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怪奇千世  作者: 超山熊
2/2

友人


 裏手山での儀式が終わり家へ帰った。

 すでに夕飯の時間が終わったようで、遅れた夕飯を一人で食べていると広間の襖が開いた。


「今日はお疲れ様でした」

「ありがとうございます。母さん」

「このあと(まさる)さんが帰ってくるので任務終了の報告がてら会ってらっしゃい」

「はい」


 神堂勝は僕の父である。

 代替わりをしたことで神堂家現当主となっており、日本最高の怪異専門家である。

 日本の怪異問題を解決するため日々全国を回っている。

 家に帰ってくるのは月に一度ぐらいで、香織さんの父であり霧弦さんの息子の壱谷平さんが僕の父に付き添っている。


 父と話すのは久しぶりだ。

 でも緊張感はない。

 僕の父は……。


「失礼します。父さん」


 夕飯を食べ終えた僕は父さんの自室へ来ていた。

 中からは明かりが漏れ出ているため帰ってきているのだろう。


「入りなさい」


 厳格な声で入室を促す父さんの声に襖を開ける。

 すると。


「おお〜よく頑張ったな!それで?どうだった?」

「……離れてください……それに報告は聞いているでしょう?」


 部屋に入った僕を抱きしめ頭を撫でてくる。

 父は、親バカなのだ。


 人前では厳格な父を演じ立派な当主に見えるが、家族だけの場ではただの愛妻家で親バカの父である。

 先ほど入室を促したときの厳格な声は、廊下にいるかも知れない従者たちに知られないようにだった。

 

 父は知らないようだが、家の者は全員父が家族に甘いことを知っている。


「晴から聞きたいじゃないか〜」

「父さんこそ、新潟はどうだったのさ」

「問題無い!あと始末は平に任せてきた!」

「はあ〜……あとで謝っておこう……」

「それで?晴は儀式をしたみたいだな」

「うん。駄目だったかな……」


 神へ祀りあげる儀式は本来簡単に行なっていいものでは無い、でも……。


「見捨てられなかったんだろう?」

「うん……」

「それならしょうがない。それがお前の美徳であり強さだ。何より本当に間違えたことなら他の当主が止めていただろうさ」

「そう、かな……」

「ああ、だから。迷うな。神堂を支えるのが分家であり、神堂はただ怪異と人間の架け橋となるため突き進めばいい」


 父さんは正面から僕の胸に拳を当てる。

 今回の儀式によって妖怪は神となり、人は裏手山を信仰し大切にするだろう。

 結果としては正しい行動だった。


「分かった。ありがとう、父さん」

「いやいや、俺は晴の成長を感じられて嬉しいぞ〜。あとで儀式の写真を参村から貰ってくるか!」

「やめてよ……」


 その夜は父さんと語らい、朝になったら父さんは家を出ていた。


「おはよう、華」

「おはようございますです、兄様」

「母さんは?」

「母様はまだ起きて来られないようです」

「いつものか……」


 父さんが帰ってきた次の日はいつもそうだ。

 夜は僕と話し、夜中は母さんと酒を飲み交わす。

 二人はかなりの酒豪で母さんは朝まで呑んだら寝て、父さんはどれだけ呑んでも酔うことなく仕事へ向かう。

 おそらく母さんが起きてくるのは昼過ぎだろう。

 家のことは基本お手伝いさんがやってくれるので特に問題無いが……。

 

「兄様昨日は(あれ)と話していたんです?」

「そうだよ」


 華は幼いころ大変な時期に父さんと会えなかったこともあり、父さんへの忌避感が強い。

 僕や母さんはその時期に華を心配し、積極的に華と会話したこともあり懐かれているのだ。

 父さんも心配していたが、分家への協力を要請し全国への怪異問題解決に動いていたため華との時間が取れなかったのだ。

 当時のことを父さんは未だに後悔しており、華と話そうとしても避けられることで毎度ショックを受けている。

 

「華も今度話してみたら」

「嫌です。華は兄様と母様がいれば充分なのです」


 これはまだ話せそうにないな……。

 心の中で泣いている姿の父さんに合掌する。

 朝食を食べて登校する。

 僕にはコンが付き、華には僕の式神と霧弦さんの送り迎えがつく。


「今日から高校生活というやつじゃなー」

「そうだけど……。学校内で話しかけないでよ?」

「そんな!?ならば我は何をしておればよいのじゃ!?」

「その辺を彷徨いてろよ」

「つまらん!そばにおるだけならよいじゃろ?」

「いいけどさ」


 小中学校では見えないものが見えることでいろいろ苦労した。

 虚空に向かって話しかける僕にクラスメイトや教師は気味悪がり、両親が学校へ呼び出されたこともあった。

 これから通う高校を選んだのは僕を知っている人間が少ないからである。

 家からの距離はそこまで離れていないもの、そもそも中学校が車通学だったほどなので中学時代の知り合いは同じ高校にほとんどいない。

 それに結界術など霊力操作も桁違いに上達している、今の僕を見て気づく人間はいないだろう。


「おはよー」

「おはようー昨日のテレビ見たー?」


 正門を抜け上履きの入ったロッカーを開ける。

 周りではすでにグループを作っていたり、趣味の合う友人を作った同級生たちが会話している。

 誰の目にも付かず教室を目指し、自分の席へ座る。

 

 寂しいとは思わない。

 心配するような目で見られるよりマシだ。

 友人なんていらない、神堂として怪異を相手にすることが最優先だから。


「おはよう!神堂晴くん……だよね?」

「……おはよう。芹沢さん」


 そんな僕に出来た初めての友人、芹沢巫那さんが話しかけてきた。

 肩口まで伸ばしたブラウンの髪を揺らし、明るい笑顔でこちらを見る芹沢さんはとても眩しく見えた。


「なーんか不思議な感じ」

「何が?」

「みんな神堂くんのこと見えてないみたい」

「……見えてはいると思うよ」

「そう?」


 この子は本当に一体なんなんだ?

 今も認識阻害の結界術は使っているし、何よりコンも僕を守るための結界を張っている。

 それに結界により認識から外れるクラスメイトたちの視線にも気づいている。

 誤魔化しは出来たが、これは本当に調べないと危険かもしれない。


「な、なんじゃ!?この女!?我の結界を無視しておるのか!?どういうことやねん!?」


 コンなんて動揺しすぎて、なぜか関西弁になっている。

 手をグーパーしながら結界を強固にしたり張り直したりするコンが面白くてクスッと笑ってしまう。


「ん?どうしたの?」

「いや、なんでもない」

「おはよう。全員席につけー」


 担任が教室へ入ってきたため、クラスメイトたちは散り散りに席へと戻る。

 全員が席についたことを確認し、担任教師は口を開いた。


「えー今日から授業が始まるわけだが、同時に部活動体験入部期間も始まる」

「どこに入ろうかなー」

「俺は野球部にするぜ!」

「はーい。静かにしろよー。入部には入部届を顧問へ提出すれば良いからな。絶対入部しなければならないわけでは無いが、せっかくの高校3年間だ。大いに青春しとけよー」


 担任は入部届の紙を配ると教員室へ戻って行った。

 それを皮切りに生徒たちは席を立ち、それぞれ放課後の部活動へ思いを馳せている。


 僕には関係無いことだな……。


 入部届を机へ入れ授業の準備を済ませる。

 時間になれば授業担当の教師が教室へ入って通常授業が始まる。


 進学校という訳でもないため授業レベルはそこまで高くない。ただ、家へ帰れば神堂としての訓練や任務が多く待っているため勉強や課題は学校で済ませておかなければならない。

 授業の中で出来る限り理解度を深めるため集中していれば午前中はあっという間に終わる。

 昼食は義務教育期間と違い給食が無い。

 ほとんどの生徒は弁当を持ってくるか、購買でパンを買っている。少数ではあるが隠れて校外のコンビニへ行く者もいるようだ。

 

 僕は弁当を持ってきているため、弁当の入った袋が入ったカバンを持ち教室を出る。

 校舎端の空き教室へ入り電気をつける。

 中は綺麗にされており、ソファが2つ大きめのテーブルを挟んで置かれており応接室のようにも見える。

 ここは去年まで使わない机や椅子が置かれていた倉庫としての教室であり、春休み期間中に掃除がされ物が置かれた。

 窓からの景色は裏手山神社が見えるようになっており、日光が明るく室内を照らす。


「昼ご飯を食べようか」

「今日はなんじゃ?」


 授業中は教室後ろで浮きながら寝ていたコンを連れて空き教室に来ていた僕は、カバンから弁当を取り出して広げる。

 重箱に詰められた弁当はどう考えても1人分ではなく、この量にはコンの分も含まれている。

 

 怪異がご飯を食べられるのかと聞かれれば。

 食べられる怪異もいるが食べ物の匂いだけ食べるものもいる、としか答えられない。

 ただ怪異たちもお腹が空くのは人間と同じである。

 コンは実物まで食べられる怪異であり、大好物は油揚げや厚揚げであり重箱の一段目はいなり寿司が詰められている。


「おお〜いなり寿司か!分かっておるのー!」


 いなり寿司を両手にもちパクパクと食べるコンを横目に箸を取り出して僕に用意された弁当から卵焼きを取り食べる。


「うん、今日もいい甘さだ」


 昼ご飯をコンと二人で食べ昼休憩が終わる時間まで空き教室で過ごす。

 そろそろ教室へ戻るかという時間にご飯を食べてから膝で眠るコンを起こしてカバンを持つ。

 教室へ戻るとクラスメイトたちもご飯を食べ終えてそれぞれ会話している。

 ザワザワと話すクラスメイトたちの間を抜け席につく。

 芹沢さんも女子数人と話している。

 コンは朝から芹沢さんを警戒しており、僕の背後から芹沢さんを睨みつけている。

 

 数分で午後の授業が始まり、15時ごろ全ての授業が終わる。

 帰りのホームルームとして担任が伝達事項などを軽く話し解散となる。

 生徒たちは部活動場所へ移動している。

 

 僕は昼休憩で使用した空き教室へ向かう。

 空き教室のドアを開くと昼とは違い中に人がいる。


「晴くん、授業はどうだった?」

「問題無いと思いますよ。壱谷先生」


 中で僕を待っていたのは香織さんだった。

 この教室は僕の休憩場所兼部活動場所である。

 その部活動は、心霊研究部。

 名前の通り心霊現象の研究……ではなく、ただ僕が部活動に入らないことへ疑問を持たれないための仮初の部活であり、神堂への任務を受け付ける受付口でもある。

 この教室には本当に要件のある人しか入れない結界が張られており、入ってきても僕や香織さんのことは認識できない。

 つまり僕は部活に入り、神堂としての怪異依頼も受けられるという一石二鳥な解決策である。


 本来、部活を新設するためには部員5名と顧問を揃えて活動内容を書いた紙を学校へ提出するという段階を踏まなければならないところ。部員には存在しない生徒を術により作り上げ、顧問には香織さんが、活動内容は名前通り「心霊現象の研究及び考察」という適当な理由をこれまた術により理解させた。


「今日の依頼はまだありませんね」

「さすがに初日からは無いでしょう」


 香織さんがいるためコンには少し離れてもらっている。

 とくに依頼がなければ符術の練習に時間をあてる。


 符術は紙と筆そして墨を全て特別な物を用意し、墨に自分の霊力を混ぜ縦長の紙に文章や単語を書き込むことで事象を起こしたり、紙に霊力を込めるだけで術を行使できるようにする。

 何度も練習することで起こせる事象の大きさや行使できる術の効果が強くなる。

 香織さんは僕の正面で少し仕事を済ませたあと教員室へ戻った。


「あやつは戻ったか?」

「うん」

「全く怪異と関わる家に生まれて、なぜああなるのかの?」

「苦手なものは誰にだってあるさ」

「主は我のこと苦手か?」

「そんなわけないだろ?コンは僕の相棒だ」

「ふふんっ♪」


 何やら嬉しそうに胸をはるコンを膝に乗せて筆を置く。

 夕方まで時間を潰してカバンを持つ。

 夕暮れの中、帰り道を歩き電車に乗る。


「晴様、お伝えしたい事がございます」


 家へ入ると霧弦さんに呼び止められた。

 何やら深刻そうな表情をしている。


「どうしました?」

「晴様のクラスメイトである芹沢巫那様のことですが、調査したところ親類縁者に霊力を持った者は確認出来ませんでした」

「そう……ですか」


 芹沢さんが結界術を無視して僕に接触できる以上、親戚に霊力を持った人間がいるか親しい人に使い方を教わったのかのどちらかしかないと思っていた。

 壱谷家が芹沢さんの周囲を調べるよう母さんから指示を受けていたのだ。

 しかし結果は、何も分からなかった。

 両親やその兄弟に祖父母、さらに遡って記録上残っている者に霊力を持っていた人間はいなかった。

 芹沢さんに近しい友人や関わりのあった者にも霊力を扱えた者はおらず、芹沢さんに霊力の存在を教えられる人や操作の仕方を教えられる人は発見出来なかった。

 彼女は才能を自身で開花させ、結界術を無視するほどの力をつけたということになる。


 そんなこと……可能なのか?

 いや、出来てる人がいる以上は可能であるとするしか無いが。


「奥様からの伝言でございます。『悪用される前に、彼女をこちらに引き込みなさい』ということです」

「……分かりました。では芹沢さんには"神堂"と教える、ということですね」

「その通りにございます」


 全ての人間は霊力を持っている。

 亡くなった人間の現世へ残した未練や怨念が身体に残った霊力へ移り死霊となる。

 霊力には気持ちや想いが乗りやすく、稀にその強い想いが生き霊となるものもいる。


 霊力を扱える者の中には善と悪の2通りがいる。

 善とは、神堂家に連なる者や霊力を使い怪異を鎮める技を納めた者達のこと。

 悪とは、霊力を使い人の想いを操作することで生き霊や死霊を操る術師や妖しい術を使い現世に混乱をもたらす者達のこと。


 芹沢さんが霊力を扱えるのならば悪の人間に狙われることになる。

 その前に神堂家で保護することにより、霊力の扱いを覚えてもらうこと。何より現世にいる怪異の存在を知ってもらわなければならない。


「分かりました。では、後日招きます」


 そうして芹沢さんを家へ招くことが決まった。


 翌朝いつも通りの時間に起き着替えを済ませて朝食を食べる。

 父のいない、いつも通りの朝を過ごして登校する。

 登校時間になれば家を出てコンを呼び学校へ向かう。

 学校へ着いた僕は1つのことに悩んでいた。


 さて……人を家へ呼ぶのにはどうしたら良いのだろうか?


 過去、1人も友人が出来たことのない僕に唯一友人と言ってくれる芹沢さん……彼女を家へ誘う事になったのは別にいいが誘い方が分からない……。


 教室で誘う?……結界を張っているとはいえ、すでにクラスでも人気者の芹沢さんだ。認識阻害が剥がれかねない。

 2人きりになれる瞬間を探す?……常にクラスメイトに囲まれている芹沢さんが僕と2人きりになれる瞬間なんてあるのか?


 そうこうして悩んでいると始業の鐘が鳴った。

 授業を聞きながら悩み、昼休憩もコンと話しながら悩み……いつの間にか放課後になっていた。

 

 半ば意気消沈しながら部室へと向かう。

 廊下を歩いていると首にかかっていたコンが驚いたように僕から離れた。


「どうし……」

「しーんどーう君!」

「うわぁ!びっくりした……」


 認識阻害の結界と探知の結界を張っている僕が接近してきた存在に気づかないことなんて滅多にないため、後ろから突然現れた芹沢さんに驚いていた。

 

「あはは!なに?今の声、女の子みたいだったよ?」

「はあ……。さっきのは忘れて……それよりどうしたの?」


 突如現れた芹沢さんにコンが僕の背中ごしに警戒している。

 コンも自身が張った結界を抜けてきた彼女を危険視しているのだろう。


「なんか今日の神堂くんが悩んでいるように見えたっていうのと。神堂くんは部活決めたのかな?って」

「悩みか、あるにはあるけど……」

「ほうほう!どんな悩みですか!?って聞いてもいいかな?」

「うーん。芹沢さんには言えないかな」

「まあ、そうだよねー」


 そうして歩いているうちに部室へ辿りついた。


「ここって何の教室?」

「僕が入部した部活の部室だよ」

「神堂くん、なんの部活に入ったの?」

 

 僕は部室のドアを開け中へ入る。

 静かな部室の中には誰もいなくて、夕日がテーブルの上に置かれた符紙を照らしている。


「僕が入ったのは心霊研究部。芹沢さん、話があるんだ」


 部室へ入った僕は振り返りながらよそよそしく中を覗く芹沢さんへ向けて、そう言い放った。


「話?それに心霊研究部なんて、この学校にあったの?」

「部活動は僕が作った。でも誰も知らないし、知ることも出来ないよ」

「――どういうこと?」


 僕はゴクリと息をのみ覚悟を決めた。

「実は……」と現世にある怪異たちのこと、霊力のこと、芹沢さんの持つ才能のことを話した。

 彼女がどういった反応をするのか分からない。

 自分が訳もわからないナニカから狙われているという恐怖は僕には分からないから。

 現世に生きる一般人は怪異のことを、あくまでも幻想であり人々が作り上げた想像上のことでしかないと思っている。

 それが本当に存在して、しかも自分達の日常の裏でそれらと戦う人間がいるなんて思いもしないだろう。

 

「なにそれ!面白そう!」

「――え?」

「だって妖怪とか幽霊とか神様とか、想像しかしてなかったのが実際にいるんだよ!?私も見たい!」

「本当に?覚悟できてる?」


 僕の確認はつまり、霊力を扱い見えたり使えたりする中で彼女もきっと大変な事件に巻き込まれることになる。

 もし、ここで辞めておいても神堂家が彼女を保護し必ず守ることになるが、どうするのか彼女へ聞くと。


「守ってくれるのは嬉しいけど……やっぱり知らないままでいるのも違うと思う」


 彼女は強く覚悟の籠った眼で僕に言う。


「だから私をこの部活に入れて!」

「――分かった。それと芹沢さん、僕の家に一緒に来て欲しい」

「別にいいけど?」

「覚悟が決まったなら一度母さんに会ってもらいたいんだ」

 

 僕は携帯を取り霧弦さんへ連絡をする。


「芹沢さんを家へ連れて行くのって今日でも大丈夫ですか?」

『問題ありません。お迎えに参りますか?』

「いえ、神堂へ通うことになるなら家までの道も知っておいた方がいいと思うので」

『承知いたしました。お待ちしております』


 霧弦さんとの電話を切り、芹沢さんを連れて職員室へ向かう。

 香織さんには芹沢さんを家へ招くため今日は帰ると伝えた。

 今日も依頼は無かったようだ。

 帰り支度を済ませ2人で正門を抜ける。

 時間的には部活中の生徒が多く、帰りのホームルームが終わってから時間も経っているため今帰る生徒は少ない。

 いつもならコンと2人きりの道を、今日は芹沢さんも含めて3人で帰る。

 まだコンが見えていない芹沢さんには2人きりに感じているだろうが。

 

「神堂くんの家ってどこらへんなの?」

「電車で3駅先から少し歩くぐらいかな」

「本当にこやつを連れていくのか?」

「母さんから言われてるんだ。それに芹沢さんも知っておかないと」

「――?誰と話してるの?」

「ああ……」


 怪異のことを話した今、芹沢さんの前ならと気を抜いてコンと話していると僕が誰と話しているのか気になった芹沢さんが聞いてきた。

 この際だからとコンのことを芹沢さんに伝える。


「じゃあ神堂くんはいつもコンって女の子と一緒にいるの?」

「いつもじゃないよ。コンは契約を結んでいるだけで絶対的な権限みたいなものは無いから。普段は別で暮らして僕が外で怪異と会うときだけ傍にいる形かな」

 

 実際、自宅では霧弦さんが学校では香織さんが僕のボディーガードとして仕えてくれている。

 だからコンが僕の近くにいなければならない瞬間は家の外で香織さんのいない場所という、かなり限定されたときだけなのだ。

 ただ、霧弦さんは華のことも守らないといけないし、香織さんも現役の教師であるため学校の中で常に僕と共にいられるわけではない。

 その分コンが隣にいることが多い。


「そのコンちゃんと親戚の人が変わるみたいに守ってくれてるんだ?」

「そうだね。でも結界術は重ね掛け出来るから皆がそれぞれ層になるように守ってくれている感じかな」

「へえー」


 そんな感じで僕が会ったことのある怪異譚を話しながら歩き続ける。


「ここからは手を繋ごう」

「ええ!?なんで!?」

「いや、この先はかなり強い結界が張られているから霊力の弱い人には近づくことも出来ないんだよ。嫌ならコンに手伝ってもらうけど……」

「そういうことなら先に言ってよ!」


 コンの嫌そうな視線を浴びながら芹沢さんと手を繋ぎ結界をくぐる。


 神堂家を囲む結界術は歴代の壱谷家当主と神堂家当主がそれぞれで作り上げており複数層で分けられている。

 一般人が近寄らないようにする人除けの結界、怪異が近寄らないようにする怪異除けの結界、遠くからの発見を難しくする認識阻害の結界など高度な結界を協力して作るのだが。

 今代の神堂家当主である僕の父は広範囲結界術がとても苦手で張れず、壱谷家当主の平さんはそんな父を守るのに専念している。

 ならばこれだけ強力な結界を誰が張っているのか……その答えは。

 

「晴、お帰りなさい。そしてようこそいらっしゃいました。芹沢巫那さん」


 壱谷家最高の天才と言われていた僕の母、神堂雅。旧姓、壱谷雅である。

 

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