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アグロンド王国物語  作者: ガーレ
第1章-アリス編-

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第3話-友達-

 緑生い茂る夏。私は生地の薄い夏服を身に纏い、いつも通り裏庭で午後の時間を過ごしていた。


「ごきげんよう、アリス嬢」


 そこにいつも通り現れたのは、意地悪な天使種のナルメア先生。


「ねぇ、今日の私の講義を受けて、あなたはどう思ったかしら」

「どうしてそんなことを聞くのですか」

「あら、学生に講義の感想を聞くことはいけないこと?」


 彼女は今日、絶対聞いてくると思っていたわ。だって、私に投げかけたその質問はとても意地悪なものだから。

 彼女の専攻は「歴史学」。私が彼女から受けている講義は、1年目の必修履修科目である「歴史学入門」。学院で学ぶ歴史というのは、先史時代という前置きはあれど、その殆どがロマーラ帝国の勃興から滅亡に至るまでの足跡のこと。その中でも今月のトピックはダウニウム属州、つまりは私達のいるバルバリア島についてのものだった。


「なんだか、凄く……居心地は悪かったです」


 これが私の素直な感想よ。だって、ロマーラ帝国の他の領土は別にしても、ダウニウム属州が滅んだ直接の原因として、私達妖精種の流入があるんだもの。

 講義中のナルメア先生は淡々としていて、妖精種を悪とはしていなかったけど、同じ講義を受けていた原種の学生たちに向けられる視線からは、明確な悪意、敵意をひしひしと感じたわ。


「そうよね……うん。私も講義中、種族同士の分断は強く感じたわ」


 彼女は微笑みを絶やすことは無いけれど、なんだか、少し悲しそうに、視線を落とした。


「あなたは前に、私に話してくれたわよね。『原種はお母様を殺した敵』だって。でも、この島に住んでいる原種の人々は、逆に妖精種に故郷を奪われている」

「私にそんな話をして何になるんですか」


 私は平静を装おうとした。でも、きっとできてない。声は震えてたかも。でも、今は前みたいに感情的にはなりたくなかった。


「これから話すのは、私個人の意見よ。それを前提に聞いてちょうだい」


 そんな私をよそに、彼女は淡々と話し続けた。


「『魔法』という技術は、既にバルバリア島周辺の原種にも広がりつつある。今この瞬間は、バルバリア島での優位は妖精種にあるけれど、いずれすぐに原種の方へ傾くと私は考えてる。だからこそ、次代の妖精種の権力者になりうるあなたは、今からでも原種の他の学生達に歩み寄る必要があると思うの」


 「東の野蛮な原種の民族」がアトゥス教の教えから着想を得て生み出したとされる「魔法」は、生活を豊かにすると同時に、今までに無かった強大すぎる武力にもなる危険な技術だった。それは瞬く間にロマーラ帝国や、私達妖精種の昔の住処――「大森林」の諸部族を破壊した。一方で、強力な技術というのは広まるのも早い。辺境の果てであるこのバルバリア島周辺であっても、魔法の書が出回り始めているという噂は私も聞いている。

 力の天秤がそう遠くないうちにこの地でも原種の方へと傾く、かもしれない。と、それは私にだって理解できるわよ。でも――


「だから、だからって……。私が、この私が、原種の学生たちに頭を下げて回れと……そう言いたいの!?」


 いつも通り、私の拳は空振った。どうせ当たらないから力は込めてない。

 そんなこと、例え死んだって嫌。

 恥ずかしいけど、この時、私は既に悔しさから溢れそうになる涙を堪えるのに必死だった。彼女は淡々と言葉を続けた。


「そうじゃないわ。あなたには仲間が必要だと言っているの」

「仲間……」

「そう、仲間。きっといつか、あなたは誰かと対峙することを強いられる。そんな時、あなたを支持してくれる、信頼してくれる、そんな仲間。あなたと共に戦ってくれる仲間。それは、強力な魔法を扱える原種の人間が望ましい、と。そうは思わないかしら」


 原種の人を仲間にする――そんなこと、私は1度たりともも考えたことがなかった。

 私は涙を拭った。


「そんな友達、できますかね」

「きっとできるわ。なぜなら、たとえ種族が違ったとしても、結局は皆それぞれ1人の人間だもの。価値観を共有して、歩調を合わせることは可能なはずよ」

「理想主義的、ですね……」

「ええ。一応、聖職者だもの。それに……」

「?」

「いいえ、何でもないわ」


 彼女は、その後は何も言わず、私の頭を撫でてくれた。私にはやっぱり、彼女の考えは理解できない。だけど、彼女の手の感触は心地よかった。




――――――――――


 夏も終わりを迎える頃。私は1年目の最終試験に無事合格、2年目に進級できることが確定した。


「アリス嬢、今日もお1人なのね」

「ナルメア先生」


 また私に絡みに来た彼女に、今日は1つ報告があったの。


「実は私、乗馬サークルに入ることにしました」

「あら」


 彼女は少し驚いた様子だった。こんな表情を見るのは初めて。でも、すぐにいつもの何を考えているのか分からない微笑みに戻ってしまった。面白くない。


「どうして乗馬なのかしら。妖精種は飛んで移動できるでしょうに」

「そう長い距離飛べないのは先生もご存じでしょう。それに、このご時世、馬に乗れた方が都合が良いと思いまして。あと……」


 私は少しもったいぶった後、1番の理由を告げることにした。


「今更、女子社会に入れるとも思えないので、男友達を作る方が手っ取り早いかなと思ったのです」


 それを聞いた彼女は噴き出した。そして、大笑いされた。そんなに笑えたのねあなた。というか、笑い過ぎよ。


「あははははは、良いと思うわ。であれば、私がアリス嬢の唯一の女友達になるのね」


 女友達……教師と学生は友達なりえるの。


「立場が違うのに友達とは、と言いたげね」


 人の心を勝手に読まないでよ。というか、私の顔そんなに分かりやすいかしら。


「2年目からは歴史学の講義は取らないのでしょう。なら、もう先生でもないしね。気軽に『ナリー』と呼んでくれてもいいのよ」

「いきなりそれはハードルが高いです」

「あら、何か不満かしら」

「い、いえ」

「あと、これからは丁寧な言葉遣いも無しね」

「嫌です」

「分かったかしら」

「……分かったわ」


 こうして、ナルメア先生改めナリーは、半ば強引に、私の学院初の女友達になってしまった。やっぱり、なんか面白くない。

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