第15話-投票-
事の顛末を全て聞き終えたジョンは、ルーナに何も言わなかった。
「すまん。少し考えさせてくれ」
ジョンは先に自室へと帰っていった。
「ルーナ、頑張ったわね!」
「あなたは、立派に勝利をあげました。後悔などしてはいけません」
私とカリンは、ルーナが泣き止むまで、ずっと彼女を抱きしめ続けた。
「初勝利なんだ、祝勝会を上げねェとな」
「そうだな、ルーナ、おめでとう」
カルロとジェファーはそう言っていたけど、彼らも、何か思うところはあるようね。
――――――――――
翌日、降り続く雨は雪へと変わった。初雪よ。
その日の朝、「バルバリア魔法戦線」全ての同志に集合がかかったわ。訓練場に全員が揃ったことを確認すると、ジョンが舞台の上へと上がる。今日は、あえて私ではなく、ジョンが登壇することになったの。
「えー、皆の者。噂に聞いている者もいるだろうが、俺から正式に発表させてくれ。我らのルーナ隊が、サスーク国の懲罰部隊を壊滅させることに成功した」
「「「うおおおおおおおおおおお」」」
「静まれ! 本日は祝勝会ではない。本題に入ろう、本日、君らに集まってもらったのは、4将が1人、ルーナを罷免投票にかけるためである」
会場がどよめき立つ。まさか、そんなことになるとは思っていなかっただろう。
「先の戦闘において、我らの同志1名が戦死した。しかし、それはルーナの判断ミスが原因であり、避けられた犠牲だった」
どよめきが引いていく。静寂に包まれた後、すすり泣く音がチラホラ聞こえた。生前の彼の友人だったのかしら。
「皆には賛成か反対のみを記入し、投票してもらう。票数の公開はしない。投票結果は可否のみ発表する」
投票まで、詳しい経緯の説明なんかは一切されなかった。
投票は粛々と実施され、開票作業は将3人が各々の隊を、ルーナ隊は私が担当した。
4人からそれぞれ結果を聞き終えたジョンは、神妙な面持ちで皆に向き直った。
「只今、結果が出た。ルーナの処遇について発表する」
彼は1拍置いた後、こう宣言した。
「『否決』だ。ルーナには続投してもらう」
「「「ルーナ様!」」」
この結果に真っ先に喜んだのは、ルーナ隊の隊員たちよ。彼らから出た賛成票は1票もなかったわ。
私が彼らの立場であれば、もしかしたら賛成票を投じていたかもしれない。この結果は、ルーナに対する絶大な忠誠の現れなのか、それとも彼ら自身がそれぞれこの1件に負い目を感じているのか、私には分からないけれど、間違いなく言えることは、彼らはルーナの続投を望んだ。
どこからか拍手が巻き起こり、訓練場は盛大な拍手に包まれた。
拍手が止み、場が落ち着いてきたころ、ジョンは再び口を開く。
「この組織を結成した頃。各隊のリーダーを決めるにあたり、重視したのは魔法の才能だけだった。もし、投票が可決されれば、ルーナ隊の中から新たに、より将に相応しい者を選抜することになっただろう。しかし、君らはそれを否定し、彼女の続投を選んだ。ルーナも他の将3人も、皆、君たちと同じ1人の人間だ。間違うことだってあるだろう。だからこそ俺は、命令権のない俺は、ここにいる君たち全員に、お願いをしたいと思う。君たちは所属する隊にとっての最善を常に模索し、思考し、発言し、連携し、そして、1人1人全員が、実行して欲しい。カリン、カルロ、ジェファー、そしてルーナを……いや、4人だけじゃない。間接的にはなるかもしれないが、俺と、我らがボス――アリスを、「バルバリア魔法戦線」に入ってくれた同志諸君ら全員を、これからもよろしく頼む」
頭を下げるジョンに、私も居ても立っても居られなくなった。
「私は、いつもジョンと、この4人に支えてもらってる。私1人じゃできなかったことを、彼らのお陰で今日までやってこれているのよ。彼らだって、きっとそう。あなた達がいるから、きっと強くあれるんだと私は信じてる。これからも4将を、重圧と戦い続ける彼らを、どうか支えてあげて。私の言葉はジョンとは違う。これはボスである私から、同志全員に対しての命令よ」
この時、ルーナは隊員たちに揉みくちゃにされて泣きじゃくっていた。そんな彼女に対して隊員たちは、壇上に向かって背中を後押しした。
ルーナは壇上に立ち、泣くのをやめ、深呼吸をした。そして、やっと前を向いた。
「えっと、この度は、私の至らなさ、不徳の、致すところ、えーっと――」
「難しい言葉なんて使わなくていいのよ。本心から喋りなさい」
「うん。……皆、今回は、本当に、ごめんなさい。私の隊は、私のせいで、同志を1人、失いました。彼は、とっても明るくて、優しかったから、他の隊にも、きっと友達だって、いたと、思います。私が辞めるのに、賛成だった人だって、いたと、思います。もう1度、謝ります。ごめんなさい。私は、難しいことを考えるのが苦手で、隊長なんて、本当は、ちっとも向いてなくて。でも、それでも、精一杯頑張るから。皆と一緒に頑張るから! だから、隊の皆、アリスねぇね、ジョン、ここにいる全ての同志の皆! これからも、よろしくお願いします!」
訓練場は歓声に包まれた。
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あれだけ降っていた雪は止み、翌日にはさっぱり融け切っていた。気持ちのいい快晴ね。初勝利を祝う祝勝会に相応しい天気だわ。本日の主役であるはずのルーナ隊だけど、参加したのは僅か2割ほど。なぜなら、彼らは今日も、いつもと変わらず警戒任務についているからよ。他の隊に変わってもらうこともできたけど、ルーナがそれを拒否した。
「これが、私たちの、仕事、だから」
ジョンも私も、彼女の意志を尊重した。でも──
「ルーナ、あなたには絶対出てもらうんだからね!」
「当ったり前ェだ! お前ェが居なきゃ話になんねェ」
「うん、分かりました、です」
私達の熱烈な勧誘に、彼女ははにかみながら頷いた。可愛いわねほんと。
「であれば、本日の警戒任務の一部を、私の隊に引き受けさせてはくれませんか」
そんな時にカリンから出た何気ない1言。これを聞いたジョンは固まってしまった。きっと、何かを思いついたのね。
「そうか、俺は『隊』という単位に固執し過ぎていて、この組織を柔軟に動かせていないのかもしれない」
この時のアイデアは後日、ルーナとカリンに提案されることになったわ。
「これから、警戒任務はルーナ隊、カリン隊共同で行ってもらいたいのだが」
今回の1件でルーナ隊の弱みが浮き彫りになった。それを、カリン隊が補うことはできないか、という提案ね。
「ルーナ隊にはこれまで拠点周辺の情報収集を、カリン隊には拠点本陣の防衛と雑務を主に担ってもらっていた。確かに分業した方が効率はいいかもしれない。だが、これでは弱点も大きいことが今回の1件――『光の柱事件』で浮き彫りになった。そこでだ、これまで両隊で行っていた任務の多くを共同で行えたら理想なんだが、可能か?」
「1度隊に持ち帰って検討してみます。よろしいでしょうか」
「もちろん。じっくり考えてくれ」
「わ、私も、皆と、相談してみます、です」
隊、ということは、カリンはきっと「例の子」に相談するつもりなのね。
基本的に前衛を担当するカリン隊において、実は特異点ともいうべき人物が1人いるのよ。




