄ちゃん……」


「泣き真似すなぁーーーっ!」



そんなこんな(どんなだよ)で議会が終了した。

俺はポルシオンから少し離れた場所にある建物の前まで来ていた。

壁も屋根も総ピンク。いい趣味してるぜ。

今日こそは言わなければならない。ミュルーの独裁に終止符を打つべく。

ここは俺の親父の家だ。親父は16代目の法王だったので、何か良い方法を知っているかもしれない。

いつになく気合いを入れ、扉を開けた。

…………。

そこには椅子に座ってイチャイチャしている二人の男女がいた。

一人は親父。もう一人はお袋――じゃなぁーーーーーいっ!


「おい! 何やってんだよ、あんた! これ誰? ヤだよ! こんな設定!」


「すまん! 出来心で浮気しちまった」


顎髭の似合うダンディーでワイルドな男――伏見ダイジローは即効土下座。

いや、俺に謝られてもなぁ。


「とにかく話があるから、帰ってもらえ」



俺はミュルーを法王から失脚させる計画の策がないか、浮気男に教えを乞うた。


「ない!」


「真面目に考えろよ。法王として現状に疑問はないのか?」


「ない!」


「じゃあさ。何でミュルーに法王の座を明け渡したんだ?」


問い掛けると、ダイジローはどこか遠い目をして溜息を吐いた。


「あれは二年前のある日、ミュルーが『ほーおうの、お席ちょーだい』って哀願してきた」


「………………」


「あまりにも可愛かった。罪のレベルだ。あの娘のためなら、俺はどんなことでもしてあげたかった」


「…………」


「だからあげちゃった」


「……」


俺は押さえられない怒りを拳に託し、全力でダイジローを殴り飛ばした。


「へぶしっ!」


変な叫び声を出し倒れた。


「そんなの無かったことにしろ!」


「しかし俺はもう法王ではない」


「歯ぁ、食い縛れ! そんな大人、修正してやるぅーー!」


拳じゃ生温い。プロテヴォンでボコボコにした。


「待て。最後に浮気のことは忘れてくれ。ごめんちゃい」


やはりプロテヴォンで刺してから帰ることにした。



役立たずの浮気男に業腹ながらも帰宅。

当然、法王が待ち受けていた。

ご機嫌な笑顔だ。喧嘩は議会までだからな、この確信犯は♪


「ご飯にするぅ? お風呂? それとも――」


意味深な目付きで寝室を見るな。


「風呂に入る」


これ以上、アホな発言が飛び出す前に答えた。

脱衣所まで行き、服を脱ぐ。

今日も疲れたな。無駄なことに体力を使いすぎる。

さて、魔法剣士に警戒してと。

あ? すぐ横に気配を感じたので向くと、ミュルーも服を脱ごうとしていた。


「おい。何やってんだ?」


ミュルーは、はにかんで上目遣い。


「何って……定番でしょ?」


「出てけ!」


「ダメだよ。今日の議会で『兄妹は必ずお風呂を一緒に入る』法案が可決されたんだから」


…………わーい、職権乱用だぁい♪


「ミュルーは嬉しいよ。お兄ちゃんと一緒の時間が少しでも増えたから……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初タイトル見たときになんだ? とか思ったら『法律は我が妹に』ですかw えぇっと真面目に批評すると無駄な設定が多すぎというか、重要じゃない部分は省いてもいんじゃないかと。 しかし設定が奇抜で…
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