第9話 ダンジョン攻略(4)逃げて勝つ
ダンジョン攻略をしていた屑パーティー。ボスを討伐したのちに待ち受けていたのは悪魔だった。悪魔の発言で確実となる一つに事実⁉屑一行は悪魔に馬鹿にされまくる。圧倒的な実力差を前に今回も屑の卑怯な作戦で勝つ。
「貴様ラ、ヨクココマデ来タナ」
財宝部屋中心にいた魔物はこちらを振り返り言った。
「魔物が喋った⁉」
目を丸くして俺達は驚いた。魔物の言語は片言だが、しかし何とか聞き取れる程度のものだった。
マジかよ……喋れる魔物とか絶対強いやつじゃん!何でこうも初心者冒険者の俺達の前には強敵ばかりが出て来るんだよ!
「貴様ラ悪魔ヲ見ルノハ初メテカ?」
黒く細長い指は和の方に向かって伸びた。プルプルと震える頭に、回る扇風機の首を止めた時のように一定間隔で揺れる黒く細い首は、この生物の不気味さを語るには十分なものだった。
「悪魔……?」
眉間に皴をくっきりと寄せている彼が問い返した。
悪魔とか中盤から出てくるやつだろ、新米冒険者の前に出てくんじゃねえよ!
「貴様ラ悪魔ヲ知ラナイノカ?学ガ全ク無インダナ」
とがった悪魔の鼻は大きく息を吐いた。
悪魔に馬鹿にされた⁉スムーズに喋ることも出来ねぇくせに!
「知ってます。悪魔とは中級魔物です。知能が高く魔法攻撃主体の魔物です。でも確か人間のように群れて生きているはずでは?」
解説キャラとしてかなり板についてきたレベッカが早速解説してくれた。
「ナンダ、知ッテイルジャナイカ」
「俺達は財宝が欲しいだけなんだ争うつもりは無い」
和が杖を捨て、説得を試みた。
和でかした。悪魔は知能が高いらしいから成功するだろ。
悪魔の返事を待っているその場所には、ずっしりと重い空気が漂っている。時間経過とともにより一層空気が重たくなっていく。
「……ダメダ!」
ぎこちなくゆっくりと首を振って答えた。
何故だ⁉
「俺ハ魔王様ニコノ財宝ヲ守ルヨウニ言ワレタノダ」
その言葉を聞いた瞬間に目を見開いて驚いた。
魔王は生きている⁉クガは討伐されたって言っていたけど、クガはバカだから間違ったこと言っていたのかもしれない!
「魔王は生きてるのか?」
大きな期待を胸に俺は目を輝かせて質問した。
「魔王様ハ死ンダダロ。ソンナコトモ知ラナイノカ?ソレハ学ガ無イドコロノ話デハナイゾ?」
悪魔は随分と俺のことをバカにしたご様子で、鼻で笑い笑みをこぼしていた。
魔王やっぱり生きてなかった……俺はどうやったら天国に行けるんだよ!あのクソ女神が、俺が死んだらあいつを一発殴ってやる!
「やっぱ魔王は死んでたのね」
「まじかよ……」
和と詩織も新たに見えた一筋の光が目の前で消え、首がガクンと折れた。この世の終わりとでも言わんばかりの絶望具合だ。
「貴様ラ何故冒険者デアリナガラ魔王様ノ死ヲ悲シンデイル?」
理解に苦しそうに首が直角を描き、眉間に皴をくっきりと寄せていた。
そりゃそうだ。転生者について知らなければ魔王の死を悲しむ冒険者なんて異端者にも程がある。
「皆さんふざけるのは、お止めください目の前には悪魔がいるのですよ!」
別にふざけていた訳ではないが、レベッカの言葉で俺達は目が覚めた。
やべぇ、俺達は絶賛命の危険に犯されているんだった。
「危なかったわ……」
「全くだ……屑、どうやってあの悪魔をどうやって倒す?」
何でいつも俺に聞いて来るんだ……。
「……そうだ詩織、お前僧侶だろ悪魔とか有利に戦えるんじゃないのか?」
これしかないと彼女の顔を見て尋ねた。
これしかない、実力で勝てない俺達が勝つしかには弱点を突くしかない。
「無理よ」
真剣な顔できっぱりと断られた。信じられない程に清々しい顔だ。
「なんでだ?僧侶なら対悪魔用の魔法とかスキルとかあるんじゃないのか?」
頭を掻きながら疑問をそのままに問い返した。そして一つ心当たりが浮かんだ。
使えないのは回復魔法だけじゃない⁉もしかして対悪魔用の僧侶っぽい魔法も覚えられなかったのか?
「対悪魔用の魔法なんて覚えてないわよ。スキルポイントが足りないのよ。汎用的なのを優先的に覚えたから。」
「マジか……」
今回はこいつが無能って訳じゃないから強く言えないな。ああ、モヤモヤする!誰かを罵倒したい!
「対悪魔の魔法じゃなくてもお前の実力なら余裕だろ。あれだけ強いんだからさ」
和の言葉に深く納得した。
確かにさっきの詩織の強さなら悪魔ぐらいやれそうだな。
「無理よ」
またしても彼女はきっぱりと答えた。
「どうしてだ?」
彼はしかめっ面に眉を眉間に寄せて問い返した。理由も聞いてないのに、どこか不機嫌そうだ。
「だってあいつ強そうだし、ああいうのって体毛が固くて剣じゃ切れないみたいなパターンになりそうじゃないのよ」
質問には答えているが、クズみたいな答えだ。
非常事態だってのに、このバカは何を言ってるんだ?
「あの……詩織さんの強さなら余裕だと思うんですけど……」
眉間にしわを寄せつつ、ぎこちない表情でレベッカが答えた。
え⁉そんなに強いの⁉正直詩織を主力にして、俺達が後方から支援すれば勝てるかな~ぐらいの考えだったんだけど……。
「いやでも万が一ってことがあるから嫌よ。それにさっき私自分にバフ魔法掛けちゃったから戦うなんて無理よ!」
不利な状況に対し、詩織は勢いだけでで勝負に出た。
そうだった、さっき詩織バフ魔法使ってたんだった。これじゃあまたしても罵倒できない!イライラする。
「大事なところで使えないな……ガハッ!」
ついうっかり俺の口から飛び出した。
「使えないって何よ!使えないって!殴るわよ!」
『殴るわよ』と、脅しておきながら彼女の拳は、言葉を追い抜いて俺に届いた。
「こうなったら、これでもくらえ!」
和が突然悪魔に向けて光る何かを放り投げた。その光る何かはドッカーン!と爆発したのが目に映った。大きな爆発音が耳を駆け抜け、共に来た突風で瓦礫が飛んだ。咄嗟に前に出した腕が痛い。少しして周りに砂煙が舞った。
なんだ?何をしたんだ、このバカは⁉
「ゴホッゴホッ……和、一体何したんだ?」
砂煙で咳が出る口を手で押さえつつ質問した。
「ゴホッゴホッ……屋敷の地下にダイナマイトがあっただろ?あれを使ってみたんだ。いくら悪魔といえどもただじゃ済まないだろ」
砂煙の中からゆっくりと出て来た和の姿が現れた。彼は煙たそうに手を煽っていた。
「もう死んだんじゃないの?そんなことより財宝に傷つけてないわよね?傷ついてたら殴るわよ!」
新たに砂煙の名から出て来た詩織も少し煙たそうに手を扇ぎながら言った。
こいつ、さっきまで一緒に怯えていたのに悪魔が死んだと思ったらこの態度、今まで一緒に暮らしてたがここまで身勝手な奴だとは知らなかった……。
「それにしてもビックリして心臓止まるかと思った。和、そういうの使うなら使う前に教えてくれよ」
マジでびっくりした、とは言え財宝だ財宝!これで俺は天国を作る!
「貴様ラソノ程度デ、コノ俺ニ勝テルト思ッタノカ?」
砂煙の中から俺達の耳へと、悪魔の声は駆け抜けた。その声を聴き、俺たちの顔は青く白い恐怖に染まった。
悪魔の奴生きてやがった……。ダイナマイトで倒せなかった奴をどうしたら倒せんだよ⁉
「ケホッ、ケホッ……、悪魔はとても防御のステータスも高いのです。あれではただ相手の怒りを買っただけです。」
砂煙の中からレベッカが出て来た。恐らく砂煙の一番の被害者は彼女だろう。
そういうことは早く言って欲しい!今回も別に誰が悪いという訳ではないが故に、また誰も責めれない……、ああ、本当にモヤモヤする!全部あのクソ悪魔のせいだ!殺してやる‼
ぶつけようのない怒りで両手で頭を掻きむしり、髪の毛をくしゃくしゃにした。
「貴様ラ、ヨクモヤッテクレタナ!クラエ、ブラックフレア!」
俺達に向けられた手の平から、黒い火炎玉が勢いよく噴き出した。俺達は間一髪のところで躱し、物陰に身を潜めた。
なんだあれー⁉見るからに危ないぞ、あれ!
「気を付けてください悪魔の得意魔法黒系魔法です。黒い炎は生物に火が移ると消す方法はありません。」
チートじゃねぇか!こっちの攻撃魔法は魔法使いという職業に備え付けになってるフレアしかないってのに……。
「チッ!どうやったらあいつを倒せるんだ……?」
「一度でダメならもう一度やれば……」
信じられないことに先ほどの爆弾魔がポケットに手を突っ込み、本日二本目のダイナマイトを取り出した。その光景を目の当たりにし、俺は閃いた。
それだ‼
「和待て。それを俺に渡せ、作戦がある。詩織は俺達にバフ魔法を掛けてくれ」
「分かった。」
「分かったわ、プラスステータス」
彼は取り出したダイナマイトを俺に手渡し、詩織は杖を掲げ、俺達に全能力上昇のバフ魔法を掛けた。
よし、一気に状況が変わった。これなら勝てる!
「屑さん、一体どうするのですか?」
不安そうにおどおどしているレベッカが状況を理解出来ず、びくびくして聞いて来た。
「逃げるっ!」
ニヤリと笑って答えた。
「小賢シイコトヲ考エテイルヨウダガ無駄ダ。ブラックフレア!」
再び濃い体毛を纏っている手がこちらに向き、黒炎を噴き出した。再び俺達は間一髪のところで、眼前に来た黒炎を躱した。
危ないな!少しでも燃えたらアウトとかチートだろ!そういうのは転生者の俺に寄越せ‼
「おい、この毛むくじゃらの害獣が、死ね‼」
力強くビシッ!と、悪魔を指差し、もう一方のダイナマイトを持っている手を振りかぶった。
「ムダダ!ソンナモノガ俺ニ通用シナイノハ知ッテイルダロ?」
目の前の魔物は狂気じみた視線で俺を嘲笑った。投げられたダイナマイトは目の前の魔物には向かわず、天井へと飛んでった。
「ドコヲ狙ッテイル?俺ハココダゾ、愚カ者メ、直前デビビッタナ、腰抜ケ!」
魔物の笑い声は響きダンジョン内を駆け巡った。
どっちが愚か者かはすぐ分からせてやる、バカめ!
「よしっ!逃げるぞ!」
掛け声と共に急いで財宝部屋からひとつ前のボス部屋に向かって走り出した。そしてダイナマイトは天井にぶつかり、爆破した。爆発で天井が崩れ始めた。
「コノ俺ヲ生き埋メニスル作戦ダッタノカ……、ソレナラ俺モコノ場ヲ離レレバイイダケダ。貴様ハ腰抜ケデハク、バカダッタカ……。」
悪魔は酷く嘲笑し、その場から離れようとしたが足が地面から離れなかった。
「ナ⁉コレハ接着魔法⁉イツノマ間ニ⁉」
ようやく悪魔が足元の緑のベタベタとした液体に気が付いた。
やっと気が付いたか、このバカめ!
「ダイナマイトを投げた時だ、お前がダイナマイトに気を取られている内にスティックを使ったんよ。今どんな気持ちだ、効きもしない攻撃に気を取られて、バカにしていた相手の手の平の上で踊っていた、このバカがよぉ‼アーハッハッハ‼」
走りながら振り返って、ゲスい笑みを浮かべ悪魔を指差し、腹を抱えて笑った。そして動けなくなった悪魔の頭上に、瓦礫が落ち動けなくなった。
やっと、罵倒が出来てスッキリした!フハハハ!バカめ!散々人をバカにした罰だ‼
そしてボス部屋に戻ってきた。
「お前ら、全員を一か所に集めろ!」
他三人に指示し、疲れ果てて倒れている全冒険者を一か所に集めた。
俺の作戦は悪魔を生き埋めにして俺達だけがテレポートで逃げる!これなら戦わずして勝てる!
「待テ、貴様ラ逃ゲル気カ?冒険者ダロ?プライド無イノカ?卑怯ダゾ!戦エ戦エヨ!お前ラ待テ!頼ム俺モ連レテ行ッテクレ」
瓦礫に埋もれ倒れている悪魔は切迫した顔で、必死に手を伸ばし助けを求めて来た。
「仕方ねえな……」
「助ケテ……クレル……ノカ?」
絶望で切迫した悪魔の表情は、一筋の希望で緩んだ。
「嘘だよ!誰がお前なんか助けるかよ、このブァ~~カ‼フハハハハ!テレポート!」
その場から俺達の姿は消えた。その一言で悪魔の顔は黒く染まった。
「ウアアアアアアアア‼」
悪魔は絶望の中崩れ落ちて来る天井に埋もれた。
俺達の姿はダンジョン入口に現れた。
「何とか……助かった……」
和は安心し手その場に崩れ落ちた。俺もほっと胸を撫でおろし倒れこんだ。そして『ボゴン‼』と大きな音と共にダンジョンがあった場所の地面が二メートルほど沈み大きなくぼ地となった。
突如現れた俺達に気が付き、今朝ここまで案内してくれたギルド受付嬢が駆け寄ってきた。
「何があったんだすか、何故ダンジョンが崩壊したんだすか?」
「それは……」
「財宝部屋に悪魔がいてその悪魔がどうせやられるくらいならと自爆したんですよ」
答えようとしたレベッカの口を塞いで答えた。
素直に倒せそうに無かったから逃げるためにダイナマイトで天井を崩壊させたなんて言ったら大変だ。ダンジョンなんて言ってしまえば歴史的な文化遺産そんな価値あるものを壊したとなったら莫大な賠償金を支払わなければなくなる!そんなのは嫌だ!
「そうでしたか……、それは大変でしたね事後処理はこちらで致しますので皆さん馬車に乗ってください。報酬はギルドにて支払います。」
そう言い残して忙しそうに彼女は走り去っていった。疲れ果てた俺達冒険者はすぐに馬車に向かった。
今回も何とか上手くいったな……。
「これが俺達のか…」
指定されていた馬車を指差して言った。馬車に足を掛けるとギシッ…と、きしむ音がした。そして馬車の中にはお腹いっぱいになるほど見た顔がいた。
「なんでまたお前らがいるんだよ……」
ハァ~、最悪だ。
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