ある年の瀬の休日。
初投稿です。お目汚し失礼します。
「よしよし!コーナーまで持ったままで運んできたな、ピーナッツハイ!こら頭を貰いましたわ!」
そう言いながらターフビジョンを眺める青年の手には、冬のボーナスが全て賭けられているであろう馬券が握られていた。これから他馬による圧勝劇により、紙切れになることはまだ誰も知らない。
『さあ、最後の直線!ピーナッツハイ来ている!!イースターも並びかける!!』
「あら手応えがおかしいぞ‥鞭をいれんかい!もっと手綱しごかんかい!」
『ピーナッツハイ!苦しい!大外からユリノユウビ!!牡馬も最強牝馬もねじ伏せて!!G1、3連勝!!いま!堂々とゴールイン!!!』
「へ……わ……イヤ……ん?!……ぎゃ!ぎゃぎゃぎゃががぎぐぎぃ!」
ほんの数十秒前までの自信は、一瞬で塵のように吹き去り、昼食に食べた焼きうどんが胃から逆流して来そうな状況に追い込まれてしまった。
「ぃぃ……どうすりゃいいんだ俺‥?12Rに全ツするか?いや、大人しく飲んで帰るか?」
「ウウ……オエッ。ヒッヒッヒッヒック‥!」
駅の北口ペストリアンデッキのベンチに腰掛ける理知的で物静かな美女の銅像の近くで彼女とは対照的に青年は酒と後悔に飲まれ、うずくまっていた。
「お兄さん、大丈夫?うわ、大分飲んだね?どうしたの?」
巡回中の警察官が、通行中の人々に白い目やスマホを向けられている無惨な青年に話しかけた。
「ピーナッツハイが直線で!ハイボールは濃いめで!豚バラは大きくなきゃだめなんだよ!八坂様だって仰ってただろう!焼酎は芋じゃなきゃならんのです!月夜の水面を照らすボートレース界の新地平のお星様なんだよ!」
「ちょっと一人じゃ無理だな。すみません、巡回中に泥酔した人を保護しました!応援を‥ちょっと待ってお兄さん!て、おい!酔っ払ってる割に速すぎんだろ!」
警察官が応援を呼んでる最中に、青年は謎のフレーズを叫びながら地上1階へと飛び降りようとしている。
「さあ!この内発的グランプリこそ競輪場が決めた遥かなる企業会計!前進だ!自由が手招きする!私こそが摂政だ!いますぐにだ!ブワッハハハ!」
「間に合え!」
警察官が全力で青年を追う。しかし、青年は今にも落下しようとしている。通りがかりの人々はそれぞれ悲鳴をあげるやカメラを向けるや多様な反応を示している。
「間に合わなかったか、救急と規制線といや……いない……?確かに落ちたよな?」
警察官は今後しなければならない仕事についてを考えながら落下したであろう地点を覗き見る。しかし、青年の姿はそこにない。肌寒さを感じる夜に見た夢だったのだろうか?いや、そんなはずはない。カメラを向けていた通行人に確認をすると確かに落下している。しかし、青年を待ち受ける奇妙な空間に至ったであろう形跡は見当たらない。