第10話-余興-
定期的にルーナと巡回しているからか、メンタル絶好調のアリスよ。
最近顔を合わせていなかったけれど、ジョンは拠点作りに夢中らしいわ。魔法が不得意なりに、カルロ、ジェファーにしごかれながら頑張ってるんだって。
あ、彼、船に戻ってきたわ。
「ねぇ、ジョン!」
「すまん、アリス。後にしてくれ」
……
「ねえええええええええルーナあああああああああ」
「ねぇね、泣かないで、です!」
――――――――――
ルーナとボードゲームで遊んで、メンタル絶好調のアリスよ。
この前は避けられたけど、ジェファーと毎日これからについての作戦を練っているらしいし、きっと、とても疲れているのね。私が、癒してあげられたらな、なんて。
ハッ、私ももう、大人の女だもの! 異種での、その、行為は禁忌だから、それは破らないけど、一緒に添い寝くらいなら……。
「ジョン、ねぇ、最近疲れてるんだって聞いたわよ。あ、あの、良かったら――」
「すまん。そこをどいてくれ、アリス」
……
「ルーナああああああああああ」
「ねぇね、落ち込まないで、です!」
――――――――――
ルーナと一緒にカリンにお料理を習って、メンタル絶好調のアリスよ。
ジョンは来たる実戦に備えた訓練のために開かれる「魔法模擬戦大会」の準備に追われているらしいわ。
でも根の詰め過ぎは良くないわよね。ってことで、休日デートに誘っちゃうわよ! 学院にいた頃ぶりね。よーし楽し――
「すまん、休みは寝たいんだ」
……
「ねぇね……」
「もういいわよ」
――――――――――
紅葉も終わりを迎える季節ね。魔法模擬戦大会の本番の日がやってきたわよ。
このイベントのために、訓練場を中心とした区画の建設は急ピッチで進められた。主にカルロ隊の活躍のお陰で、無事に本番までに完成にこぎ着けたってわけ。
私は学院で慣れたけれど、バルバリア島にいる妖精種の人々は、まだ魔法に植え付けられたトラウマを克服できていない者も多い。だからこそ、魔法に慣れてもらうためにも、魔法使いに対するイメージアップのためにも、観客としてワルハムの町の住民を招待しようということになったわ。つまり、この大会は祭も兼ねているの!
『あー、テストテスト』
「おお、すげぇや。観客席の端っこでも聞こえるぞ」
カリンには、音声通信魔法の入力側魔法陣を任意の場所で展開できるよう訓練してもらった。それをルーナの莫大な魔力で出力すれば……そう、舞台上で私が声を張らなくても、観客全員に声が届く。
今日の私の役目、それは、「バルバリア魔法戦線」のボスとして、今大会の開会式の宣言をすることよ! それと、実はとある人へのサプライズも用意してたり、ね。
「観客、来ますかね……」
「どうだかな、『東の野蛮な原種の民族』と色々あったと聞いてるし。まあ、最悪来なくてもしょうがないだろ」
「はっはー、今日は祭りなんだ。カリン、ジェファー、心配しねェでも、俺らが楽しけりゃそれでいいんだよ」
開場時間が近づいてきたころ、場外から足音がちらほらと聞こえ始めた。その音は、雑踏となり、段々と大きくなっていく。
「み、皆ー! 大変なの、です。思ってたより、たくさん、たーくさん、ですよ!!」
開場の合図と共に、外から響いてくるだけの雑踏は、瞬く間に活況に変わった。
「ルーナちゃんが来て、って言ってくれたから」
「実は、町から見える大きな建物、気になってたんだよなぁ」
「私、この町生まれだから、魔法怖くないの。本物、見てみたいと思ってたんだ」
「税の取り立てから救ってくれるんだろ。原種にもいい人がいることくらい分かってるさ」
客足は想定していたよりもはるかに多かった。入場スタッフは手際のいいカリン隊を配置していたけど、それだけでは人手が足りず、急遽手の空いた裏方担当のジェファー隊の一部隊員も投入する事態になった。町の警備には珍しくカルロ隊が就いている。なぜなら、観客の安全に全力を尽くすため、観客席の透明結界維持にルーナ隊を投入したからよ。
選手たちは試合時間だけ持ち場を離れて、出場後はジェファー隊の回復魔法を受けて持ち場に復帰する、という形式をとったわ。なあに、同志たちの連携は神がかっているもの。試合中2人の穴を埋めるくらい造作もない……というか、そのように上手くプログラムを組んだのよ、カリンの部下って子が。
客席はとうとう満員になってしまい、宙を飛びながら観覧する者まで出始めた。
「席は子供や老人にお譲りくださーい」
「結界に触れるのは危険ですので絶対におやめくださーい」
正直、緊張するわね。
「えー、テストテスト。コホン」
照明が落とされ、この広い空間がシンと静まり返る。ここからは、スポットライトを浴びる私だけの時間よ。
「みんな、本日は良く集まってくれたわね」
今思い出すことじゃないかもしれないけれど、私は学院に入学する以前、縁談の申し出がそれはもうわんさか届いていたのよ。お父様が全て断っていたらしいけれど、流石に、気が付かない程馬鹿じゃないわ。
「私の名前はアリスよ!」
それに、この台本。これはもう間違いない。
「元ウェスーク豪族当主リオポルドの娘で、今は『バルバリア魔法戦線』のボスをやっているわ!」
私は、この島でも指折りの美少女。
「知っている人も、知らない人も――」
『ここで、渾身の可愛い決めポーズ!』、任せてちょうだい。
「よろしくね!!(ハート)」
はい! 拍手! 喝采! アリスちゃんコール大熱唱!!
「……」
……
「……」
……
「……」
んんんんんんんんんんんんんんんんんんんん
「同志のてめぇらくらいはなんか反応しなさいよバカヤロオオ『キィィィィン』」
「……」
「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」
うおおおおおお、じゃ、ないわよ! 遅いっての!
もう何だっていい。こうなりゃヤケよ。
「長話をする気は毛頭ないわ。第1試合の前に1つ余興を行う。余興とは言っても、本気でやるわ。決闘よ!」
「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」
「申し込むのは、バルバリア島いちの美少女であるこの私。相手は、そこのアンタよ!」
もう1つのスポットライトがスタッフ席の一点を明るく照らし出す。
「は?」
彼は呆けた顔をしていた。サプライズ大成功ね!
「『バルバリア魔法戦線』参謀のジョン。本気でかかってきなさい!!」
「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」」」」」




