第5話-卒業-
「東の野蛮な原種の民族」の侵略によって大陸の大森林を追われ、バルバリア島へと移り住んだ私の種族――「妖精種」なんだけれど、実は、同じ種族でも元居た地域によって文化や慣習なんかが大きく違っていたりするのよ。「混沌の時代」に、数多ある部族の間で衝突や同盟が繰り返され、次第に文化と髪色が近い部族同士が纏まっていくのは自然なことだった。それが、現在「7大国」と呼ばれているもの。赤髪系の「ノーズィリア」「ミシア」「エス・リーア」、緑髪系の「ゲント」、そして銀髪系の「エスーク」「サスーク」「ウェスーク」。これらの誕生で、混沌の時代は終わりを迎えた……かに思われたのだけど。
「それでは、作戦についての最終確認を始めるわ」
学院の寮内に秘密裏に作られた集会場、卒業間近といった時期に開かれた最後の作戦会議にて。そこで私は、これから同志たちを纏め上げる将となるべき者たちの顔を見渡す。
「ああ」
「うむ」
左右の端に座るカルロとジェファーは、テーブルに広げられたバルバリア島の地図を覗き込んで頷いた。
カルロは背に大剣を背負う大男。なんでも、ロマーラ帝国時代からの戦士なんだとか。
対照的に、ジェファーはスラリと細身でいて、どこか知的な印象を与える青年って感じ。彼は動物の角でできた杖をいつも携帯している。
「ではまず、前提からおさらいするのはどうでしょうか。数年前、ミシア国によるウェスーク国への侵略戦争が始まったのでしたよね」
真ん中左側に座るカリンが、テーブルに身を乗り出して木片でできたコマを動かす。彼女は、乗馬や勉学、魔法や剣術に至るまで、多くの項目で高い評価を得ている優等生よ。
「そう。私のおと……父はこの戦いで戦死したわ」
「ボス、辛い過去を思い出させてしまい、申し訳ありません」
「いいのよ。私に届いた便りには『抵抗し続ける』と記されていたけれど、あの国は父のおかげでなんとか回っていたから、今頃は滅んでいるか、良くても属国になっているしょうね」
「ぼ、ボス……」
私の発言に目を潤ませるのは、真ん中右側に座るこの中で最年少の少女――ルーナ。そう悲しそうな顔をしないで欲しいものだわ。
彼女には小動物的な愛らしさがあるけれど、でも、この中で一番攻撃能力の高い魔法使いは、紛れもなく彼女。とても、見た目からは想像できないけどね。
「だからこそ、今がまたとない機会なの。あなたたちには、この私――ウェスーク豪族唯一の跡取り娘という途轍もなく大きなカードがある」
そう。私は復讐計画に、今にも腐り落ちそうな私自身の立場を存分に利用するつもりでいる。
「では、これから具体的な作戦内容に入ろう」
私の隣で立ち上がった金髪の男。彼こそが、私が最も信頼している人――ジョンよ。魔法はあまり得意ではないけれど、とても頭が回る組織の参謀。そして、私のパートナーでもあるわ。
金髪というのは、ロマーラ帝国時代の貴族の象徴。だからこそ、この時代では微妙な立場に置かれている。そのおかげか、そのせいなのか、誰からも避けられてしまうこの私と知り合ってしまった、とても貴重で、不運な人。
「学院の卒業後、俺らは用意している船団に乗り込む。そして、まず最初に目指すべき上陸地点はここ、ウェスーク国の南岸にある港町ワルハムだ。初めはこの町を支配し、拠点を構築することを目標とする。各隊それぞれの配置は――」
ジョンは地図や表を指さしながら、他の4人とこれからの作戦を順に確認していく。皮の上に描かれた点と線と丸い印、数多の文字、そして躍動感ある矢印に沿って、指でそれらをなぞっていったわ。
「――と、これで、俺らの作戦の『第1段階』が完了となるわけだが。最後の確認だ。異論は」
最後に、ジョンは対面にいる4人に問いかけた。
「ねェ」
「ないさ」
「ありません」
「ない……です……」
四者四様の返事が返ってきたけど、皆、異論はなかった。作戦決行の日は、もう、すぐそこまで迫っている。
――――――――――
6年目、最後の夏が終わりを迎えた。私は、法学の卒業論文が認められたことで、無事に学院を卒業することができた。
卒業式の後、私の部屋に集合したのは私自身と例の5人――ジョン、カルロ、ジェファー、カリン、ルーナ。この時、私たちは決起集会を開いていた。
「アリー、ほんとのほんとに最終確認だ。やるんだな」
「ええ、勿論。当たり前でしょ! きっと、私たちはこのために学院に入学したの。そういう運命なのよ。皆もそう思うわよね?」
私の問いかけに全員が頷いた。きっと、この場にいない同志たちも頷いてくれるに違いないわ。
「じゃ、無事に卒業できたことを祝して。それと、『バルバリア魔法戦線』の、これからの戦いに向けて、乾杯!!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
私の音頭に合わせて、皆でビールを煽った。今日この時、私達は学生の身分から解き放たれた。お酒を飲み交わすことで大人になったことを実感し、喜び合った。
酔った勢いで私たちは寮を飛び出し、学院の広場に魔法通信で同志を全員呼び集めた。そして、集まってきた同志たち皆に酒を配り、共に酔っぱらって大騒ぎした。それが先生たちに見つかり、卒業したばかりだというのに初めて皆で怒られた。
「君たちは最悪の卒業生だよ」と学長に言わしめた私たちは、事件の翌日、用意していた船団に手筈通り乗り込んだ。
この島に戻ってくることは、もう無いんだろうな。
「あなた達、準備はいいかしら!」
数日後。船上にて、私は声を張り上げる。返ってきたのは同志たちの威勢のいい雄叫びよ。とっっっても、気持ちが良いわ。
目的地は既に眼前にある。それじゃ、皆の前で宣言しようじゃないの。
「初陣よ! 心してかかりなさい!!!!」
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