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四.

四話。彼女の独白。

四.

 私は、同じクラスの加賀美 蓮(かがみ れん)くんのことが好きだ。何故なら彼は態度を変えなかったから。

 私が変わってしまったのは中学三年生の時だ。

 初めて自慰行為をしたのは小学六年生の頃だった。ネットで知ったそれを自分の身体で試し、今まで感じたことがないものに驚いた。楽しさとも美味しさとも嬉しさとも心地よさとも違う、自分の身体が芯から震えて喜んでいるかのような感覚が癖になった。

 私の家庭は、両親共働きで小さい頃から夜以外は留守番をさせられていた。家族と楽しい時間を過ごすことなんて数えるほどしかなかったし、他の家庭では母親がやっているような家事も小学校高学年の時には自然とできるようになっていた。

 学校から帰ったら母親がおやつを用意してくれて、夜になると父親とご飯を食べて、二人に学校での楽しかった話をしてあげる。そんな家庭に憧れて、常に寂しさを感じていたけれど、自慰行為を知ってからはそんな寂しさはどこかに吹き飛んだ。

 そんな私にとって、親がいない家庭ほど都合のいい空間はなかった。学校から帰ってきてから親が帰ってくるまで、ほとんど休まず自分の身体を弄り、喜ばせる。日を追うごとにその頻度は増えていって、中学に上がる頃には日課と呼べるまでになっていた。

 中学に上がってからは、更なる刺激を求めて親に内緒で専用の道具を購入し、成人向けの動画を見て刺激を強めていった。

 そして、もっと強い刺激を求めて、中学三年生でクラスの男子と初めての性行為をした。初めての相手とはしばらく付き合って、毎週のように身体を重ねたけれどそれが原因で振られてしまった。

 初めての相手に振られた時はもう性行為ができないと絶望していたけれど、幸いなことに私の容姿は男子に人気があるようで、彼氏が途絶えることはなかった。でも、毎回同じ原因で振られてしまった。

 彼氏が変わるたびに私の欲は強まっていって、男子のことを恋愛の対象ではなく、性行為の相手として見るようになっていった。

 そうなった頃から、私の身体はセックスがないと生きていけなくなった。

「人間関係に不安があるから、高校は離れたところに行きたい」

 高校進学時には親にそう嘘をついて自宅から少し離れた場所にある私立高校に進学させてもらった。元々いた中学では「あいつは尻軽のビッチだ」という噂が蔓延してしまい、自分のことを知っている人間がいる高校には行きたくなかったからだ。

 高校に進学してからも私の依存症は続き、一年生の春に同じクラスの男子と身体を重ねた。中学の頃に面倒なことになった経験があったから、高校では彼氏は作らないことにした。

 そんなことを繰り返していると、高校でも私の噂は広まった。最初はまたやってしまったと思ったけれど、その頃にはもう噂話などどうでもいいと思った。むしろ、性欲に身を任せた人間が自分からやってくるから都合がいいとさえ思った。

 多くの人と身体を重ねたことで分かったことがある。男子は一度身体を重ねると私に対する態度が変わる。急に馴れ馴れしくなったり逆に私が近くにいると挙動不審になったりする。

 性行為は唯一自分を満たしてくれるものだったけれど、性行為後の男子の態度の変化は心底気持ちが悪かった。

 高校一年生の秋、同じクラスの男子にセックスをさせてほしいと頼まれた。私はそれを受け入れ、数日後、私の部屋で今までの人と同じように身体を重ねた。

 その翌日、またあの気持ちの悪い変化を見なければいけないのかと思いながら登校したけれど、私の予想は裏切られた。

 彼の態度は、昨日までと全く変わっていなかった。

 彼と同じように、元々話したこともなく、名前を知っている程度の関係だった人も性行為をすれば私に対する態度や視線が一人残らず変わっていった。

 それなのに、彼は、彼だけは態度が一切変わらなかった。

 何故彼だけは変わらなかったのか、それは分からなかったけれど私はそんな彼に魅力を感じた。

 性行為をしてもしなくても態度が変わらない。それはすなわち彼にとって私は性行為だけの存在じゃない、彼は私の身体以外を見ている。そんな気分になった。

 生まれて初めて人から認められた、人から求められたと思い、私は強く彼を求めた。私は彼に恋をした。

 でも、今まで身体の関係しか築いてこなかった私には、好きな人に好きになってもらうにはどうすればいいかなんて分からなかった。両親に十分な愛情を注がれず、異性からは性の対象としか見られていない私には、人から好かれる方法なんて分からない。

 何もわからない私は、彼に話しかけてもらえるように毎日挨拶をした。とても幼稚な方法だとは自分でも思ったけれど、それ以外思いつかなかった。

 彼の席は教室のドアの目の前にあったので、教室に入って一番に彼に挨拶をした。席替えが行われて彼の席がドアから離れてしまってからは、わざわざ彼の席の前を通って挨拶をした。

 そして、彼にもう一度近づいてもらえるように同級生と身体を重ね続けた。いつでも何度でも誘いを受けると知れば、彼の方から近づいてくると思ったからだ。

 そう考えて以来、私は自分の欲を満たすためだけではなく、彼に近づいてきてもらうために性行為を続けていた。

 しかし、それをいくら続けても彼からの誘いは二度となかった。

 性行為以外を知らない無知な私にはその理由が分からない。

 春が終わって夏が来ても、夏が終わって秋が来ても、彼を刺激するためにわざと目立つ下着を着けてみても、勇気を出して彼に話しかけても、彼は一切態度を変えず誘ってくることもなかった。

 そして、不意に彼と二人きりになる機会が訪れた。私はこの機会を逃すまいと、必死に自分から彼を揺さぶった。自分から彼を誘い、彼が何故誘わないのかを問いただした。

 思い返せばその時の私の必死さを、彼は気持ち悪いと思っていたかもしれない。そんなことにも気づかないくらい、私は必死だった。

 彼との最後の会話で、彼の態度が変わらなかったのは彼が私に興味が無かったからなのだと気づいた。そう思った私は、自分の勘違いに羞恥心を覚え、中学の時に使ったのと同じ言い訳を使って転校した。

 彼という目標を失った私は、自分を満たしてくれるものを求め、転校した先でも同級生を利用して自分を喜ばせ続けた。

 より強く、より激しく、より多く、そうやって欲の限りを満たす内に、私の身体は再び依存症と呼べるまでにセックスを求めるようになった。

 そして、その依存症は社会人となった今でも続いている。

ここまで読んでくださりありがとうございました!

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