第4話-組織-
今日から1日2話更新にします。
「君、ずっと見ているけど、どうしたんだい」
「い、いえ……その、今、私、どこのサークルにも所属していないのですけれど、あの……今からでも、入れますか」
「君、馬は好きかい」
「もちろん」
「であれば、大歓迎さ」
学院生活2年目の春。私は迂闊にも恋をしてしまった。相手は同じ2年目の学生、乗馬サークルで知り合ったジョンって男。原種だったけど、他の人とは違って、私に特別な目を向けることはなかった。彼だけが、サークルでも浮いていた私に、普通に、乗馬を教えてくれた。
知り合って数ヶ月が経ってから、彼は家が元ロマーラ帝国貴族だったことを私に話してくれたわ。彼は綺麗な金髪をしている。金髪ってのは元貴族の地位にいた原種に多い特徴なんだって。きっと、私と一緒で、何かしら肩身の狭い思いをしていたんだわ。彼は私を放ってはおけなかったと、そう打ち明けてくれた。
彼と出会ってからというもの、私はサークルに通うことが日々の楽しみになっていったの。
「アリー、ごきげんよう。あら、今日は本当にご機嫌なのね」
「何よ。私がいつもが不機嫌だって言いたいわけ」
「違うの?」
「あなたねぇ! そういうところがッ――」
「はいはい。それで、今日はどうしてそんなにご機嫌だったのかしら」
「……まあ、そんなに聞きたいっていうなら話してあげるわよ」
ナリーは前ほど頻繁ではないけれど、それでも定期的に声をかけてくれる。その度に、私はサークルであった出来事を彼女に話すの。
「あなたは本当にジョン君のことが好きなのね」
「えぇそうよ! ナリーから見て彼はどう」
「うーん、そうねぇ……彼は成績も優秀だったし、それに、あなたに対して何の色眼鏡もなしに、素直に接してくれているのでしょう。賢くて、良い子だと私は思うわ」
彼女は私の惚気話を飽きもせず聞いてくれた。それはとても平穏で、幸せな時間だった。
そうね。あの時の私は、そんな学院での生活が、卒業までずっと続くのだと思っていた。
3年目の夏が近づいてきた頃、私に1通の手紙が届いたの。差出人は、かつて城で私の家庭教師をしてくれていた、とても尊敬していた、一番に仲の良かった人だったわ。
浮かれきって封を開けた私の目に飛び込んできたのは、
「嘘……そんな……」
――お父様が戦死したという内容だった。
「私……国に帰る……。うん、帰らないと……」
「早まるなアリス! 手紙にも帰ってくるなと書いてあったのだろう。当たり前だ。今帰っても君は死ぬだけだ」
「ジョン、でもッ!」
「まずは落ち着くんだ。自暴自棄になったらダメだ」
あまりに突然だった。そもそも、戦争が起こっていたことも知らなかった。
きっと、お父様はもしかしたら、いつかこの様な未来が訪れることを予見していたのかもしれない。だから、在籍中は身の安全が保障される学院に私を入れたのよ。お父様の敵も、主教領であるムー島まではわざわざ追ってはこないって。
「で、でも……あまりに、あまりにも……1人になるには、早すぎるわよ。お父様ッ……。お父様ぁ……あ……あぁああああ」
お父様は、私にたった1人しかいない家族だった。それなのに、お父様は逝ってしまった。更に追い打ちをかけるように、以来、城からの連絡はパッタリと来なくなり、他の皆の安否も分からなくなった。私は、1人ぼっちになってしまった。
知らせが届いてから、私は3日3晩泣き続けたわ。自室に引きこもるようになった私だけれど、ナリーとジョンのお陰で、なんとか以前のように講義に出れるまでには回復した。それには4ヶ月もの時間が掛かってしまったけれど、留年も免れることができたわ。
でも、心の傷は決して癒えてなんていなかった。
それからというもの、私は仇への復讐ばかりを考えるようになったわ。今思うと、かつてお母様を失った時のお父様も似たような気持ちだったのかもしれない。「血の通わない羽を持つ男」と呼ばれる様になってしまった時のお父様も。
私は、頭がそんなに良いわけじゃない。でも、必死になって、丸1年かけて、私は復讐計画を練り上げたわ。そして、学院生活4年目の秋、それは密かに実行されることになった。
『君たちは、故郷バルバリア島の奪還に興味は無いかい?』
その計画というのは、ジョンや乗馬サークルの人脈を最大限活用するもの。ジョンにだけは騙すような真似はしたくなくて、計画の全てを共有したわ。反対されるかもって思ったけど、不思議と反対されなかった。むしろ、賢い彼が積極的に協力してくれたことで、ことは上手く運んでいった。
私は、魔法に興味を持つ学生を集めたとある組織を作った。魔法使いとは即ち原種の人間。多かれ少なかれ抱えている妖精種への復讐心を煽ることで、組織は団結を強めた。
「なあ、例の『バルバリア魔法戦線』のボスは妖精種の女らしいぞ。それって大丈夫なのか」
「大丈夫だ。なぜなら、あいつは参謀のジョンという奴にぞっこんらしいからな」
「そうだ。結局は傀儡さ」
隠していてもいつかはバレるものだから、この際、私自身が妖精種であることは隠さなかった。私が彼にお願いして、「ジョンのもの」であることを演出したら、案外何とかなったわ。妖精種が原種に支配される構図は彼らのお気に召したみたい。
その上で、1度でも裏切りを企てた者には徹底的な罰を与えた。それこそ学院に、この島にいられなくなる様な屈辱を与えてやった。
こうして私は、学院最後の年である6年目が始まる頃には、同じ年の魔法を学んでいた学生の大半を従えることになったの。
「ごきげんよう、アリー。ジョンとの関係は順調かしら」
「ナリー……」
私が行っている活動を、彼女はきっと知っている。彼女だけじゃない。先生たちは皆、おそらく、いや間違いなく私たちの動きを知っていたと思うわ。でも、彼彼女らは私たちに介入することは無かった。
興味が無かったのかもしれないし、学院の運営に悪影響を及ぼさないと判断したのかもしれない。それとも、何か他に考えがあったのかもしれないわね。ただ、どうせ私には天使種である先生たちの思うところなんて分からないのだから、考えるだけ無駄ね。
「ふふ、野暮な質問だったわね」
「当たり前じゃない!」
「そんなあなたに、もう1つお節介を焼いてあげるわ」
「しつこいわよ。……何?」
「何があっても、絶対に、彼の心を離しちゃあダメだからね。危ない橋を渡るのだから、それくらいの覚悟、あるわよね」
「……もちろんよ!」
彼女はいつも通りの微笑みを浮かべたまま、この日も最後まで崩してはくれなかった。




