第二話 改革と共闘
婚約破棄による社交界での名誉の失墜は、レティシアにとって、まさに自由の宣言だった。彼女は、王妃教育という薔薇の鎖から解き放たれ、公爵領に戻り、長年温めていた政治・経済改革を断行した。
「悪役令嬢の復讐か、それとも狂気か」
と社交界は噂したが、レティシアの聡明な手腕は、噂を嘲笑うかのように、公爵領を急速に発展させた。彼女は、従来の貴族的な慣習に囚われず、領地の資源を効率的に活用し、貧しい領民に仕事を与えた。
「王妃になるよりも、一国の宰相の方が似合うわ」と、レティシアは自嘲気味に笑った。
その改革の成功は、王都にも届いた。ノア・クリフォードは、その報告に接し、レティシアの真の能力を再認識した。彼は、宰相補佐としての公務を名目に、公爵領に駐在する機会を作り、レティシアに接近した。
「レティシア様。貴女の改革は、王国の財政改革に不可欠な視点を持っています。公務として、協力を仰ぎたい」
ノアの提案は、あくまで同志としてのものだった。
「結構だわ、ノア。貴方は、アルベール殿下の忠実な臣下でしょう。悪役令嬢の力など、借りる必要はない」
レティシアは拒絶の姿勢を見せたが、ノアは引かなかった。二人は、夜通し公爵領の書斎で、王国の未来について議論を交わした。長年の幼馴染としての信頼と、同志としての情熱が、二人の間に流れる空気を、急速に濃密なものに変えていった。
ノアは、レティシアの冷徹な論理と、その奥に隠された国民への温かい眼差しに、改めて惹かれた。レティシアもまた、ノアの揺るぎない誠実さと類まれな才能に、諦めていたはずの恋心を再び燃え上がらせた。
(ノアが、アルベール殿下への忠誠を捨てて、私の傍に来てくれるならば……)
一方、王都では、アルベール王子とアリアの関係に不穏な影が差していた。アルベールは、レティシアが予想外に領地で成功を収めていることに焦りを覚え、アリアは、ノアがレティシアを政治的に支持していることに気づき、嫉妬と不安を募らせていた。
「ノア様は、レティシア様の影響を受けているようです。聖女であるわたくしが、殿下のためにも、ノア様に協力を求めなければなりませんわ」
アリアは、表面上は純粋無垢な聖女の顔をしながら、ノアに接触を図った。しかし、ノアはレティシアとの議論で得た確信と、アリアの計算高さを既に見抜いていた。ノアは、アリアの誘いを冷徹に拒否し、レティシアの改革の同志としての立場を、より鮮明にした。四角関係の構造は、アルベール&アリア 対 レティシア&ノアという、政治的対立の構図へと変化しつつあった。




