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アグロンド王国物語-妖精国家の英雄譚-  作者: ガーレ
第1章-アリス編-

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第16話-演算-

「カリン、また彼女を貸してくれ。僕の美しい建築に彼女は不可欠なんだ」

「嫌です。あの子、隊に帰ってくるたびに私に泣きついてくるんですよ。分かってるんですか?」


 遂に先日完成した「バルバリア魔法戦線」本部建屋の最高会議室。そこで、2人の将が言い争っていた。

 彼らの争点は、「騎士団」などと呼ばれて他の隊から一目置かれるカリン隊の中で、唯一剣を振るえない特異な存在について。


「懲りないわねぇ……こいつも」


 ジェファーのあの子への情熱は並々ならぬものがある。けど、理解できない訳じゃない。あの子はそれだけ特別なんだもの。

 あの子の名前はアラーナ。組織でたった2人しかいない射手座系魔法の使い手の1人にして、「倉庫番」の異名を持つ少女よ。




――――――――――


「ジョン、隊内で話し合ったところ、結論が出ました。ルーナ隊との共同任務、お引き受けします」


 それは、祝勝会の後の事だった。偵察任務、警備任務は、カリン隊員とルーナ隊員でバディを組むことに改められた。


「調整は、やっぱりこの子が?」

「はい、そのつもりです」


 私の目の前に連れてこられてガチガチに緊張しているアラーナ。この子は、見惚れるような美しい金髪と華奢な体の持ち主よ。

 金髪、ということからも分かる通り、元帝国貴族の家の出身ね。だからなのか、この子に発現したのは使用者が極めて少ない射手座系魔法だった。更に特殊なことに、この子は他の火エレメント魔法どころか、射手座系魔法の中でも演算魔法しか使用することができない。

 だけど、代わり、と言うのも変だけど、この子は家に代々伝わる占星術の使い手らしいわ。占星術もルーナに言わせれば魔法の一種なんだとか。でも、それはどの星座にも当てはまらない本当に特殊な魔法。なぜなら、占星術自体がアトゥス教の禁忌だから。そのため、この子の家は元帝国貴族でありながらアトゥス教の信徒ではなかったという。

 本当に、何もかもが特殊と言っていい存在ね。


「実は、この子から直接、ジョンにお願いしたいことがございまして」

「なんだ、言ってみろ」

「あの……ジョン閣下、その……」

「緊張する必要はない。閣下もいらない」


 アラーナはカリンに目配せをした。彼女が頷くのを確認すると、アラーナはジョンに、少し言いづらそうに「お願い」した。


「は、はい。ジョン様から、ジェファー様に、さりげなーく、私の仕事を減らすよう、お願いして欲しいのです」

「なるほど、だからあいつに席を外せと言ったのか」


 話を聞いてみると、最初はジェファーが設計任務に行き詰った際に、この子の住処――「備品共同倉庫」を訪れたのだという。この子はその場で問題を見事解決してみせたどころか、彼の設計の欠陥まで指摘して見せた。その時、彼からはそれはもう大層感謝されたという。

 その日を境に、ジェファーは度々この子の元を訪れるようになる。当初はこの子も任務の間、趣味程度に彼の相談に付き合っていた。しかし、彼の現れる頻度は頻度は日に日に増えていき、次第には課題まで出されるように。


「なんかあなた、都合の良い計算装置として利用されてない?」

「ボス!? そ、そそそっそ、そんなこと無い、はずです……」


 いや、絶対そう思われてるわよ。

 その課題というのも、どんどん量は多く、内容は難解なものになっていったのだという。


「演算魔法は、その、思考に使う道具のようなものなんです。確かに単純計算などは一瞬でできますけど、その、数学問題の答えがすぐに出る、という便利なものでもなくて……」


 その結果、この子は潰れてしまったのだ。昨夜も課題の内容がずっと頭をぐるぐると回り続けて、あまり寝られなかったのだという。


「ジェファーのやつ……。だが、あいつに直接言えばいいじゃないか」


 ジョンから彼の名前が出た瞬間、長い金色の前髪に隠れた色白な頬がぽっと赤くなった。


「えっと、その、言いづらくて……えへへ」


 これはこれは。ふむふむ。はっはーん。


「あなた、彼に惚れてるのね!」

「はぅ」


 場が静まり返った。カリンはなんか私を見てドン引きしてるし、ジョンは頭を抱えている。

 カルロは笑いを堪えていたが、ついに噴き出し、大笑いし始めた。


「はっはっは! あの色男め、自分に惚れた女を扱き使ってたなんてなァ!」

「ほ、惚れ、だなんて、そそそそそそそ、そんなこと……ない、と、思いますぅう……」


 アラーナは床に倒れ込み気絶してしまった。心なしか魂が抜け、ただでさえ色素の薄い体が透明に……。


「ボス……言っちゃいましたね」


 カリンからこんな目で見られるのは初めて。怖い! 悪かったからその目をやめて!


「別に、俺は色恋にどうこう言うつもりはない。だが、『倉庫番』に倒れられると色々と厄介だな……。組織がこの子のお陰で回っているのは間違いない」

「カリン、その……ひっ――」


 こっちを見る目が怖い。


「カリンから、ジェファーには……」

「はぁ……。もちろん、言ってますよ。うちの隊の子に過度な負担をかけないで下さいと。でも、私が言っても『過度な負担などかけていない。課題は出したが無理強いはしていない』の一点張りでして」


 なるほど。アラーナは自身でも気づいていなかった恋心のせいで、頑張りすぎてしまっていたのね。そして、それがジェファーの方向違いの情熱と噛み合ってしまった、と。

 アラーナもルーナと同じく、学院時代は神童と呼ばれていた。この子は組織の中でもルーナに次いで2番目に若い。きっと、彼女にとってはこれが初恋なのね。


「それで、どうすんだジョン。俺もこの手のことについては疎いぞ」

「そうなのかカルロ、何か経験とかは無いのか?」

「生憎、俺の恋人は筋肉だなァ! はっはっは」


 だめそー……この筋肉ダルマめ。


「きゅうぅぅぅ……」




――――――――――


 アラーナがカリンに膝枕されながら気絶している間に、なんとか方向性は纏まったわ。

 とりあえず、この子の恋路については静観。手出し無し。だけど、今までみたいに頑張りすぎて体調を崩してもいけないわよね。というわけで、ボスである私からの直々の命令として、課題を出すことをジェファーに禁じることにした。間違いなく、これがこの子の負担増の1番の原因だからよ。


 私がこの事を彼に伝えに行くと、凄く駄々をこねられた。


「そんなぁ、僕の最高傑作には彼女が必要なんだ」

「駄目よ」

「ボスも分かるだろう! この本部建屋の美しさを、機能性を。これは彼女の功績だ」

「駄目……」

「僕には『バルバリア魔法戦線』の顔となる砦を最高の状態に仕上げる責務が――」

「駄目ったらダ、メ!」


 ああ、もうっ。酷すぎる。こいつにはあの子の心なんてこれっぽっちも眼中にない。でもまあ――


「休日に会いに行くくらいなら、良いんじゃないかしら」

「ありがとうボス!」


 本来なら接触も制限したいくらいだけど、それではあの子も可哀想だし。週に1回くらいなら問題はないでしょ……。




――――――――――


「ボス、何とかして下さい。ジェファーったらまたあの子を連れ出そうとして」

「泣いて帰ったとはなんだ、噓を言うな。あの日だって僕は彼女と熱く語り合ったんだぞ」


――あぁ、私は甘かったのかもしれない。

 アラーナが扱う演算魔法は世界最強クラスです。脳内にコンピューターを飼っています。

 因みに、実はカリンも演算魔法を扱えますが、5ケタクラスの四則演算でオーバーヒートし頭から火を噴きます。

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