第33話 最悪の親方じゃねぇか‼
俺は東条屑。喋るハムスターを飼い主に返すべくカガクの国にやってきた。そして遂に飼い主が俺達の家に尋ねてきたがそれは偽物で、正体は魔王軍幹部ジャイアントスライムのイートだった。そしてイートに勝てる哲也さんは奇襲で飲み込まれ、紫苑姉さんは俺のことをからかうことに意識を向けていたためイートに飲み込まれた。
辺りは瓦礫で溢れかえり、空は雲に飲み込まれている。まさにこの世の終わりのような景色だ。
「ちょっと屑どうするの⁉お姉ちゃんまでやられちゃったし、もうイートを倒せないわよ⁉」
絶望の淵に置かれた詩織は俺に尋ねて来た。
「今すぐにでも逃げたい」
「そんな敵を討とうとは思わないのですか⁉私は一人でも戦いますよ、冒険者として‼」
レベッカは俺達に頑固たる決意の意思表明をした。
「安心しろ、元々そのつもりだ。普段の俺達なら逃げるところだが、今回は哲也さんと紫苑姉さんが捕まってる。いつも通りやられたら、相手が泣いて謝るまで復讐する!」
「屑さん……」
「レベッカちゃん当たり前でしょ?二人とも絶対に助けるわ。」
「そこだ、今回の勝機はそこにある。俺達はイートを倒さなくても、二人のうちどちらかを助けたら、そのどちらかにイートを倒してもらえばいい。」
「それもそうですね……って、あー‼」
レベッカはイートを指差し、わなわなと震えて驚いた。
「どうしたんだ?……あー‼」
「ハハハハ!驚いたか⁉もうこいつに用は無いからな!」
俺達が見たもの、それは飲み込まれていた哲也さんがイートによって消化されて骨だけとなっていたところだった。
「万が一っ!あのペチャパイ二号が強かった場合に向けて盾のために残しておいたがもう必要ないので食わせてもらった!」
随分と嬉しそうにイートが言った。それもそうだろう、こいつはずっと哲也さんに殺されない程度に切られていたのだから。
「ちょっと屑、親父が殺られちゃったんだけどどうするの⁉」
「哲也さんのことは……もう、しょうがない。こうなったら、紫苑姉さんだけでも絶対助ける‼」
不安そうな詩織の質問に俺がキッパリ答えた。
それにそもそも、魔王を討伐した哲也さんは女神に一つだけ願い事を叶えてもらえる。だがこのことは黙っておこう、言ったら詩織から緊張感が抜けそうだ。
「ハハハハ!安心しろ!ペチャパイ二号は可愛いのでそう簡単に殺しはせん!カワイ子ちゃんなのでいつも通り、服だけを溶かしてやる。」
「気持ち悪いな、この変態カスライムが‼」
「どうしたらイートを討伐できるのでしょうか?」
「大丈夫や、ここは闇魔法でお馴染みカガクの国や、すぐに闇魔法の使い手が助っ人に来てくれるはずやで」
弱気になっているレベッカの質問にハムスターが答えた。
「その通りっ!闇魔法の使い手が助けに来たぞ‼コールドフレア‼この蒼炎に殺されたくなければさっさと消えな」
「そうよ、逃げなければ殺すわよ」
「忠告しておこう、俺達三人には絶対に勝てん!」
そうして民家の屋根の上に突如現れた三人組の魔法使いは、蒼炎を見せびらかした。
あれが、炎なのに氷のように冷たいという闇魔法か。
「ぐっ、コールドフレアか…確かに相性は最悪だな。」
イートは撤退するか否か苦悩した。
「なにやってんねん!さっさと倒さんかい!」
レベッカの肩に移動したハムスターは随分と強い口調で言った。
「うるせぇ‼」
生意気なハムスターの指示にありえないほど男は憤慨した。
なんだ?何であんなに怒ってるんだ?テレパシー
『このコールドフレアで倒せる訳ないだろ‼ただの炎色反応なんだから‼』
炎色反応ォ⁉ふざけんな、この国の名物は紛い物の詐欺商品じゃねぇか‼結局俺達がやらなければ紫苑姉さん達を助けられないのかよ。
「やるぞ、お前ら」
覚悟を決めた俺は戦闘態勢に入った。
「え?何であいつらが倒してくれるんじゃないの?」
「あいつらのコールドフレアはただの炎色反応だ…」
「ハァァ⁉この国は詐欺師だらけなの⁉ゴミじゃないの⁉」
「屑さん作戦はあるのですか?」
「ある」
あるにはあるが、しかしこれを言ったらレベッカショックだろうなぁ~言いずらいな。
「作戦は詩織がバフを掛けて五秒間真っすぐ走りイートとすれ違う度にイートを斬る。そしてより多くすれ違えるように俺がテレポートで何度も詩織と瞬間移動する。」
俺は指を前後左右に移動させる分かりやすいジェスチャーをした。
「私は何をしたらよいのですか?」
言えない!何もしなくていいよ、何て到底言えない!覚悟を決めた人に対してあまりに失礼だ。
「えー…っと、そうだなぁ~。クガの面倒を見ておいてくれ」
その場に横たわっているクガを指差し指示した。
「分かりました」
「バフが解けたら私何もできなくなるし、今回は特別に治してあげるわ。コンディションリカバリー」
「うぅ」
詩織の魔法でクガは気を取り戻した。
「よし、やるぞ」
「今回だけだからね、イート以外の魔王軍幹部とは戦わないからね」
「安心してください、イート以外に魔王軍幹部はいません」
「それなら良かったわ、ステータスプラス!」
机の上に残された哲也さんの剣を手に取った。そして自身に掛けたバフ魔法で俺と詩織のステータスが跳ね上がり、走り出した。
目の前に立ちふさがるイートの体に剣で切り刻み大穴を開けながら真っすぐ走り抜けた。
「テレポート」
走り抜けた詩織と共にテレポートして再び詩織の目の前にイートが来るように移動した。
五秒、詩織は五秒間しか戦えない。だから五秒でイートを討伐する!
「レベッカ頼む」
「分かりました」
「テレポート」
クソ、体積はどんどん減っているはずなのに…
「ほらほら、子猫ちゃん俺の胸に飛び込んでこいよ!」
あの変態スライムに全然応えてない‼研究所でスライムに痛覚が無いことは理解してたが、やはり手ごたえが無いと不安だな。俺にも何か出来ないか?何か…何か…
「懐かしのこれで止めてあげよう、スーパーカウンター!」
やばい、あの技は前に詩織の攻撃を跳ね返した技だ。俺が何とかしないと、でも今の詩織に近づけば間違えて斬られそうだ。何か…何か…でないと紫苑姉さんが……紫苑姉さん?そうか、これだ‼
「ソルト‼」
手の中に作った野球ボール程の大きさの塩の玉を投げ飛ばした。塩の玉は詩織を追い越して先にイートに衝突した。
「無駄だ‼男はすっこんでろ!俺はそこのペチャパイ一号と遊んでいるんだよ‼」
「誰がペチャパイ一号よ‼」
詩織は怒りに身を任せイートの体に今までよりも大きな穴を切り開いた。
「な、何ぃ⁉」
破られないと思っていたスーパーカウンターを破られイートは驚きを隠せなかった。
「お前のスーパーカウンターは一部分しか守れないんだろ⁉前回の戦闘から分かってんだよ、だから事前に攻撃して場所をずらしたんだよ!バカ‼」
逆上を誘おうと中指を突き立てて俺は言った。
「くっ、貴様ァ‼」
「あと少しだ、あと少しで紫苑姉さんの体が出るぞ」
詩織の頑張りで体積が小さくなったイートの体から紫苑姉さんが零れ落ちそうになっていた。
「助けるから後は何とかしてよね、お姉ちゃん!」
紫苑さんに向かって詩織は一直線に飛び上がった。
よしっ、これで助かる!
「無駄だァ‼」
紫苑姉さんを体の中に再びイートは自身の中心に引っ張り込めた。
「親父!」
詩織の顔に一瞬芽生えた希望が再び絶望へと戻った。
「危ない、危ない。体積が減って取り逃してしまうところだった。」
「あと少しだったのに……‼」
「やはり、当初の目的を優先しよう」
「当初の目的?」
「ああ、俺が何故この国に来たのか?それはこの国に捕えられている我が同胞を吸収し絶対の力を手に入れるためだァ‼」
研究所の咆哮からイートの二倍ほどの大きさのスライムがイートに向かって一直線上に飛んできた。そしてイートは、それを飲み込んだ。そのせいでイートの体は高層ビルをはるかに上回る大きさとなった。
「これでこの俺が世界一だァァ‼」
世界最強になったイートは大地が震えるほどの咆哮を上げた。
やばい、折角詩織があいつの体積を小さくしたのに…またやり直しか。
「屑、どうするの?ハァ…ハァ…私バフ切れちゃったんだけど」
詩織は息を切らしその場に倒れている。
まじか……、もう終わりだ。俺達の負けだ。
希望を完全に失った俺と詩織の顔は絶望に埋め尽くされていた。
「結局二人を助けられなかった…」
「親父、お姉ちゃん…」
そこからは走馬灯が頭の中を駆け巡り、絶望が走馬灯を壊していった。
その場に一人の男が現れた。
「詩織たん、どういう状況でごわすか⁉」
その男はブタマンだった。そしてブタマンは大勢の力士を連れていた。
「今?見て分かんない⁉親父とお姉ちゃんがイートに飲み込まれて、助けられなくて…絶望してんのよ‼」
「でも、これだけ沢山の力士がいたらまだ手はあるはずでごわすよ」
「無いから絶望してんのよ」
沢山の力士……?
「詩織さん諦めないで下さい!最後まで諦めずに紫苑姉さんと紫苑さんを助けましょうよ‼」
「でも……私以上に戦える人間なんてこの場にいないでしょ?もう無理よ」
あの腐れロリコンの詩織の心はベキベキに折れており、普段溺愛しているレベッカの声でも心が動かなかった。
「その通りだ!物理攻撃の効かない俺に対して、塩を生み出す、投げ飛ばすしか無い人間が何人増えようと何の意味も無い」
塩を生み出す……投げ飛ばす……意味がない?
俺はそのとき紫苑姉さんの言葉を思い出した。
『私は便利だと思うがね』その言葉が脳内に響いた。そしてこれまでのことを思い返した。
「それだぁぁぁ‼」
「え?どうしたの?壊れた?絶望で壊れちゃったの?」
詩織は引き気味で尋ねてきた。
「違うわ、お前と一緒にするな!俺の考えた作戦それは、お前らの協力が必要だブタマン達。」
「任せて欲しいでごわす!」
「よし、作戦を伝えるテレパシー」
俺のスキルで作戦が全員の頭の中に流れた。
「これならいけるわ」
絶望で真っ黒に染まっていた詩織の顔が希望で輝いた。
「本当にそうなのですか?」
「ああ!ブタマン達任せたぞ」
と、拳をブタマンに向けた。
「任せて欲しいでごわす」
覚悟のこもった拳で俺とグータッチをした。
「俺達も信じてくれよ、モテねえ親方の恋愛を成就させてくれたこと心の底から感謝してるからよ」
「ああ、毎日毎日鍋の中に鼻水こぼして困ってたんだ、挙句の果てに見学に来たマネージャーには『柱稽古してみないでごわすか?私の股には立派な大黒柱があるでごわすよ』」
キッモ‼最悪の親方じゃねえか‼俺は、こんなやつを信用して良かったのか?
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