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アグロンド王国物語-妖精国家の英雄譚-  作者: ガーレ
第1章-アリス編-

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第6話-港町-

 私達にとっての初陣……とは、呼べないわよね。小さな港町ワルハムは、あっさりと落ちた。無血開城だった。それもそうよね、だって魔法使い70人以上の軍勢だもの。国の端っこの小さな港町に、抵抗は天地がひっくり返っても無理だものね。


 いや、そんなことはどうだっていいわ。私の一番の心配事は、銀髪系の住人の安否だった。それも、上陸してみて分かった。この町は無事だった。


「良かった……皆殺しにあってなくて」

「物騒ですね。少なくとも、案内人の前で口に出すのはどうかと」

「アトゥス語だから分かんないわよ。それにカリン、学院でも話したと思うけど、妖精種の混沌の時代の戦争はね、負けた部族の皆殺しは当たり前だったんだから。私も、一応、覚悟はしてたのよ」

「そうですか」


 私は今、接近戦闘に長けた護衛のカリンと、話し合いにうってつけのジェファー、それに付随する数名の同志を連れて、町民の案内で町長の屋敷を目指している。

 無事だったとはいえ、すれ違う町民の顔色はやけに暗い。間違いなく何かある。何もない方がおかしい。

 不安を募らせながら、私たちは町長の屋敷に辿り着いたわ。

 現れた町長は、老人だった。


「ムー島から遥々、よくぞお戻りになられました。アリスお嬢様、いえ、アリス様。久しくお会いしていない間に、ずいぶんと大人になられましたね」


 銀髪の、老人だった。

 良い意味で予想外だ。私はこの方を知っている。お父様の古くからの同盟相手であった、かつてのワラー族の族長――ブレットおじさま。


「ボス! 大丈夫ですか!」

「あ、ぇ……。な、何でもないわよ。ちょっと、目に埃が入っただけで……そうよ、埃よ……」


 カリンの驚く声で、私は泣いていることに気が付いた。

 涙が出たのは、あの時以来ね。泣いて泣いて泣きつくして、遂には枯れ果てて。あの時から、どれだけ辛くても涙が溢れるなんてこと無かったのに。


「アリス様……」

「不安、だったの……。もし、知っている人が、本当に誰一人いなかったら、って……」


 止めたくても、止められない。同志たちの前なのに。みっともない。恥ずかしい。


「ボスも、人間らしいところあるじゃん」

「ちゃんと血は通ってたんですね」


 ジェファー……カリン……。


「血の気は多そうですけ――」

「うるせぇバカ、モブは黙ってろ」

「で、では、私達は外で待っていますので」


 え、何よ……どういうことよ、それ。


 とても恥ずかしいのに。ちょっとさっきのでムカついたのに。それでも、視界の滲みが晴れる気配は全く無くて。顔が上げられなくて。

 おじさまも、きっと困っている。


「ブレ……ット……おじさま……すみ……ません……止まら……ないんです……」


 そんな時、頭をポンッと撫でられた。とても優しい手。昔の、柔らかかった頃のお父様を思い出す。


「アリス様……とても、苦労なされたのですね……。さぞ、お辛かったでしょう」

「う、うぁ……ぁ……うああああああああん」


 とても久しぶりに、私は思いっきり泣いた。




――――――――――


「あなた達、絶ッ対に誰にも言っちゃだめよ。分かった」

「いや、ジョンくらいには――」

「絶ッッッ対、言うんじゃないわよ」

「お、おう……」


 私はジェファーを思いっきり睨みつけた。


 一体、どれくらい泣いてたんだろう。

 涙が止まった後、顔を上げ、おじさまを見た。以前に比べてだいぶ老けたように見える。でも、最後に会ってから7年も経っていないはず。

 妖精種は、不老の天使種程ではないけど、原種に比べれば老けるスピードは格段に遅い。大抵、成人からあまり変わらぬ姿で5、60歳で寿命を迎えるのだけれど。

 おじさまも、相当な苦労があったのね。


「3年程前に、戦争があったと知らせを受けました。お父様も亡くなったと」

「はい。リオポルド様はミシア国の突然の侵攻にも果敢に抵抗なされました。しかし、多勢に無勢、最後は撤退戦の殿を務め、戦死したと聞き及んでおります」

「城は、どうなったのですか」

「老人から子供まで、兵士のみならず使用人の最後の1人まで抵抗したと」

「……そう、ですか」


 私は知らされていなかったけれど、ミシア国は私が学院に入学するより半年も前から、ウェスーク国に隷属を要求していたらしいの。全く同じ時期、東部のエス・リーア国も同様に、エスーク国へと隷属を要求していた。

 6年前当時の通説だけれど、バルバリア島にいる赤髪系妖精種と銀髪系妖精種の人口比は3対1と言われているわ。普通に戦えば間違いなく負ける戦力差。けど、赤髪系で最大の人口を抱える北のノーズィリア国は、ロマーラ帝国の遺産「長城」を超えて北から襲撃を繰り返す野蛮な種族――「長耳種」に長年苦しんでいて、南に兵を送る余裕はない。

 そこで、銀髪系3国の豪族当主が話し合った結果、同盟を結べば赤髪系2国になら対抗できる、という結論に至ったらしい。けど――


「サスーク国が裏切ったのです」


 そう、赤髪系と隣り合う部族を持たないサスーク国の裏切り。ウェスーク、エスーク両国は、北の赤髪系に加えて、南のサスーク国という新たな敵が生まれてしまった。


「つまり……」


 この町の住民が、銀髪系が生きながらえた理由は――。


「そう、我々ワラー族、この町ワルハムは、今はサスーク国の勢力下なのです」

「お父様を……裏切ったんですか?」


 落ち着け、私。まだ決まったわけじゃないわ。

 私はカリンとジェファーに合図を送った。さっきの恩はある。けれど、返答次第では……即座にカリンに命じよう。

 おじさま、どうか――


「裏切りなど、そのようなことは絶対に致しません。精霊に誓って」

「……」

「アリス様、我々はリオポルド様の訃報と城の陥落の知らせを受けるその時まで、ウェスーク国へ忠誠を誓っておりました。しかし、その後は町民を守るため、判断するしかなかったのでございます」

「……」

「全責任は町長である私――ブレットにございます。どうか、町民だけは――」

「分かっています……おじさま!」


 ごめんなさい。おじさま。疑ってしまって。

 ジェファーには真偽判定の魔法を使ってもらった。彼が送ってきた合図は、「シロ」だった。


「おじさまを断罪するつもりは、私には……ありません」

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