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アグロンド王国物語-妖精国家の英雄譚-  作者: ガーレ
第1章-アリス編-

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第13話-ミス-

 雪もそろそろ混じるのでは、と思うほど冷たい雨の降る日の夜。


「アリスねぇね、ジョン」


 ルーナがずぶ濡れで帰ってきた。


「どうしたのよルーナ。あなた、ビショビショじゃない」

「来たよ、サスーク、国軍の、懲罰、部隊」

「「え?」」


 急に空気が張り詰めた。ジョンはルーナの右肩を掴み、詰め寄った。


「何人だ、敵の数は。武器はなんだ、剣か、弓か、それとも他に何かあったか」

「ジョン、聞いて」

「強さはどうだ、手練れそうだったか」

「ジョン、痛い」

「方角はどこだ、距離はここからどのくらいだ」

「ジョン、ごめん……」

「ジョン! しっかりしなさいよ!」


 つい、私は叫んでしまった。彼はルーナから手を離した。ルーナは涙目で膝から床に崩れ落ち、手をついてしまう。


「すまん……悪かった」

「もし、今もこの拠点に差し迫った脅威があるのなら、ルーナはこんな調子にはならないはずよ。ゆっくり話を聞きましょ。ね?」

「あ、ああ」


 床に手を付きガタガタと震えたままのルーナを、私は着替えさせた。椅子に座らせ、温かいお湯を飲ませてあげると彼女の震えは少しずつ落ち着き、ぽつり、ぽつり、1単語ずつ、ゆっくりと何が起こったのかを喋り始めた。彼女の喋り方は、いつも以上にたどたどしく、そして、暗かった。




――――――――――


 ルーナの索敵能力は、隊の中でも群を抜いている。雨の日なんかは特にね。なんでかって、彼女は水滴の流れを「読む」ことができるから。例えば、鳥なんかが雨の中を飛んでいれば、夜の暗闇の中でも彼女はすぐに探知できてしまう。それに加えて魔力なんてものまで「視えて」しまったなら、それは間違いなく彼女にとっての敵だった。


「敵、見つけた、かも。場所、町から東北東、42kmくらい」

『『『了解』』』


 彼女はすぐに情報をルーナ隊全員に連絡魔法で共有したわ。でも、その共有の仕方に、この時点で致命的な欠点があったの。それは、「敵を発見した」という情報を拠点に知らせて欲しいのか、その場で待機なのか、迎撃のため集まって欲しいのか、という隊員に対しての指示が行われていなかった、ということ。彼女はこの時、探知したモノの正体が何なのか、そのことに完全に気を取られてしまっていたの。


 結果、多くの隊員はその場で待機し、彼女の指示を待った。しかし、一部の隊員は彼女を追うように移動することを自己判断で選択してしまう。


「沢山、お空、飛んでる……。100人? もっと? 数え、られない……」


 俊敏魔法を使うことができるルーナは、すぐに探知したモノ近辺にまで辿り着いたわ。そこには、既に辿り着いていた男が1人。偶然1番近い距離で警戒任務に当たっていたフィルという青年だった。


「ルーナ様、いらっしゃいましたか」


 この時すぐ、彼に逃げるよう言っていれば違った未来があったのかもしれない。でも、ルーナは敵集団の観察に夢中で、見つかった時の危険を考えていなかった。いや、見つかっても勝てるという驕りがあったの。そして、それ以上に、生まれながらにして強大な力を持つ「妖魔種」である彼女は、この時、原種の脆さを甘く見ていた。


「フィル、あれ、見える?」

「そーですねぇ、結構多いですね」


 当初、彼女らは草むらに潜伏していたけど、今2人がいるのは平原のど真ん中。それに、相手は空から地上を警戒しながら進軍する百人以上もいる兵士よ。

 ここで、彼女は3つ目のミスを犯してしまう。追跡を開始するために俊敏魔法を再び発動してしまったの。魔法を発動する際に現れる陣からは、どのようにしたって光が漏れ出てしまう。それが、彼女らが見つかってしまった直接の原因だったわ。

 ルーナは魔法を使用しなければただの子供で、体格は同年代と比較したって恵まれていない。俊敏魔法を使わなければ、空を馬ほどの速度で飛ぶ敵集団を追跡できなかったでしょうね。ならば、本人がしなければいいわ。常時発動中の通信魔法を駆使して、他の隊員たちを使って追跡したって良かった。けど、それは後になった今だから言えること。


「こっち、向かって、きてる……ッ!」

「クソッ! これはやばい……逃げますよ! ルーナ様」

「う、うん」


 ここで、最後のミス。もしも、ルーナが当初考えていたように2人とも逃げず、この時に敵を迎撃していれば、もしかしたら、無傷とはいかないまでも犠牲無しに勝てていたかも分からない。しかし彼女は、フィルにつられて焦ってしまった。逃げることを選んでしまった。


「ルーナ様、他の隊にも応援を呼びましょう」


 馬に飛び乗った際のフィルの一言で、ルーナは自らの失敗に1つ、気が付いてしまった。もしかしたら、拠点に情報が行っていないかもしれない、と。


「だ、誰か、拠点に、向かった人は……」

『……』

「もしかして、誰も――」

『おそらく、拠点に最も近いのは私――10番です。1刻程かかるでしょうが、お任せください』

「アリスねぇねと、ジョンに、伝えて来て、お願い!」


 彼女は自らのミスに気が付いたことで更に焦り、冷静に思考することがもはや、この時点でできなくなっていた。


「どうしよう、どうしよう、どうしよう」

『ルーナ様、どうなさったのですか』

『10番、任せたぞ』

『近くにいるやつは状況報告を!』

「こちら7番、ルーナ様と共に敵に見つかりました――」


 ここに来て、ようやく通信は騒がしくなり始めたわ。皆ルーナの事を信頼……いや、日頃の訓練で圧倒的強者である彼女を間近で見てきた彼らは、盲信してしまっていたの。だからこそ、彼女の指示を待ってしまった。「きっと、ルーナには何が考えがある」、そう皆が勘違いをしてしまっていた。




――――――――――


「――ごめんなさい、ひっく、ごめんなさい、ごめんなさい」

「ルーナ、私たちは怒らないから、続き話せる?」

「ごめんなさい、ごめんなさい」


 私はジョンと顔を見合わせる。話していくうちに挟まる謝罪の数が増えていき、とうとう、彼女は喋れなくなってしまった。カリン、カルロ、ジェファーも騒ぎを聞きつけ集まってきた。この様子じゃあ続きは聞けそうにないし、明日にでも、と思っていた時。


「ルーナ様の俊敏魔法は凄いですね……。ルーナ隊10番――ゾーイ、只今、拠点に戻りました」


――ルーナ隊の隊員が1人、いち早く拠点へと帰還した。


「続きは、この私が」


 私とジョンは頷いた。

 補足情報です。通信魔法は複数人で接続できますが、ホストとクライアントのような関係があり、接続人数が増えていくほどホスト側の消費魔力は指数関数的に増加します。ルーナ隊では任務中のほぼ全員が常にルーナを介して接続していますが、それは彼女の並外れた魔力が可能にしています。いつでも伝えようと思えば伝えられてしまう環境、それも、彼女が伝達ミスを引き起こしてしまった要因なのかもしれません。

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